12話 黒い少女
『パキイィィッッ』
「っ!?」
魔法を発動しようとした瞬間、光が俺自身を包み黒い靄を消し飛ばした。
「……な、に?」
そして靄が消えたと同時に、思考がクリアになった。
俺は……一体何……を?
「――――運がいいわね、貴方」
「誰だ!!?」
背後からかけられた声に、俺は動揺し警戒を顕にした。
誰も……いない?
けれど、見据えた先には誰も居なかった。
確かに声がした筈なのに、その姿は見えない。
「さぁ? かつては、それなりのものであったけれど……今の私は奪われてしまったから……強いていうのなら、何者でもないわ」
少女の声がする。
恐らく俺と同じ年頃の、幼い少女の声が――
コツリ、コツリと俺との距離を縮めていく。
姿を持たない筈の少女は、コツリと足音を刻む度に形を成していった。
「……何をしに来た?」
コレは何だ?
何の為にコレは現れた?
この幼い少女の声を発しているモノは、決して人間ではないだろう。
この化け物が現れたのは、決して偶然ではない。
何故今この時に、俺の前に現れたのか。
「何を? ……そう、ね。奪われたものを取り戻しに……かしら? 貴方には、感謝しているのよ? 貴方の魔力で、私は長い長い眠りから目覚めた」
クスクスと、少女は笑みを溢しながら言った。
そして俺との距離が後一歩にまで近付いたその時、少女の全貌が露になった。
少女は、何処もかしこも黒かった。
漆黒の髪は地面につく程に長く、俺を見詰めるその瞳も漆黒であった。
おまけに身に纏っている服や、肌の色まで黒いのだから、異様と言っても差し支えないだろう。
「……どうでもいい。失せろ」
俺は数歩後ろに下がり、黒い少女と距離を置く。
俺にはやるべき事がある。
コレに構っている暇なんてない。
「随分、ツレないのね? もう少し興味を持ってくれてもいいんじゃないかしら? 私、貴方の望みの役に立つわよ?」
黒い少女は不敵に笑う。
この場所は血の臭いに充ちているというのに、コロコロと笑いどこまでも楽しそうだ。
「望み? お前に俺の望みが分かるって言うのか?」
「えぇ、復讐、でしょう? 貴方の望みは。貴方の望む首と私の目的は一致するのよ――だから」
黒い少女は妖艶に微笑むと、俺との距離を一気に縮め俺の頬に手を当てた。
「手を組みましょう? 私と貴方で、あの子を壊すの」
その一瞬、今まで不敵に笑っていた少女の表情に影が落ちる。
その一点の光さえ通さない、漆黒の瞳の中に確かな憎悪が浮かぶ。
得体の知れない黒い少女。
きっとまともな奴は、この手を取ることはないのだろう。
けれど―――
「……いいだろう」
俺はその手を取ることにした。
この手を取ることで、俺は世界を破滅に導く事になるかもしれない。
でも、それでも、俺の中で確信があった。
コレを利用すれば、俺の望みは果たされると。
「例え世界が滅ぶことになっても、俺は復讐を遂げる」
母様達を奪った奴に、地獄のような苦しみを――
タグにも入れときましたが念の為、もう一度。
この話に恋愛要素はありません!