寒波になんか言う
「ねえ……マーくん……」
「マーくんって呼ぶのやめ……ユーさん元気なくない?」
「寒いから……大変に寒いから……」
「ほんと勇者弱いな」
「同じお布団にこもってる魔王に言われたくない……」
――捻くれた枝の森を彷徨いながら歩き続けると、やがてこれらが枯木と化し、汚毒が湧き出す沼が現れる。
漂う臭気は人界との関わりを拒絶し、剣と魔法の力を寄り集めても、立ち入ることはかなわなかった。
闇の眷属たる魔族にのみ愛されたその土地には、古城がそびえ立っている。この世界を脅かすに足る力を持つ魔王が住まう、最果ての城――。
その一室は、前回と同じようにスマホがあるし無線LANもあるし、魔王と勇者が寝転がるお布団だってある。
というか、前回からまだお布団を出ていない。
「布団そっちに引っ張られすぎて、俺のぶん足りなくなってるぞ、ユーさん」
「お布団……お布団が足りないのよマーくん……。寒い……。お布団よこせ……」
「欲にまみれた人間の醜さ出てる」
「あなた世界の半分くれるって言ったじゃない……? 半分……半分ちょうだい……」
「半分以上布団取ってるって。ユーさん女の子なんだから俺より布団少なくても足りるだろ……! あっ、足が布団から出たじゃないか……? 何これ寒い……寒さで死ぬ……!」
「魔王を倒したわ……!」
「経験値もらえないやつだからなこれ……!」
「何かドロップはする……?」
「枕やるよ……!」
魔王の城はムダに広い。そこにぽつんとベッドがあって、二人で凍えている。寒いはずだ。
ましてや立地の問題もあって、日当たりも悪い。日当たりの良い南向きの窓の魔王の城というのもおかしいので、しょうがない。
「せめてカーテンを開けたいわよね……。少しは日光を取り込みたい……。この城暗い……」
「周りに何も建ってないのに日照権問題が発生しつつあるレベル……!」
「あのねマーくん、冬場は日照時間が減って、冬季うつ病というのにかかりやすくなるそうよ」
「この寒さに更にメンタル攻撃まで付けてくるの……? 二重バステだな。高位魔法だ」
「高位魔法じゃなくて、冬よね」
「冬こそがこの魔王を倒す真の勇者か! 寒さで死ぬ……!」
「魔王を倒したわ……! 今日二回目だわ……?」
「俺は……お布団に来ると何度でもエンカウントして倒せるタイプのボスか……?」
「このままだとわたしも死ぬわ……。冬強すぎよ、勇者と魔王皆殺しよこれ! HP不足!」
「ユーさん回復魔法くれよ。あとお布団もう少し俺の方にちょうだいってさっきから言ってるだろ」
「冬の寒さに回復魔法は効かないのよ。でもセロトニンが冬季うつには効果的だと聞くわ! 聞くのだわー!!!」
「大声出して寒さ紛らわそうとしてるだろお前」
「だわわー!!」
ユーさんは変なテンションのスイッチが入ったらしく、そのままぐるりとお布団を巻き込んで寝転がった。
魔王のお布団はみんな奪われた。これでは完全死亡だ。寒いので。
「ちょおっ、まじで全部取るな!! ユーサン、ファッキンコールド!」
「エセ外人みたいなしゃべり方をしても無駄よ、マーくん。いいかしら、あなたはカーテンを開けて光をこの世界に取り戻す役割を与えられたのよ」
「勇者がやるやつだろそれ……!」
「わたしは寒いから無理だわ。この世界に転生したとき、勇者としての力と、冷え性としての力を、共に授けられたから……」
「イイカラオフトンニ、イレテクレヨー! ヘイ、ユー! ユーサーン! マイサン!」
「マイサンじゃないわ。ねえ、冬季うつ病に効果をもたらすセロトニンは、バナナで摂取が可能とも聞くわよ。あなたは世界に光をもたらした上に、わたしにバナナをもたらす役割も与えられたの」
「ベッドでバナナとか、ユーさんまたそういう話? 女の子がそういう話はするなってこないだも」
「……」
「無視やめなよ。すっぽり布団に潜り込んだじゃん」
――現代知識を駆使してその玉座に君臨するに至った魔王。これに対抗するべく、現代から転生者として召喚された勇者は、魔王の城に決戦を挑みに向かった。
それから数年。
再び人界に戻ってくることはなかったという。
その理由を知るものは、あまりいない。
「ねえマーくん」
「あ、顔出てきた」
「現代世界の方も寒波やばいんだって。どこの世界も寒くて冬は怖いわ。お布団の世界に転生したいものよねスヤァ……」
「寝るなよ! バナナねじ込むぞ」
「むしろ食べたいから早く取ってきて。そしたらこの世界の半分をあなたにあげるわ」
「寒波が……勇者を魔王に生まれ変わらせてるじゃないか……! たとえ俺が寒さに負けても、こうして第二第三の魔王が生まれるのか」
「おなかすいたからバナナ早く」
「……ホットミルクはレンチンでいいか?」
「よっ、良かろう……! 何が望みだ貴様」
「その言動からして、ユーさんすぐにでも魔王になれそうだな。じゃあお布団に俺も入れてくれ、それが望みだ」
「ん。あっためとく……」




