お寿司の社長になんか言う
「ねえマーくん」
「マーくんって呼ぶのやめろよユーさん」
「これ見てほら、今話題になってるの。お寿司屋さんの社長さんが、海賊被害をゼロにしたんだって」
「なにそれ……? チート無双のコックさんの話……?」
「映画じゃなくて、現実の話! やり方も力ずくじゃなくて、ほら、書いてあるでしょ」
「へー。海賊に魚の捕り方を教えて、船も与えて。すげーなー」
――捻くれた枝の森を彷徨いながら歩き続けると、やがてこれらが枯木と化し、汚毒が湧き出す沼が現れる。
漂う臭気は人界との関わりを拒絶し、剣と魔法の力を寄り集めても、立ち入ることはかなわなかった。
闇の眷属たる魔族にのみ愛されたその土地には、古城がそびえ立っている。この世界を脅かすに足る力を持つ魔王が住まう、最果ての城――。
その一室は、スマホがあるし無線LANもあるし、魔王と勇者が寝転がるお布団だってある。
「そもそもこの社長さん、誰も海賊と話をしてないってことを知って、ツテを頼って会いに行った……って辺りが、かなりすごいな」
「ツテを頼ると海賊に会えるお寿司屋さんってことよね」
「顔広いなあ。どこの海域に放り出されてもマグロ競り落としそう」
「こっちに来て海運業無双とかやってくれないかしらね。この人なら、マグロ成り上がり戦記行けるんじゃないかしら」
「そうしたらお寿司いっぱい食べられるから俺もうれしいな……」
「マーくんは魚、何が一番好きだっけ?」
「ウナギ大好物だよ俺」
「淡水魚……よね。この人が来ても恩恵あるかしら」
そろそろスマホをいじる指先が辛くなってきた勇者さん、頭から布団をかぶって丸まることに決めたようだ。
魔王くんは思い出したように「それと、アナゴも!」と言っているけれど、お布団越しなのであまり勇者さんの耳に届いていない。
なので魔王くん、一緒にお布団を頭からかぶって、並んで丸まることにした。
「背中くっついてあったかい」
「俺もあったかい」
「ねえマーくん。お寿司の話なんだけど」
「お寿司の話好きだなお前。今日はお寿司三昧か」
「ねえ、この社長さんと同じような方法でさ、やれないのかしら。あなたもやればいいじゃない」
「やればいいって、何を?」
「海の方にいる、魔王軍的なモンスターにさ。船を与えて漁を教えてお魚捕らせればいいじゃない」
「またそうやって異世界転生系は、すーぐ現代知識でアイデア革命起こそうとしてくるよな」
「だって、それでお寿司食べられるならいいでしょ。パクれるアイデアはパクろうよ」
「人のスキル盗むことにも躊躇ないよなお前」
お布団被り状態が息苦しくなって、魔王くんは顔を出す。
布団の外に顔を出すと寒い。というかこの魔王の城が全体に寒い。暖房が行き届いていない。
「お寿司目当てのモンスター漁船事業、やらないのマーくん」
「何、布団の中で喋ってもよく聞こえない」
「聞こえてるくせに。魔王イヤーは地獄耳でしょ」
「あのねえユーさん。モンスターってのは、教えてもそういうことが出来るわけじゃないの。人間と違うんだから。あいつら基本、船は壊すもんだと思ってるからね。本能的に」
「乗るとか動かすとかの発想がないんだ」
「そうだよ。俺だってさ、マーマンやクラーケンがウナギ捕れるなら捕らせてるよ」
「そもそもウナギは淡水魚だってば」
「じゃあアナゴ」
「なんか細長いの好きなの? マーくん? ……魔王なりの、触手的な……あれ?」
「ユーさん女の子なんだからベッドでそういうこと言うのやめろよ」
「くっ、こんなアナゴに」
「やめろ」
――現代知識を駆使してその玉座に君臨するに至った魔王。これに対抗するべく、現代から転生者として召喚された勇者は、魔王の城に決戦を挑みに向かった。
それから数年。
再び人界に戻ってくることはなかったという。
その理由を知るものは、あまりいない。
「ねえマーくん、今調べてたらね。この社長さんが海賊の一味になっているだけっていう説もあるみたい。政府の方には目をつけられてるよー、的な」
「ネットにはいろんな説があるな」
「ネットの海、広大よね。海域ごとにいろんな視野があるわ」
「フッ……まあ俺に言わせれば、お前たち人間はいつもそうだがな……!」
「何か始まった」
「見方を変えれば海賊の救世主……だが別の見方をすれば新たな海賊の首領……! そんな単純な構造にも気付かず一喜一憂、俺やお前のように、正義や、悪など、所詮は個人が掲げる、便宜上の」
「適当なこと言って凄みながら布団引っ張らないで! 半分はわたしのなんだから!」
「……ユーさんさ。最初の頃と違って、こういう話に動揺しなくなったよな」
「わたしだって慣れるわよ、一緒にいれば」
「あの頃は初々しかったのになー。会うなり『観念するのよ、魔王!』って」
「うるさい! 倒すぞ、もう!」




