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解散騒動アイドル謝罪になんか言う

「ねえマーくん」

「マーくんって呼ぶのやめろよユーさん」

「マーくん見てるこれ何、テレビ何やってんのよ」

「解散するとかしないとかの話らしいよ。超話題だから見てみた。生放送なんだって」

「へー。何、解散するの? しないの? お通夜みたいなムードだから、解散する感じかしら?」

「よくわかんないけどしない方向らしい」

「しないの?? これで?? ちょっとさあ、ネット超荒れてるわよ。重くてうまくつながらない」


 ――捻くれた枝の森を彷徨いながら歩き続けると、やがてこれらが枯木と化し、汚毒が湧き出す沼が現れる。

 漂う臭気は人界との関わりを拒絶し、剣と魔法の力を寄り集めても、立ち入ることはかなわなかった。

 闇の眷属たる魔族にのみ愛されたその土地には、古城がそびえ立っている。この世界を脅かすに足る力を持つ魔王が住まう、最果ての城――。

 その一室は、テレビが見れるしネットもつながっているし、魔王と勇者が共にあたたまるコタツだってある。


「今日寒いわね。コタツこれ電源入ってるマーくん?」

「入ってる。マーくんって呼ぶのやめてユーさん」

「あなたがわたしのこと、ユーさんって呼ぶのやめたらやめるわよ」

「……あのさ、ユーさん」

「やめないのねマーくん」

「このさ、解散する人たちさ」

「しないのよね?」

「そっか、しないんだったな。この解散しない人たちさ、お前に似てるよね」

「似てないわよ!? わたしは女でしょ、この人たちみんな男だし」

「そうじゃなくて、なんとなく異世界転生して勇者とかさ、向いてそうだろ。特にリーダーの人とか」

「リーダーの人? 歌が下手な人のこと?」


 勇者さんは指先が冷え性のため、コタツだけでは手が温まりきらず、隣の魔王くんのローブに手をくるんでいた。

 そのままマウスをカチカチといじり、ネットの検索結果を表示する。


「ほら、リーダーはこの人よ。歌が下手な人。歌が下手な人っていう呼び方も悪いけど、ネットで調べると、サジェストが、ね?」

「あー、そっか。俺が言ってるのはこっちの人じゃないな。この歌が下手な人はさあ、異世界転生しても勇者とかじゃないよね。内政系でしょ。そういうのうまそう」

「現代知識で国政回していく人よね」

「回しがうまくて重宝されるタイプだ」

「それ完全に司会業だわ。異世界MC」

「まあいいや、話戻そう。俺が言ってたのは真ん中のほら、長髪の」

「あー、そうよね。この人は絶対勇者よねー。チートスキルで無双が似合うわよね」

「チートスキルもらえなかったら神様に『ちょ、待てよ!』って」

「やめてそれもう、それ、急に。お茶吹くとこだったでしょ!」

「『ちょ、待てよ!』」

「やめてマジで、似てないのがツボに入るから。それでいて魔力でエフェクトつけてくるの卑怯」

「勇者弱いな」

「うるさいまじで」


 勇者さんは魔王くんから目をそらして、PCモニターに集中する。

 ところがそこには次から次に、解散騒動絡みの良質のネタが飛び交っていたものだから、結局笑いをこらえきれなかったのだった。


「何、そんな面白いのあった? ネットも盛り上がってんだな」

「これ見てよマーくん、あの勇者っぽい長髪の人が、タイムリープしてるって設定で盛り上がってて、ほら」

「俺らが異世界転生とか言ってる間に、ネットではタイムリープかよ。なんか似たようなことみんな考えるもんだな」

「あ、何それ待って、マーくん」

「おっ、『ちょ、待てよ』にかぶせてきた」

「かぶせとかじゃないし! じゃなくて、それ!」


 勇者さんが咎める先は、魔王くんの両手の中。

 右と左の手のひらを擦り合わせて、強大な魔力を集中し破滅の呪文を作っているみたいにも見えたけど、そうじゃない。

 両手でポテチの袋を掴んで、開けているところだったのだ。もう開けた。


「いつの間にポテチ開けてんのよ!」

「だってうまいじゃん。テレビとネットしながらポテチうまいでしょ」

「貴重な現代品なんだから、そんな風に何かのついでっぽく食べないで! しかもそれもう売ってないレモン塩のやつだよ」

「だってさあ、そんな貴重がって食べるより、なんとなく食べるほうがうまいでしょ、ポテチは。ユーさんも食べる?」

「食べるけど……。じゃあ飲み物用意しないと」

「このお茶でいいんじゃないの。まだ出るでしょ」

「出涸らしもいいところよ、これ。何番煎じだと思ってるのよ」

「そうだけど、合わせるものが変われば出涸らしでもまだ味するって」

「そうかなあ……わたし自信ないわ。飲み物取ってくる」


 煎じすぎて元の味がだいぶ少なくなってきたお茶に恐れをなし、意を決して勇者さんは、台所へと歩みを進めた。


「この寒さで率先してコタツを立つ! やっぱ勇者はちげえなあ」

「茶化すな! 倒すぞ、この魔王! もう」

「俺チューハイ」

「あなたそっちの方向で飲むの? ……だったらわたしも何かいこっかな……ポテチに合うの、あったかしら」

「果実酒かなんかあっただろ」

「こないだ飲みきったわよ」

「タイムリープしてもう一回取ってくれば?」

「空間は飛び越えられても時空は無理! わたしは異世界転生系なんだから。タイムリープが出来るのはこのテレビの長髪の人よ!」

「もうタイムリープ出来ることにされてるよね、この人。俺らの間で」

「だってネットでそう言ってるから」

「ネットは神だよなあ」

「神よね……。魔王より勇者より、神よね……強いのは」

「ご利益ありすぎだよ、この神」


 ――現代知識を駆使してその玉座に君臨するに至った魔王。これに対抗するべく、現代から転生者として召喚された勇者は、魔王の城に決戦を挑みに向かった。

 それから数年。

 再び人界に戻ってくることはなかったという。

 その理由を知るものは、あまりいない。

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