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御魂の歩みは大樹と共に(みたまのあゆみはたいじゅとともに)  作者: 唄響 奏風
第一部 御魂の神樹(改)
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第一章 「御魂世界事情」   第八話 ~出会い~

 話は変わる。二人の女の子の昔話へと。

第八話 ~出会い~



 私の名前は阿部聖奈あべ せな。上下含めて漢字でも平仮名でも4文字の名前。あまり公言しないけど、私はこの名前があまり気に入っていない。身長162センチ、体重……は別にどうでもいい。血液型はB型。女性。誕生日は2月16日、水瓶座。運動神経はそんなにいい方ではないけれど、勉強はできる方だ。

 御魂高1年。入学したてのピッカピカの1年生である。まだ新しい香りが残っている綺麗な制服を着て、今日も家へと下校する。

 高校生になったからといって、特に変わったことはない。私は昔から恥ずかしがり屋で、優しく声を掛けてきてくれる人相手に強く当たってしまう性格だった。要はツンツンしてしまうのである。ツンデレだと言われたこともあるけれど、余程のことがない限りデレたりはしないので、結局、ツンツンだっただけである。

 小学校の時、そんないじめられっ子だった私を助けてくれたのは、同じく照れ屋で仲間の輪に入れずにいた女の子だった。


 小学校低学年だった頃、クラスの男子たちにいじめられた後の話。

「―――あ、あのぅ」

向き返るとそこには綺麗な黒髪の女の子。

「何よ。何か私に言いたいことでもあるの?」

「ひっ!! ご、ごめんなさいぃいいいっ!!」

……最初はこんな感じだった。私はとにかく誰でも近付いてきた人を突き放した。軽い気持ちで話しかけられたくなかった。慰めの言葉なんか聞きたくなかったから。それならまだいじめっ子の悪口の方がかわいい。本当の優しさなんていうものは無いものと思い込んでいた。


 あの子に会うまでは、ずっとそう思っていた。


「アンタいっつも私を見てるわよね? キモいんだけど? なんなのよ」

「……へへっ。なんでもないですよ」

「……? はぁ……理解できないわ。アンタみたいな子の考えてることは……」

微笑んだ女の子に、私は息を吐いた。

 その子は毎日のように私の近くでただ静かにしていた。私が話しかけると少し嬉しそうに返事をするぐらいで、害はなさそうだったので私もずっとそこに居ることを許していた。

 その子はたまに私の近くに居なかった。そして次に気付くとそこに居て、どこか怪我をしては帰ってきていた。飼い犬にでも噛まれていたのかもしれない。トロそうだし。



「―――ほれ。パンだぞチャチャ」

 学校帰り、一匹の猫に餌をあげる。野良猫らしかったが、それは私の日課だった。クラスの奴らに私がパンを持ち帰るところを見られた日には、パンを奪われたり捨てられたりされたことも多々あったが、それでも守りきった時は汚れたパンをこの猫……チャチャにあげていた。ちなみに毛が綺麗な茶色だからチャチャ。私が付けた。

「最近ね……クラスの子たちがあんまり私に構わなくなってきたの。いじめられて怪我するのは嫌だったし……何もされないならそっちの方がいいよね、きっと」

 こんな調子で、その日一日の学校の出来事をなんとなくチャチャに話していた。猫みたいな動物になら素直に話せたから……逆に言えば、人と面と向かって話すことができなかったから……こうやって独り言のようにチャチャに聞かせてあげることしかできなかったんだ。



 ある日のこと、私は不可解な言葉を耳にすることになる。

「―――今日は”アイツ”になんて言って脅かしてやるの?」

「そうだなぁ……「聖奈の家に火でも付けて燃やしてやる」とか言えばそれっぽくなるんじゃね?」

登校時間、私の前を歩いていたのはいじめっ子主犯の男子とその取り巻きだった。……何の話をしていたのだろうか。聖奈というのはきっと私だ。なぜなら私のクラスには聖奈は一人だけだからだ。でも家に火でも付けて燃やしてやる? アイツになんて言って脅か…して……。


 ”アイツ”? って一体誰のことだろう。


 私は不思議に思いながら席に着く。するとそこにいつもの女の子が一定の距離を置いて居付く。目が合うと軽く微笑んで来るその顔は普段通りウザったい。……心なしか? 最近は顔に怪我をしている日が多い。

「……アンタのその傷って、誰かにやられてんの?」

すると女の子は珍しく慌てた声で言った。

「そ、そんなことないですよっ! 私、小さい時から何もないところで転んじゃうんです!」

「ふぅん……」



 ――――そう、私は気付かなかったんだ。当然その時も、そしてその後もずっと。




「チャチャ、ご飯だよ。ほら」

 小学5年生になった私……いじめはすっかり無くなっていた。それでも友達が居なかったのは、きっと私の性格の問題なんだと思う。何度もチャンスはあったはずなのに、最終的にはやっぱり突き放してしまった。

 今日も今日とて日課の餌やりをしていると。

「フニャー」

チャチャがこちらをジッと見つめてきた。ほとんど鳴いたりしないこの子がハッキリと声を出したのだ。餌をあげる時、ほんの小さく口を動かすくらいのこの子が……しっかりした主張を感じたのは初めてだったし、生き物にこうして見つめられるのも久しぶりの感覚だった。

「な、何よ? どうしたの?」

私は嬉しくもあったが、不安になったりもしてチャチャに顔を近付ける。……すると。

「フアッ!」

「きゃっ!!?」

チャチャは私の胸につけっぱなしになっていた名札を猫パンチ……落ちた後それを咥えてどこかへと走り出してしまう。私はそれを急いで追いかける。

「ちょっと! 待ちなさいってば! それは大切なものなのよっ! 返しなさいっ!」

チャチャからすればただの遊び心のつもりかもしれないけれど、私からすれば親のお金で買ってもらった大切なものだし、あれがなければ学校に行けない。胸の名札は付けるのが規則だったし、それを見た奴らがまたいじめてくるかもしれない。いじめ自体怖いわけじゃないけれどいじめられる原因を自ら作るのは絶対に嫌だった。

 ―――……一瞬だけ、一瞬だけ「学校に行かない理由になる」と思ってしまったけれど。昔から勉強ができた私はそれだけのためでも学校に行く理由があった。性格に問題があっても、そういう人間だって分かっていたとしても、頭の良いところだけは自分の長所として伸ばしたかった。いじめの原因になってもそれだけは手放すわけにはいかなかった。だからその思いはすぐに振り払った。


 追いかけ始めてからしばらくすると、チャチャの足取りは徐々に軽やかなステップから緩やかな……私が歩ける程度の速度まで落ち着いた。

「はぁ……はぁ。チャチャ……待ってよ……」

路地裏の行き止まりが近付く。すると奥の方から聞き慣れた声が聞こえてきた。


「―――大好きな聖奈ちゃん、殺されたくないんだよなぁ!!」


 間違いなく今のはいじめっ子主犯だ。先生の前ではとてつもなくいい子ぶって、影ではいじめ甲斐のある人間を殴っては蹴りを繰り返す大悪党だ。なぜかそんな奴の周りには仲間が沢山いて……。私は不平等なこの世を恨んだこともある。

「じゃあさぁ……それと同じぐらいの痛みをお前は味わってもいいってことだよなぁ!!!」

誰に向けて言った言葉なんだろう? 主犯の声とほんの少しの砂埃と誰かの身体に何かがぶつかるような騒々しい物音だけがそこにあった。

 私は静かにその現場に近付くことにした。チャチャも私に付いてきた。


 ―――――っ!!???


 主犯にいじめていた相手はよく知っている顔だった。そう。いつも私に微笑んできたあのウザったい顔だった。彼女は苦しそうに横たわっていた。

 主犯の声がさらに響き渡る。

「俺には全く分からないなぁ!! なんであんな変な奴を庇ったりしてるんだよバァーカ!! ずっと静かにしてりゃあお前も俺たちの仲間に入れてやったってのによぉ……「聖奈ちゃんの変わりに蹴られたい」? 「叩かれたい」? あっはっはっは!! ホントあんなこと言った時はビックリしたぜ!!!」


 ……ようやく私は気付いたのだった。あの時あの子が必死に隠そうと焦っていた感情の裏で、こんなやり取りが行われていたなんて……。


 私は止めに行こうと思ったけれど、そこで一つの疑問が頭を過ぎった。


 ―――もしこのまま私が知らないフリをしていれば、あの子がいじめられ続ける代わりに、私には友達ができるチャンスが増えるんじゃないだろうか。それなら、私が友達を作って大きな勢力になってからあの子を救い出せばいいんじゃないだろうか。そうすれば私もあの子も救われるんじゃないだろうか。


 しかしその疑問を吹き飛ばしてくれたのは、これもまた聞き慣れた細い声だった。数年間ずっと静かに……確かに付いて回っていた声……いつの間にか安心感へと転化していた”うすのろ”な声……。


――――「聖奈ちゃんは……あなたが思ってる程……変な子なんかじゃない……です…」


「はぁ? まだお前そんなこと言ってんのかよ!! まだ気付かねぇのか!! お前に言ってる脅しは全部俺の嘘なんだぜ? ただいじめられてる奴がアイツからお前になっただけなんだよぉ!!!」

 主犯男子の嗤いと咽び声が辺りを包み込んでいる。それを聞くとその女の子は少し微笑んだ。


「えへ……じゃあ、もう聖奈ちゃんはいじめられてないんですね……」


 なんで……どうしてそうまでして私のために笑っていられるの……? あんたの名前すらマトモに覚えようとしない私なんかのために……。


「あっはっはっは!!!! お前の態度は気に食わないけど、その分蹴ってやってるし俺は満足だよッ!! あっははははは!!!」

女の子は痛そうなお腹を抱えて倒れている。それでもなお微笑んでいる。そして蹴られている。


 さっき浮かんだことなんか、心の奥底からどうでもよくなった……そうしてふと、チャチャを見る。チャチャはジッと私を見つめていた。そして咥えていた名札を私の前に落とすと横に歩いて私に道を譲る。そしてまたこちらを見つめる……―――チャチャもまた、”それ”を望んでいるのかもしれなかった。


 目の前に落ちているのは「5年1組 阿部聖奈」と書かれた名札。先程の疑問といい、そこまで助けようとしてくれた女の子の名前を知らないことといい……なんて最悪な人間なんだろう……私は。


 もう私は迷うことを止めた。


 私は、自分の名札を思い切り踏んでからその足で走り出した。そしてもう何も考えなかった。


 ―――あの時流していた涙の意味も分からないままだったけれど、私は必死にそれまでの自分に抗ったんだ。主犯を野放しにしていたことも、あの子から逃げて友達を作ろうと考えてしまったことも、今まで気付いてあげられなかったことも……その全ての自分に向き合って、そして戦った。「新しい自分を探すために、阿部聖奈を一度汚す必要があるのだ」と……そう思った。




―――「チャチャ……来てくれたんだね……」

「アンタ……見てたの?」

「私はずうっと……聖奈ちゃんは優しい子だって……知ってました……から」

これで全てが終わったのかも、始まったのかも分からない。けれど今までのすれ違いも間違いもわだかまりも吹っ飛ばしたような、そんな爽快感が私にはあった。

「あーあ。バカすぎるわよ……。アンタの方がよっぽどお人好しで、ウザくて……。笑っちゃうぐらいに優しいわよ……」

「ふふっ……。……そう思いますか?」

「当たり前よ。よくもまぁずっとあんなことされて耐えていられたわね」

「身体は、強い方なんですよ……こう見えて」

「そういう問題じゃないわよ。女の子なんだから、傷とかそういうの気にしなさいよ」

「やっぱり優しいんですね、聖奈ちゃんは……♪」

「そ、そんなんじゃないわよっ!」

そう言うと女の子はボロボロになった身体の上半身を起こして、私に向き返る。

「……阿部聖奈さん」

「ななな、何よっ!!」

女の子は普段通り微笑む。静かに、暖かく……心から。


「初めまして……。私は、美珠紅葉です……。私とお友達に……なってくれませんか…?」


 私はまた、泣いていた。涙が溢れていた。そうなんだ……これが本当の優しさなんだな。


 ……涙と鼻水を袖で強く拭き取った後でできる限り強気で私はこう言い放つ。

「そんな改めて言われなくったって分かってるわよっ!! ふ、ふんっ! 友達にでもなんでも!! なってあげるわよっ!!! ……よ、よよ、よろ…しく……。紅葉…っ……!!」

その瞬間、紅葉は横に倒れた。

「ちょっと!! 紅葉!?」

無理していたのだろう。改めてボロボロになった姿を見ると、これだけの傷でよくマトモに私と話せていたなぁと、驚くのだった。



 こうして私は紅葉と友達になった。私の性格は結局のところ、全くと言っていいほど改善されなかったけど……紅葉のおかげで随分人と話せるようになったと思う。



 主犯の子は、生まれて初めて行った私の暴力によって、後日、転校することになった。今までいじめていた女の子に泣かされるのがよっぽどショックだったのだろうか。ボスがいなくなった後は、取り巻きも人をいじめることは無くなった。それどころか、取り巻きの中には次第にヒートアップする主犯に異を唱えた者も居たらしく(あの時主犯が一人だったこともそれで納得した)、私が行動を起こすにしろ起こさずにしろ……いじめは終わっていたようだった。でもあれがきっかけで紅葉と友達になれたことは素直に嬉しかった。


 あれが私にとって、自分で掴み取った初めての友情だった。とても大切で、かけがえのないもの。

 お疲れ様です! ありがとうございました!! これからもよろしくお願いします!!

 今週の話は阿部聖奈ちゃんと紅葉ちゃんの話ですね。いい話だー。なんて思いましたけど、現代社会では男子が女子にぶつかるような絵はないですよねー。僕の時代にはありましたよ。そんな女の子を助けたこともありますけど……。酷いことしてしまったこともあります。どちらかと言えば正義感の強い方の人間ではありましたが、かと言ってすべてが全て正義の名の下だったのかと問われれば殺されてもおかしくないかと。

 ゲフンゲフン。……来週も続きます聖奈過去編。宜しくお願い致します!!

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