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御魂の歩みは大樹と共に(みたまのあゆみはたいじゅとともに)  作者: 唄響 奏風
第一部 御魂の神樹(改)
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第一章 「御魂世界事情」   第二話 ~予兆~

 閲覧ありがとうございます!! 今週もよろしくお願いします!!

第二話 ~予兆~



 昨日はいろいろとあったせいで完全に調子が狂ってしまった。家族が相手の時はどうしてもツッコミ役に回されるので勘違いされることが多いが、この俺、甲賀大樹は元々大人しめな男性である。「人前では格好付けている」なんて思われたくないので先に言っておく。

「神社……こんなところにあったのか」

 御魂市の一番大きい通りの端の方に細い道があって、そこに入ってひたすらコンクリートの坂を登ると今度は道の脇に石積みの階段が見えてくる。それをさらに登っていくと、ようやく古びた鳥居が姿を現す。

 鳥居をくぐってから、俺は改めて辺りを見渡してみる。明らかに街から孤立した空間……というより完全に山の中である。向こうからクマがやってきても文句は言えない。歴史を感じるが、しっかりと掃除が行き届いているところを見ると、今でも沢山の人たちの祈願成就に貢献している神社なのは一目瞭然だった。

 昨日の話から得た俺の見解として、どうやらベランダに居た幽霊の正体はただの人間であるとのことだ。でも信じられるはずがない。女の子が4階から落ちて無傷なところとか特におかしい……いくら鍛えていたとしても足の骨が変な方向に折れ曲がるような、五接地回転法でも厳しいレベルのはずだ。

 そしてその人物はここで働いている? いや、神主と関係があるということは娘さんなのだろうか? それ以前にウチの親父がこんな小さな神社の神主と関係を持っていたことに俺は驚いた。


 ―――「ここ……御魂神樹神社はね、古くから縁結びで有名なんだ」


 俺の後ろから鳥居をくぐってきたのは、怪しげな茶髪の銀縁オレンジサングラスの男性だった。神社の礼装……関係者だろうか?

「君の雰囲気、どこか懐かしい気がするな。……名前を聞いてもいいかな?」

「甲賀です。甲賀大樹」

「甲賀? 御魂の姓ではないね」

「まぁ。……それであなたは?」

「ああ。失礼したね。俺は美珠圭司みたま けいし。ここの管理者、経営者。神主だよ」

美珠? なるほど、この人が親父の言ってた知り合いか。

「美珠さん、甲賀平治って人を知ってますか?」

「ふむ。高校の時の先輩に居たよ。というか、甲賀先輩には大変世話になったんだ。卒業後も俺の面倒をよく見てくれた。俺の恩人だね。あの人は―――」

あれ? この人鈍感なのか。俺がどんな気持ちで親父の名前を出したのか分かってない……。ここは普通「え? まさか君、甲賀先輩の息子かい!?」となる流れのはずだ。面倒だが言葉を付け足さないと次の話に進めないか。

「そうですか。俺はその「「甲賀平治(先輩)の息子です(かい!?)」」

なんだこの人めんどくさいな。そのタイミングで台詞被せてくんなよ。俺が言った後、美珠さんは急にサングラスの間から目を輝かせ始めた。さっきまで怪しい人オーラダダ漏れだったのに。多分だけど、この人は特定の人物の前でしか本音で語ってくれないタイプの人だ。俺が親父の息子だと言ったから本性を現したに違いない。

目を輝かせた美珠さんは俺の頭を雑に撫で回し始めた。やめろよぅ……酔うぅ…。

「そうかそうか!! 君があの甲賀先輩の息子さんか!!! 歳は!」

「15っす」

「今15ってことは今年度で16だね? ウチの紅葉と同い年じゃないかッ!!! どうして甲賀先輩はそういうことを教えてくれないかなぁ!! 分かっていればもっと前から娘を紹介してやれたのに!!」

「紅葉さんってのは、美珠さんの娘さんですか?」

「ハハ! 紅葉でいいよ!」

「いや、そういうのは本人が言わなきゃいけない言葉でしょ」

この人も本質はボケ担当か。疲れるからやめてほしいな。

「そうだよ。美珠紅葉。俺の自慢の娘だ! アッハッハ!!」

「はぁ。そうなんですか」

圧迫するほどの暑苦しい笑い……体格は少し細身だが、さすがはあの親父の後輩だ。

―――そこで俺は、何者かの視線に気付いた。……間違いない。今本堂の壁の向こうから俺の方を見ている人が居た! 慌てて振り返ったが誰もいない。でも絶対今見られていた!

「紅葉! おいで! この男は怪しい者じゃないんだ!」

……? 変だな、まるで俺が変質者みたいじゃないか。今日の俺、なんか変なところあるかな? 美珠さんの言葉によって恐る恐る本堂の向こうから歩いてくるのは「美珠さん家の紅葉ちゃん」こと美珠紅葉だ。……なるほどあれが美珠さんか……あれ? やれやれめんどいな。名前呼びで区別してやるか。

 紅葉は巫女姿だった。紅葉は圭司さんの後ろに半身ほど姿を隠し、俺にほんのちょっとだけ頭を下げた。

「……お、お父さん、この人は…?」

 何をオドオドしているんだこの子は。本当に俺が変質者だと思うのか? TPOは弁えている……はずだ。それが、同世代からそんな風に思われてるのか? そんなに怪しいか? ―――その問に対する答えはすぐに圭司さんが教えてくれた。

「ああ。すまんな。この子、かなり人見知りする子なんだ。初見だと、相手に対して半径5m以内に近付くだけでこうして挙動不審になる。極度のあがり症なんだよ」

「……きょ、挙動不審なんて……。お父さん……ヒドいよぉ」

 そういうことか。挙動不審は言いすぎだろ。そこまでキョドってはいないぞ? どちらかといえば「内気」って言葉の方が合ってる。そんな気がした。


 少々癖のある黒髪ロング……よく見るとアホ毛が緊張のあまりビンビンしていた。紫の瞳に、童顔だが完全な子供っぽさではない優しげな顔立ち。


 ―――似ている。というか、確かに昨日ベランダで見たのはこの子だ!


 「昨日俺の家のベランダで会いませんでしたか?」と聞きたい気持ちはあるが、父親の前だ。さすがにいきなり家って言うのは気が引ける。

「美珠さん昨日、俺と会わなかったかな? 俺は君のこと見た気がするんだけど」

「紅葉でいいって言ってるじゃないか!! 何を他人行儀してるんだい? 本来君たちはもっと仲が良くなくてはおかしいんだぞッ!!!」

圭司さんの台詞である。俺はにこやかに頭に血管マークを付けておく。

 そこへ少し遅れて紅葉から返事が帰ってきた。

「……ええと。あの…。会ったような……会ってないような……」

この子、父親の顔色を伺ってる? もしかすると返事によっては親に怒られる何かがあるのか? だとすると、悪いことをしてしまったな。

「あー……。いや、分からないようならいいよ。そんな大したことじゃないし」

「そ、そうですか……」

 俺は糸目で微笑む。……大したことなんだけどな。俺のこれから住む家において大変重大なことなんだけどな……!!

「今日は挨拶だけしに来たんです。ここの神主が親父の知り合いだって聞いたので」

「そうだったか! すまないね、君が御魂に来ることを前もって知っていれば俺から挨拶しに行ったのに。先輩も相変わらず必要な口数が少ないなぁ!!」

同感だ。必要なことはほとんど言わない。必要ないことばかり言うクセに!

「あはは。じゃあ俺はそろそろ……。また来ます」

「ふむ。またおいで! 今度は食事でも一緒しよう!」

「は、はぁ。分かりました」

圭司さんは紅葉の頭の上に手を置いて告げる。

「紅葉、大地君を下までお見送りしてあげなさい」

あ。ちょっと名前間違ってますよ神主さん。

「大樹です」

ノット大地。

「おっとこりゃ失礼! 大樹たいじゅ君!」

「漢字の読みで遊ぶんじゃないッ!!」

おっ、つい本音が出てしまった。

「ハッハッハ!! いいキャラしてるじゃないか! これからもよろしくねッ!」

よろしくしたくねぇなぁ……どうして親父の周りの人はこういうのが多いんだ。―――俺は何も言わずに回れ右して鳥居を再びくぐり石積み階段を下り始めた。後ろから紅葉がちょこちょこ付いてくる。最初はビクビクしているのかと思ったが、意外とそうでもない。俺の半径5m圏内に留まっている。

 特に話すこともなく下までたどり着いた時、紅葉がおもむろに口を開いた。

「あ、あの、そのです、ね。だ、大樹君」

へぇ。初めて話した相手を下の名前で呼べるだけの勇気をこの子は持っていたのか。……なんだか俺は感心してしまった。

「なに?」

とりあえず言っておこう、君の親父さんのせいで俺は君にどういう接し方をすればいいのかと……とても迷子している!

「あの、ええと。う~ん。ふ~むぅぅ、あの、ですね……」

「俺は別に何もしないから、安心してゆっくり話してみてくれ」

もう一度言っておく。俺は変質者でもないし、今日の服装も至って普通だ。



 次の瞬間、紅葉の目の色が変わったような……気がして。



――――「私は大樹に会ってるよ? えへへ。昨日だよね?」―――――



 紅葉は先程と打って変わってまっすぐと俺の目を見て話し始めた。何が起こったんだ? 安心してゆっくり話してくれるにしたって、これほどまでキャラが変わるレベルで接し方が変わると驚きを隠せない……しかもなんというか、紅葉の少し微笑むその顔はどこか妖艶さが感じられる。なんだかゾクッとした。

「え? あ、ああ。そうか」

俺が臆してどうするんだ……とりあえず何か話を振ってみよう。ああそうだ。先程は父の顔をチラチラ見ながら接していたし、今なら正直に答えてくれそうだな。

「昨日、マンションの一室……俺の部屋のベランダで目が合ったよな?」

「うん。昨日の一部始終を見られちゃったよ。―――ふふっ。これも見たよね?」

気付くと紅葉の左手には刀が握られていた。俺は腰が抜けそうなほどびっくりした。

「おわっ!!? お、おう。見たぞ。それを持ってベランダでお、お前は何してたんだ?」

「それは内緒♪」

「そ、そうか。それ、本物なのか? 斬れるの?」

「斬れるよ。斬ってあげようか……? ―――大樹の首」

 さりげなく俺に向けて笑みを浮かべながらキラッキラッと輝きを放つ剣を構えて近づいてくる。なになになになに!!! ホントなんなんだよこいつ!! 超怖い子じゃんッッ!! 俺は冷や汗をかいた。明らかに今、ここ一帯だけ空気が違う! 内気なんて言ってごめんなさいッッ!!


「えへへっ♪ 大樹は殺さないよぉ……。当然でしょ? 私は人殺しのために生きてるわけじゃないんだからねっ?」

紅葉は剣を収めた。笑顔が眩しい。いや、やっぱり完璧な笑顔ではなく、この子の笑顔の裏には恐怖の種がある気がする。でも殺されずに済んだことで全身の強張りは大分楽になった。息苦しさは未だあるけれど。

「美珠さん……なんだよな? 明らかにさっきとキャラが違うんだけど、二重人格か何かなのか?」

「ふぇ~? ぃゃぃゃ美珠紅葉だよぉ。見れば分かるでしょぉ? ……あと、圭司も言ってたでしょ? 紅葉って呼んでよ♪」

いや、見ても分からないから聞いたんだけど。どうしたのホント。キャピキャピとはまた違うが、今の紅葉は人の心にドンドン侵入しようとする強気な性格だ。あれ程内気だった紅葉は今どこで何しているのだろうか。

「昨日今日で、さらに「私」と話が出来たなんて……。きっと運命だねっ♪ おめでと大樹君っ! 君は私の運命の人だっ♪」

 なんて言って俺に抱きついてきた。会って間もないかわいい女の子にハグされると心拍音がヤバい! ……サラッとこういうこと言えるぐらいにはこの紅葉は強気だ。「階段を下りている間に双子の妹とすり替わった」なんてことはないだろうな? ないな。ちゃんと付いてきているか心配で何度も俺は後ろを振り向いた。何も怪しいところはなかった。

「ちょっ!! いきなりどうしたんだ……」

だとするとやはりこれは二重人格的な何かなのだろう。彼女は顔を赤らめながらハグをやめ、再び身長差のある俺を見上げて目を合わせて喋りだした。

「ここに来たってことは、御魂高校……大樹も行くの?」

「あ、ああ。そうだけど……」

するととても嬉しそうにして。

「圭司と平治も御魂高校で出逢ったんだよっ♪ やっぱり何かの縁だね~っ! 神社の縁結びの力かも!」

なんでこの紅葉は自分の父のことを呼び捨てにするんだろうか。あれ? 俺の親父のことなんで知ってるんだこいつは。

「なん―――!」

口に出そうとしたら紅葉の人差し指を口の前に置く「静かにしろジェスチャー」で制された。

「シーっ! ぜ~んぶ内緒っ♪ 大樹はまだ私のことそんなに知らなくていいの~」

くそっ! 超気になるじゃねぇか!!

 ……? そういえばさっきまで感じていた紅葉への不安感や恐怖感が消えている。なんだかこの紅葉はこの紅葉で不覚にも魅力を感じざるを得ない!! これがハニートラップか!? 美珠紅葉おそるべし……け、決して抱きつかれたからなんていう不純な理由からじゃないからな。確かにドキドキしたけど!

「今日はね、大樹が来てくれたから。私からの挨拶も兼ねてこうして話したんだぁー」

「そ、そうか……これからよろしく…」

「よろしくねっ!」

また紅葉は軽く抱きついた。そんな気軽に異性にハグするんじゃないですよ。ちょっと意識しちゃうでしょ?


するとその瞬間ハグの力が弱まったのを俺は感じ、下を見ると……。


 ―――「は……はうぁ~……っ!!!」


 さっきとは全然違う顔がそこにあった。息が荒い。そしてとても紅葉の顔が赤く、爆発しそうだ……紅葉は上を見上げる……俺と目が合う。そして……。

「うぅぅぅ……っ!!!!」

小さくうなってから、すごい速さで神社の方へ消えて行った。多分あれが神社で初めて会った内気紅葉だろう。強気紅葉の後に見ると、俺はそれがとても可愛く思えた。



 「ふぅ。なんだったんだか……」

 またしても調子が狂っていた。俺の「大人しめのめんどくさがり屋」という設定が、たった二話で殺されようとしていた。なんでああも俺よりキャラの濃い人間が集まるんだ。俺、空気になるじゃん。大丈夫? 俺、ちゃんとこの物語の主役出来てる?


 神社からの帰り道、俺はずっと紅葉について考えていた。あの二重人格は、どちらもしっかりした解答を教えてくれない。内気紅葉はごもってしまってあんまり話してはくれないし、強気紅葉はもっといろんなことを知っている気がするが素直に話してくれる気はしない。

 はっきり言って、俺の苦手な人種だ。内気の時は俺から話さないといけないし、強気の時は精神的に疲れる。でも、どこか不安定な彼女の性質は気になってしまう。心配になってしまう。俺から見た美珠紅葉はそんな感じの人だった。

 ……何はともあれ、俺の部屋に突如現れたあれは実在する人物であったわけで。それが分かっただけでもこれから先、俺の生活は安泰だろう。




 ―――――そう思いたかった。ただただ俺は静かに高校生活を満喫したかった。



 この時、既に俺の世界の歯車は日常から外れ始めていたのかもしれない。強気紅葉……アイツに逢った時から、もう当たり前の顔をして生きていられる世界では無くなっていたのかもしれない。

 はいっ! 終わりました終わりました第二話でした!! 紅葉ちゃん登場ですね! 今まで作ったものはツンデレヒロイン多くて……どうしても豚っぽくなっちゃってたので敢えてここで純粋な子をはめ込みましたはい!!

 って言っても、怖いですね!! 紅葉ちゃん後半怖いよっ!!! 気を付けろよ大樹!! 来週以降殺されても知らねぇぞぉおおおおおお(*゜▽゜*)

 来週からはいよいよ本題……大樹の日常が一気に崩壊します!! お楽しみに!


 閲覧ありがとうございました!! よろしければ来週もどうぞご覧下さいっ!!

 また会いましょう!! バイバイっ!!

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