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午前三時の回復魔法  作者: 28号
午前三時の攻撃魔法
12/13

カルテ07:覚悟

「その格好……」

 部屋に戻ってきた私を見て、目を見開いたのはエイナ先輩だった。

「あの、理由はあとで……」

 エイナ先輩が視線を注いでいるのは、私が身に纏う服だ。

 久方ぶりに身に纏ったそれは踊り子の衣装で、思いの外着心地は良かったが、やはり露出した腹部に少々の恥ずかしさを感じる。

 けれどそこで、エイナ先輩からこぼれた言葉は私の想像した物とは大きく違っていた。

「可愛い……私もああ言うの着てみたい」

 ぽつりとこぼしたのはエイナ先輩で、それにローガンが侮蔑の眼差しを向ける。

 一方私は、その言葉に肩すかしを食らった気分だった。

 踊り子の衣装は、男性にはともかく女性には受けが悪い。

 嫌悪感を抱く者も多く、それ故エイナ先輩にだけは見られたくないとまで思っていたのだが……。

「腕飾りも、細工が凄く綺麗!」

「まさか着たいのか? お前、自分の年考えろよ」

「だって踊り子の衣装って凄く可愛いじゃない! あこがれだったの私!」

「見せられる腹なのか?」

 失礼極まりない発言に、ローガンの肩をエイナ先輩が殴り飛ばす。割と本気で。

「この俺を殴るとは良い度胸だな」

「よけられる攻撃をよけなかったって事は、悪いことを言った罪悪感が多少なりともあったって事でしょう?」

「罪悪感というか哀れみがわいた。踊り子に憧れる年増に惚れたどっかの勇者に」

 そこで再び振り上げられる腕に、私は少しだけ笑ってしまう。

 目の前に急患がいるというのに、恐ろしいほど暢気な現場だ。そこが、この診療所らしいとも言えるけど。

「それで、その服を着たと言うことは覚悟は決まったな?」

 エイナ先輩に殴られた肩を押さえながら、ローガンが私の隣に並ぶ。

「先生が言ったんでしょう、魔物の位置を特定できる目を持つ人は誰もいないって」

「誰もいないと言っていない。現にお前は見えるんだろう?」

 尋ねられ、私はユイノの体に目を向ける。

 衣装をまとい、先ほどより注意深く目をこらせば、魔物の位置はほぼ正確に特定できた。

「魔力が強いので、集中すればすぐ見つかります」

 それに血管をつかって移動しているせいか、魔物の動きには規則性もあった。

「あと時間魔法は、静止の魔法で大丈夫ですか?」

「静止まで使えるなら御の字だ。最悪、動きが遅くなれば良いと思ってたからな」

 褒め言葉と同時に頭をわしわしとなでられ、少しだけ照れくさくなる。

「よし、エイナは手術室の準備だ。ジグが動きを止めたら、すぐに処置を開始する」

 エイナ先輩が出て行くのを肌で感じながら、私はユイノに目を向ける。

 正直、彼の嫌みには幾度となく怒りを覚えたし、共に旅をしているときは、魔物にやられて死んでしまえば良いと何度も思った。

 けれど不思議と、倒れている彼を見ているとあのときの怒りはわいてこない。

「すぐにやるか? それともあと10分ほど待って、耐えがたい苦しみにこいつのがのたうち回るのを見るか?」

「先生ほど性格は悪くないので、今すぐやります」

 下手な恨みはもう買いたくないしと思わず苦笑してから、私はユイノの体に手をかざす。

 そして私は体を這い回る魔物に向かって、魔力を放った――。

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