カルテ01:プロローグ
治癒術。それは傷をいやし、病を駆逐する回復系魔法の総称である。
魔物とそれを統べる魔王達によって人の世が乱れた昨今、国を一歩出れば命の危険が伴うアイゼの大陸では約50万人の治癒術師が日夜消えゆく命を救うために魔法を唱えている。
そして私はそんなたくさんの治癒術師の中の一人だった。
容姿も魔力も平凡で、高位治癒術も3つしか使えない。
治癒術師協会の会員ランクも並のBから上がった事もないし、多分上がる予定もない。
なにせ私がでた治癒術の学問所は酷く小さかったし、協会にコネがある友人や仕事仲間もいないからだ。
だが一方で何処にでもいる平凡な治癒術師であるにもかかわらず、私は人から普通ではないと言われる。
その理由は二つ、そしてそのどちらも私自身とは全く別の所にある理由であった。
一つ目は、私の数少ない友人の中に「伝説」という二つ名を持つ男がいること。
そしてもう一つは、私の勤める診療所がひどく変わっていることだ。
半年前にうっかり履歴書を送ってしまったその職場は、この大陸で唯一深夜も火を消さない診療所。
「24時間年中無休、深夜も患者を受け入れます(旅の勇者も大歓迎)」
という看板が目を引くそこが、私の今の職場だった。