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番人の噂

パッと見にはバウジフよりも若く見えるデハルだが、実はデハルはもう三桁に届く高齢で、バウジフよりもさらに一つ上の世代だという事だった。


姿勢も話しもしっかりしているので、まだまだ元気で何でもできるようにも見えるのだが、さすがに身体に無理はきかないらしく、村長などの役職には就けないらしい。

それでバウジフに村長を任せ、隠居生活を送っていたのだそうだ。


そして村長を引退するに伴って、第二の結界の運用を引き受けたという事らしい。

といっても、この結界はメインとなる鏡を使った結界の補助的な役割で使われるものなので、元々はつきっきりになる必要もなかったし、出力を上げるためにチームを作る必要も無かったようなのだが、例の事件の後以降、付きっ切りにならざるを得なくなっていったのだそうだ。

その苦行からようやく解放されたということで、デハルは随分感謝してくれている様だった。


「本当に助かりました。私ももう少し若ければ、このくらいの事で音を上げたりはしなかったと思うのですが、さすがに年を感じますね。恐らくは持ってあと一週間という所だったと思います。あなた方が助けて下さらなければ、我々は一週間後に全滅していたかもしれません」

「そうなのですか。そこまで切迫しているとは思っていませんでしたが、間に合ったみたいで何よりです」


今日明日という所まで切迫していない事はユウも何となくわかっていたが、とはいえタイムリミットは意外に迫っていたという事らしい。

余計な寄り道などしないでよかった、と、ユウは内心ほっと胸をなでおろした。

あの時、代替品の鏡を街まで買いに戻っていたら、間に合わなくなっていたであろうから、カラスとの交渉をあの場でまとめた事も大きかったという事になる。


「ところで、ユウさんはこれからどこへ行かれるおつもりですか? もしお時間がお有りなら、私がとっておきの景色が見られる場所をお教えいたしますので、行かれてみてはいかがでしょう?」

これはデハルにしてみれば、いわば親切で言ってくれた言葉なのだろうが、ユウとしてはさすがにそんなにのんびりしているつもりはなかった。

いつまた別の声が聞こえて来るかもしれないし、そうでなくとも、ここの所、なかなか前に進めなくなっているような気がするからだ。

なので丁重にお断りする事にする。


「いえ、明日にはここを発つつもりなので、残念ですがそこへは立ち寄れそうも有りません」

「そうですか。…お急ぎならば仕方ありません」

「急ぎという訳ではないのですが、次に声が聞こえた時に備えて、今はなるべくその声の近くへと進んでおきたいのですよ」


「…声、ですか?」

ユウとしては、ただ進める時にはなるべく進んでおきたいという事を伝えるつもりで説明したつもりだったのだが、デハルはその内容よりも声という単語に興味を示したようだった。


結局、ユウはデハルに、自分が困っているらしい人の声が聞こえる事と、その声の一つがとぎれとぎれに北から聞こえてくる事、それに、ここへ来たのもバウジフの助けを求める声が聞こえたからだという事を話した。

デハルの物腰が柔らかく、何でも受け入れてくれそうな雰囲気を醸し出していた所為か、気が付いたらしゃべってしまっていたという感じだ。


ユウの話を、時折頷きながら、最後まで黙って聞いてくれていたデハルだったが、話しが終わると、一つ大きく頷いた。

「なるほど、そういう事ですか」


そして、正面から真っ直ぐユウの目を見つめて言ってくる。

「実は、この村から真っ直ぐ北に向かって行くと、神々が住むと言われる山々があるのですが、もしかしたらその声は、そこから聞こえて来たのかもしれませんね」


「神々が住む山…ですか…」

神に関する話については、ユウもこれまでに何度か耳にした事がある。

と言っても、何処までが真実なのかは難しい所だ。

確か、ルティナの姉の居る隣国では、代替わりが起こったと言われているとか言われていたのではなかったか…。


思案しているユウの前にデハルが身を乗り出してくる。

「そうです。さっきのユウさんの話からすると、その声はその山から聞こえてくると考えるのが妥当な様に私には思えます。なにしろ、距離こそ大分ありますが、私の知る限り、そこに行くまでの間に人の住む村などは全くないのです。ですから、ここより北からは人の声が聞こえてくるとは思えません。それに、ユウさんの話を聞いた限りでは、その声は断続的にとはいえずっと聞こえてきているのですよね。という事は、その方の困難はずっと続いているという事なのでしょう?そんな状況が長期間続いていてそれでもそれに耐えているというのは、並大抵の事ではないはずです。普通なら、たとえ窮地に陥り助けを求めたとしても、恐らくはそんなに長くは持ちこたえる事が出来ないのではないでしょうか。ですから、そう言う観点から見ても、その声の主が何か特別な存在である可能性は高いと思います」


「なるほど…。確かに、本当に神なのかどうかは別にして、例えば、神と崇められるほどの特別な力を持つ何かがいて、それが助けを求めてきているとも考えられない事ではないですね。ですが、そこには本当にそんな存在の者が住んでいるのでしょうか?誰か見た事がある人はいるのですか?」

ユウは神という存在がいる事を、いや、いるにしてもそんな場所に神がいる事を、まだ完全には信じられなかったので、少し言い換えてみたのだが、デハルはそんな事は気にしていない様だった。


普通に会話を続けてくる。

「いえ、残念ながら、私を含め、この村の者は誰も見た事はないと思います。ですが、神の住むという山の番人になら私は昔会った事があります。もうずいぶんと昔の事になりますけどね」


「番人…がいるのですか?」

「神の領域に知らず迷い込むような輩が出ないように、見張っているのだそうです。尤も、あんなに深い山奥に間違って迷い込む人がいるとは思えませんけどね」


確かに、人が住んでいない程の深い山奥と考えると、そこへ迷い込む人の数も少ないだろう事は想像に難くない。

神に関係があるかどうかは別にして、何らかの意図を持った者でなければ、そんな所まで行かないに違いない。

と思った所で、ユウは気が付いた。


「ではなぜ、デハルさんは、そこへ行かれたのですか?」

間違って迷い込む奴などいない、ということは、デハルさんは間違わないでそこへ行った、ということだ。つまり、意図的にそこへ行った事になる。


デハルは苦笑いを浮かべている。

「その頃は私もまだ若かったですからね。自分の目で神の姿を見てやろうと考えたのです。結局、そこで追い返されてしまったので、神には会えませんでしたし、神々が住んでいると言われている山々も、残念ながらその手前にある山に遮られて見る事は出来ませんでした。ですが、その山の番人のゴフジールとは会いましたし、話もできました」


「そのゴフジールという人はどんな人だったのですか?」

もしかしたらそのゴフジールという番人が、探し求めている声の主だという事だって、考えられない訳ではない。

ユウはそう思って、聞いてみたのだが、返事はユウの想像したものとは違っていた。


「ゴフジールはあなた方人間と、大きさも見かけもそっくりに見えますが、恐らく、人ではありません」

「人ではない? では、何なのですか?」


「わかりません。彼は私と会った時、始めは凄く優しかったのですが、私が彼の隙を見て神域に踏み込もうとした瞬間に豹変し、恐ろしい程の殺気を放って襲いかかってきたのです。その様相はとても人のものとは思えませんでした。私は運よく逃げ切る事が出来ましたが、あの時は生きた心地がしませんでしたね。幸い、彼は、ある一定の距離以上にはその場所から離れる事が出来なかったみたいで、そのおかげで私はなんとかその場を逃げ切る事ができたようなのですけど」


デハルはそう言って、乾いた笑い声をあげて笑った。

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