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結界の担い手

結局、作業は長引いてしまい、屋根だけではなく、館をすべて綺麗に直し終えた時にはもうだいぶ日が傾いてしまっていた。

という事で、小人達の勧めもあり、ユウはこの村にもう一泊する事を決めた。


その夜は、ユウ達が翌日に村を発つ事を知った村人達が集まってきて、盛大な宴となった。

この宴はバウジフの指示でアーダを含めたユウ達四人をバラバラに配して席を設けた為、ユウの近くにはフィノもルティナもアーダもいない。

席と言っても、地面に直接置かれた木の板の上に御馳走を乗せて、それを数人で囲んで食べる、という形のものなので、椅子などはなく、板の周りに敷かれた藁の様な草の束で座る場所が作られているだけなのだが、その(かたまり)が幾つも設けられていて、ユウ達はその内の四つに別々に座らされた格好だ。


宴が始まって少しした頃、どこからか数人の小人達が遅れて加わって来た。

ユウはその遅れてきた小人達とは全く面識がなかった。

もう何日もこの村でお世話になっているにもかかわらず、一度も見かけた事もない。

聞けば、彼等は、ユウ達が宝具の鏡を取り返した事により余裕が出来たもう一つの結界に携わっていた者達だという。

彼等は総じて、かなり年齢を重ねた年配者のようだった。

とはいえ、どことなく上品で小さな老紳士とでもいう感じの雰囲気を醸し出している。


その中の一人がユウの姿を見つけ、ユウの居るグループの方へと近づいて来た。

それに気付いたそれまでそこに集まっていた小人達が、ユウの前の席を空ける。

それを見たその老紳士は、周囲の小人達に軽く会釈をしながら席に着くと、その上でユウに向かって頭を下げた。

「この度は、鏡を取り返して頂き、ありがとうございました。我々術者もそろそろ限界が近づいておりましたので、非常に助かりました」


こんな事を言ってくるという事は、やはりこの小人が、結界を作り支えていた者の一人だという事なのだろう。

我々、と言っている事から、この件に複数の小人が関わっていたという事もわかる。


「いえ、あれについてはカラス達が比較的あっさり返してくれたので、そんなに苦労した訳ではありませんよ。ただ、代りにルティナの鏡をカラスにあげてしまったので、ルティナには少し申し訳なかったのですけどね」

言いながらルティナの方に視線を振ると、ルティナは、隣の(グループ)で小人達に囲まれ楽しそうにしている。

ルティナの周りには恐らくは子どもなのだろう、小人の中でも特に小さな者達が多く集まっていて、囲まれているというよりは埋もれている様にも見えなくはない。

ひと目見て優しいとわかるルティナなので、子供達も自然に集まってくるらしい。

ルティナは子供達の相手をしながら、少し離れた場所にいる大人の小人と話しをしている。


老紳士が再び頭を下げてくる。

「それは申し訳ない事をしました。代りに何か渡せるものがあればいいのですが…」

「いえいえ、それには及びません。バウジフさんから立派な盾を頂きましたからね」


それを聞いた老紳士は、何か納得したように小さく頷いた。

「そうですか。バウジフはあの盾をあなた方にお渡ししたのですね。それはよかった。あれはなかなか良い物だと思いますよ。少なくともあなた方にとってはね」


「でも、あの盾はあなた方の宝でもあったのでしょう?貰ってしまっていいのですかね?」

ユウが気にかかっているのはその事だ。

老紳士はにこやかな笑みを浮かべている。

「あの盾は元々我々のものではなかった物なので、問題ありませんよ。気にしないでください」


「わかりました。そういうことでしたら、有難く頂いておく事にします」

ユウが言いながら頭を下げると、老紳士もそれに応じて軽く頷いた後、遠くの空を仰ぎ見る。


「我々には確かめようもない話ですが、あの盾は昔、人々の間で「地盾」と言われ大事にされていた宝具(もの)だったらしいですよ。「大地の盾」と呼ばれていたという話もあるようですけどね」

「なんだか大層な名前みたいですけど…」

「いえ、我々小人にとっては只の大きな荷物でしかありませんよ。でも、あなた方が持てば、いつかお役にたつ事もあるかもしれません。まあ、所詮噂話でしかありませんし、必要ないようでしたら売ってしまっても構いませんけどね」


老紳士はそんな風に言ってくるが、彼等が盾を大事に扱っていた事はわかっている。

きっと遠慮をさせないためにそんな風に言ってくれているのだろう。

あまり気を使わせても申し訳ないと思い、ユウは話を変える事にした。


「ところで、あなたは魔法を使えるのですか? 結界を張っていたと聞いていますけど」。

「魔法…といえば、言えなくもないのかも知れまでんが、我々の作る事が出来る結界は、周囲の木や草や花などの自然から僅かづつ力を借りて、魔方陣に埋め込まれた魔法を増幅する格好で発動させるものです。それも、私が核となり、さらに何人かの力も借りてようやく発動させる事が出来る訳で、純粋な魔法とは言えないのかもしれません」


魔法陣に埋め込まれた魔法を増幅するだけならば、魔法と呼ぶには確かに弱いのかもしれないが、それでもきっと誰にでもできるモノではないのだろうから、一応魔法と言ってもいい種類のモノなのだろう。

その核となっていたのがこの人だと言うのなら、この人には特別な力があるとみてもよさそうだ。


「すみません。あなたは?」

ユウはこの小人の老紳士の名前を聞いてみた。


すると、老紳士はその場で姿勢を正し、改まって頭を下げた。

「名乗るのが遅れて申し訳ありませんでした。私はデハル。この村の前の村長です」

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