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隣国の噂

部屋入って落ち着くと、フィルスはレーティがバーランド家に来た経緯について話してくれた。


レーティとは、やはりフィルスが直接連絡を取った訳ではなく、たまたま国境近くの街にいた彼女が、そこで出会った商人からバーランド家の窮状を聞きつけ、慌てて駆けつけてきたという事らしい。

レーティがバーランド家に着いたのはつい昨日の話だという。


フィルスはレーティにルティナが無事な事は伝えたらしいのだが、レーティはルティナの行方がわからなくなっている事を随分と心配していたらしく、それもあってレーティはルティナと再会できたことをとても喜び、今も別部屋で二人だけで話している。

その為、ユウはその辺の話についてもフィルスから聞く事になったという訳だ。


そして、フィルスはレーティの事はすぐに嫁ぎ先に帰すつもりでいる事をユウに伝え、その理由として例の石炭の売買が上手くいっている事にしたいとユウに願い出た。

実際はまだ動き出したばかりなので、本当にうまくいくかはわからない状態なのだが、そんな事を言ってはレーティがより深く首を突っ込んできそうだという事で、便宜的にそう言う事にさせてくれと言うのだ。


聞けば、そちらの方は少なくとも今の所は特段の邪魔は入っていないと言う事で、このままビスクに任せておけば上手くいきそうな感じだし、レーティを巻き込みたくないというフィルスの気持ちも理解できる。

という事で、ユウはそれに同意することにした。


そんな話で二人が意見をまとめた直後、狙い澄ましたようにユウ達のいた部屋の扉が開き、部屋にレーティとルティナが入って来た。

ユウはフィルスとテーブルを挟んで向き合うような形で座っていた為、ルティナは当然ユウ側の席に着こうとする。

既にフィノとアーダがユウの隣に座っている為、ルティナが座るのは末席という事になる。

それを少し寂しげな表情で見送ったレーティは空いていたフィルスの隣の席についた。


そしてユウの目を見て言ってくる。

「ルティナから話は聞きました。改めてお礼を言わせてください。ありがとうございます」


「それはもういいですよ。でもまあバーランド家は何とか無事にやって行ける目途が立ったと言う事みたいだし、レーティさんも安心して国に戻れそうですね。聞くところによると、突然リスティに来ることにしたんでしょう? 旦那さんも心配しているのではないですか?」

これもフィルスから聞いた事だった。それを話しのとっかかりとして、ユウはレーティを国に帰す方向に話を持って行こうと考えたのだ。


しかし、ユウが話しをその方向に展開させる前にレーティは自ら言ってきた。

「そうですね。バーランド家も噂ほどひどい状況ではないようですし、ルティナとも久しぶりに二人きりで話す事ができて、ルティナが嫌々付き従っている訳ではない事も良くわかったので、私も一旦ルシアス家に戻ろうかと思っています」


ルシアス家と言うのはリスティのあるイリストル王国の隣国ブルンモア公国の一貴族の事だ。

両国は敵対している訳ではないのだが、あまり密接な関係でもないらしく、その為、情報の往来はあまり良いとは言えない。

レーティが駆けつけることができたのも、たまたまバーランド家の噂をする商人の声を聞く事が出来たためで、偶然以外の何物でもない。

だがそれは、レーティがある事を気にかけていた所為でもあった。


「でもよかった。私はあまり信じてはいなかったのですけど、ブルンモアには神様が変わると国が乱れると言う言い伝えがあって、その言い伝えを信じる領民達が過度に不安がらないよう、私と主人は手分けして所領を回っていたところだったのです。だけど、そのおかげでバーランド家の噂を聞く事が出来たという事になりますから、私をそこに遣わせた旦那様には感謝しなくてはなりませんね」


「神様…ですか?」

「ええ、ブルンモアの神官の間では、最近、この世界を見守ってくれている神様に代替わりが起こったと、まことしやかにささやかれるようになっているのです。といっても、誰もそれを確認した人がいる訳ではありませんし、前回の代替わりは記録によると三千年も昔の事だと言う事で、そんな事が何故今起こったのか疑問がない訳ではないのですが、ブルンモアでは神官の言葉がイリストルよりも遥かに重く扱われるので、市民もそれを信じているのです」

レーティはそう言って小さく微笑んだ。

しかし、その微笑みは何処か乾いたもののようにユウには見えた。


神の噂といえばユウも巨人の里で聞いた覚えがある。

あの時は良く理解できないまま聞いていただけだったのだが、巨人だけでなく人間の間でもそういう噂が広がっているのであれば、あの時の話しの信憑性も増してくる。

レーティの言っている民の不安はあの時ジュナが言っていた邪気に関係しているようにも思えなくはないのだが、下手な事を言ってレーティを始め、皆を不安がらせる事になっても嫌なので、ユウはそれには触れないことにし、黙っている事にした。


ユウがそんな事を考えている間にフィルスがレーティに聞いている。

「イリストルにもそんな噂が無い事はないのだが、ラプス王はそれを認めておられない。ブルンモアの神官の言う事と言うのはそんなに信頼できるものなのか?」


イリストルではブルンモア程神官の地位が高く無い為、レーティの話がしっくりこない様なのだ。

しかし、どうやらレーティも少なからずそう感じているようだった。

目を伏せ、頭を左右に振りながら答えて言う。


「…ブルンモアの神官の言う事は難しくて、正直私にはよくわかりません。けれど、民の不安を沈めるのは領主の役目ですので、神官達の教えを民に伝えるのも領主の役目なのです。……。でも、私はその教えに従って事を進めて良かったと思っています。そのおかげでこうしてここに来る事も出来たのですから…」


そのレーティの様子から、フィルスは状況を察したようだった。

レーティに軽く頷きかけてから、話題をがらっと変えてくる。

それはこの部屋に入って以降、フィルスがずっと気になっていた事でもあった。


「ところでユウさん。お隣の可愛らしいお嬢さんはどなたですか?」

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