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はぐれた経緯

その行為からはなかなか信じがたい事ではあるのだが、バールリッツが妻を愛している事に間違いはなさそうだった。

ただある特定の人間の女性を見つけると、無意識に体が反応してしまうのだそうだ。

娘を囮にしてユニコーンをおびき寄せようとするやり方は、この習性を利用したものだったらしい。


心のどこかで少し納得できないものを感じながら、それでもルティナの知識を信じる事にしたユウは、バールリッツの言う事も信じる事にした。

その上で、バールリッツの妻、ラビアローナの捜索を手伝う事にする。


バールリッツの話によると、元々ラビアローナはバールリッツの作った寝床を中心に、その周辺で生活をしていたという事で、最近は遠出をする事もほとんどなかったらしい。

そこで、ユウは、まずはその寝床のある場所まで行ってみる事を提案した。

もしかしたらひょっこり戻ってきている可能性もあるし、そうでなくとも何か手掛かりくらいはあるのではないかと思ったからだ。

それに対して初めは少し迷うような様子を見せていたバールリッツだったが、結局、その提案を受け入れる事にしたようで、ユウ達をそこへ連れて行ってくれることとなった。


バールリッツの体は、近づいてみると意外に大きく、その大きさは普通の馬の二倍近くはありそうだった。

その大きな体の横にフィノの大きな剣やルティナの弓を括り付け、四人が一列に並んで背中の上に跨ると、バールリッツはさほど苦も無く立ち上がり、とても人を四人も乗せているとは思えない軽快な足取りで走り出した。


走り出してすぐに、ユウはバールリッツに聞いてみた。

「四人も乗せて大丈夫なのか? もしきつかったら言ってくれよ?」


バールリッツは人の言葉がわかるというので、念話はあえて使っていない。

そうする事で、ユウがバールリッツと何を話しているのか、フィノ達にもなんとなくわかるだろうと思ったからだ。


バールリッツが走りながら答えてくる。

『お前達程度の重さなら問題ない。少しだけ注意する事があるとすれば、お前達の事を落とさない様注意して走らなければならないという事くらいだ。だが、それも全力で走らなければ問題ない。つまり心配は不要だという事だ』


それについてはバールリッツに自信はあるようだった。

もしかしたら過去に人を乗せた経験があるのかもしれない。

その事についてはどうやら心配しなくてもよさそうだ。


だが、もし大丈夫だというのなら、少しでも情報を聞いておきたいところでもある。

「なら、ラビアローナの事をわかる範囲で教えてくれないか?」

ユウがそう尋ねると、バールリッツはどこか遠くを見つめるようにして言ってくる。

『ラビアローナの体は俺以上に純白で、しかも流れるように美しい。彼女は優しく賢いユニコーンで、しかも俺の事を思ってくれている。もちろん、俺もラビアローナの事は一日だって忘れた事は無い』


バールリッツはすっかり自分の世界に入りこんでしまっているように見える。

ユウは少し苦笑いをしながら、話を戻した。

「いや、そういうお惚気はいらないから…。で、彼女がお前よりも白くて美しい事はよくわかったけど、それほど好きなのにどうして側を離れたんだよ」


すると、バールリッツはそれまでよりも声のトーンをぐんと落として言った。

『少し遠くにいる友から頼み事を受けてな。仕方がなかったのだ。…とはいえ、我々の敵となる程のモノのいないこの地に住処を設け、しっかりと準備をしてから旅立った、つもりだったのだが…』


「戻ってきたらいなかったって言う事か。どのくらいの間、そこを離れていたのだ?」

『奴のいる場所は遠いからな、三か月程かかってしまった』

「なら、三か月間、彼女は一人ぼっちだったという事か」


ユウはそう口に出して言いながら、すぐ目の前にいるフィノの身体を少し強めに抱きしめた。

フィノの体調を懸念した為だ。

フィノはユウに自らの体重をあずけながらも、その手はフィノの前に位置しているルティナの胴に回したままでいる。

フィノも以前よりはだいぶ強くなってきていると感じる事が出来る。


その間にもバールリッツは、ユウの言葉に答えている。

『確かに、まあ、そう言う事になるか…な…。が、それは彼女もわかっていた事だ』

「わかっていたのなら、そう簡単にいなくなる訳は無いように思うけどな。…って、…なるほど、だから心配して探しているという訳か」


ユウはバールリッツが心配している理由がわかったような気がした。

事前に準備して充分安全に配慮していた事に加え、それをしっかり理解していたはずの彼女がいなくなってしまったのだ。何かあったと考えるのが普通だろう。


バールリッツの声に力がこもってくる。

『そう言う事だ。もし彼女が何者かに襲われたのだとしても、彼女とてユニコーンだ。そう簡単に殺られる訳はない。少なくともどこかに逃げるくらいの事は出来るはずなんだ。だから、早く見つけて助けてあげないと…』


「この辺りには強い獣はいるのか? その…ラビアローナが適わないくらいの獣が」

『いや、この辺りにそれ程のモノはいないはずだ。それは行く前に確認してある。だが、どこか他の場所から流れて来た者がいたとすれば話は別だ』

確かに、いくら準備をしておいても、完全に安全な場所などある訳がないが、ユニコーンを倒せるほどの相手となるとそうそういる様にも思えない。


「何か心当たりでもあるのか?」

『…いや、…ない。一番近くにいると思われる脅威は巨人だと思うのだが、彼等が徒党を組んで動いたという痕跡は何処にもないし、いくら巨人が相手でも単独なら逃げるくらいの事は俺達ならた易くできる』


バールリッツの言う巨人と言うのは、恐らくはユウ達が以前会ったあの巨人達の事だろう。

あの時、彼らがユニコーンを狩ったという話は聞かなかったし、あの後はすぐに引っ越したはずなので、彼等がラビアローズを仕留めたという線は考えなくてもいいはずだ。


だが、そうなると、やはり何か手掛かりがないと厳しい。

「とにかく、まずはその住処の周りを調べてみよう」

手掛かりはそこで探すしかない。


『そのつもりだ』

バールリッツもそう思っていたようで、話し終わるとバールリッツは再び速度を増して走り出した。

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