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村の書庫

結局、フィノはその天剣を貰い受ける事になった。


もともと彼等巨人の間では言い伝えはただの伝説になっていたし、そもそも巨人たちは誰もその伝説を信じていなかった。

それは人間にはその剣を扱える者がいないと思われていた事に起因するのだが、そこにその剣を使える人間が現れたのだ。


たいそうな謂れのある剣ではあるが、巨人達からすれば、所詮は狩りの補助として使う程度の剣でしかない。無理に所有権を主張する程のモノでもないし、伝説とはいえ、元の持ち主と言われる人間の中にそれを使える者が現れたのならばその人に使って貰った方がいい。

という事で、フィノが貰う事になったのだ。


今の所有者である所のケイデンも、快くフィノに剣を渡す事に同意し、ケイデンの祖父が作ったという鞘も一緒に渡してくれた。

フィノはルティナの協力を得てその鞘を鎧に取り付け、剣を背中に背負う事が出来る様にした。

かなりの重量があるものだというのに、それを背負ってもフィノの動きが鈍る様な事は無いようだった。


フィノは、ケイデンだってこの剣を持ったからと言って動きが鈍った訳じゃなかったでしょ、と言うのだが、巨人と同じ土俵で比べるフィノにはもはや言い返す言葉もない。

フィノがあまりに軽々と剣を振るのを見て、ユウも一度持ってみたのだが、剣を持ち上げるのがやっとで、とても振る事が出来そうな代物ではなかった。


それはルティナも同じで、という事は、本当は巨人達が当初思っていた通り、この剣はやはり人間のモノではないのかもしれないという思いがユウの中に湧いて来ない事もなかったのだが、剣を貰ったフィノが嬉しそうにしているのを見て、ユウはそれを口にする事は止めておいた。


その夜は、昼間獲ったボアリーブの肉を使った料理が振る舞われた。

聞いていた通りの美味で、ユウもそれを美味しく頂き、と同時に巨人の人々との交流も深める事が出来た。


その時の話で、涼風と待ち合わせしている黒い石の谷までは、レダス達が送ってくれることとなった。

彼等の足なら、当日早朝に発てば昼前にはそこに着くという。

それならばという事で、ユウは、この村にもう一泊する事に決めた。

あまり早く着いても、結局そこで野宿しなければならなくなるだけなので、それならもう一日巨人の村にお世話になった方がいいだろうと思ったのだ。


そして翌日、ユウはこの一日をそれぞれ自由に過ごす事にした。

するとフィノは、ユウに、声が聞こえても絶対に自分の事を置いて行かない事を何度も何度も念押しした後、結局、レダス達と共に狩りに出て行ってしまった。新しい剣を思い切り振るってみたいという欲求に勝てなかったようなのだ。


フィノを乗せたチュラはもちろん、レダスと共に居たがったべティールも含め、大勢の巨人がレダスと共に出て行く事になった為、村には村長のランバチの他は数人の女性達が残されるだけとなった。

そんな居残り組と共に、ユウはルティナと共に村の中でゆっくり過ごす事にした。


村の大部分の巨人が狩りに出て行ってしまった為、村の中は火が消えたように静かになっている。

だが、そのおかげで風が木の葉を揺らす音が大きく聞こえるようになり、それが意外に心地いい。


そんな穏やかな気持ちになっているユウの元へ、少しして一人の女性がやって来た。いつもランバチの側で働いている秘書のような役割の若い女性、ジュナだ。

「村長からあなた方に村を案内するよう言われてきたのですが、どうでしょう、ご一緒させて頂けませんか?」


「ありがとう、村長から村の中を自由に見て回っていいとは言われていたんだけど、そう言われても、どこへ行けばいいのかわからなくって困ってたんだ。助かるよ。そうだ、もしよかったら、図書館とか、書庫の様な場所があれば案内してくれないかな」

留守番する事に決まった時、ルティナが巨人の本を見て見たいと言ったので、ユウはこの後、散歩がてら本のある場所でも探してみようと思っていた。

そこへ案内してもらえるのなら、探す手間が省けるので有難い。


「引っ越しの準備の為、ごたごたしていますが、それでよろしければ」

するとジュナはそう言って腕を寄せて来た。そこから肩へ登って来いと言っているのだ。


「端っこででも本を見せてもらう事が出来ればそれでいいよ」

ユウはそう言って、まずルティナをジュナの右肩へと促すと、自分は左の肩へと持ち上げてもらいそこへ落ち着いた。


「わかりました。こちらです」

ジュナが二人が肩の上に収まった事を確認し、歩き出す。


連れて来られた場所は、長老の家から少し離れた大きな樹の根元の小さな家だった。

しかし、一見小さな家に見える家の中は意外に広く、しかも樹の幹を繰り抜いて上に続く階段が造られていて、それを登っていくと、太い枝の上に出て、そこにも小さな小屋が造られていた。

小屋の中には本がたくさんあるものの、その多くは本棚から取り出され無造作に床に重ねられていて、確かに引越し直前と言う感じがする。


「散らかっていてすみません」

ジュナがルティナを床の上に降ろすと、ルティナは早速置いてある本をめくって声をあげた。

「凄い。字がほとんど一緒だわ。これなら大体わかりそう」

そして夢中になって本を読み始める。


ユウはジュナに頼んで机の上に降ろしてもらうと、ジュナに近くの椅子に腰かけるよう促してから、聞いてみた。

「ジュナ達は何で引っ越しをするの?」

二日ほどだが泊めてもらって分かったのは、この村は意外に居心地の良いいい村だという事だ。なので、ユウには無理に引っ越す必要がないように思えたのだ。


するとジュナは少し渋い顔になって言ってきた。

「それが、最近この辺りの空気が淀んできているようなのです。その所為で、この村も人間に見つかりやすくなってきたみたいで、しかもそれが人間にも悪い影響を与えているのか、我々を襲おうとする人間まで現れ始めているのです。どうも我々の事を見世物にでもするつもりの様なのですが、私達としても襲われれば戦わなければなりません。こちらとしては自分達で食べる物以外の殺生はするつもりがありませんので、できれば戦いたくはないのですが、襲われれば戦わざるを得ません。ですから、もっと山奥の空気の澄んだ場所に引っ越す事にしたのです」


「それじゃあ、ジュナ達が引越しをするのは、人間の所為っていう事?」

ジュナの話を聞く限りは悪いのは人間だという事になる。

しかしジュナは人間の事をそんなに悪くは言わなかった。それよりももっと悪いものがあるという。


「いえ、確かに私達は直接的には人間から遠ざかるために引っ越しをする事になるのですが、人間達にも悪影響を及ぼしている淀んだ空気、つまりは邪気が、この辺りに蔓延している事が本当の原因だと思っています」


「邪気?」

邪気と言われてもユウにはピンとこない。そしてジュナはさらに怪しい言葉を吐いた。


「はい、そしてそれはもしかしたら神の仕業かもしれないのです」

「神…」


その神と言うのは一体どういう物だと解釈すればいいのかと、ユウは必死に思考を巡らせた。

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