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レダスの決意

長老の家は広場の中心のこの里の中では最も大きな樹の根元に造られていた。

建物も恐らくはこの里では最も大きなものだ。


その家の扉をノックもせずに勝手に開け、レダスはずんずん中へと入って行った。

その後ろをべティールとチュラも当然のように続いていく。

そして何の前触れもなく、とある扉の取っ手に手を掛け、やはりノックもせず無造作に扉を開いた。そこには大きなテーブルの向こうでゆったりと本を読んでいる一人の高齢の男がいたのだが、その男はレダスに気づいてゆっくりと顔を上げた。


それを見たレダスが男の正面へと進み出て、そこでユウをテーブルの上へと降ろすと、その両側にチュラとべティールも並び出て、同じくフィノとルティナをテーブルの上にそっと降ろした。

そして三人が降りた事を確認した後、レダスは口を開いた。


「長老、俺はチュラとべティールのどちらとも仲良くやっていく事に決めた。どちらか一人だけは選ばない」

長老は眉をピクッと動かしたものの何も言わずに黙っている。ユウもレダスの意図がわからなかい為何も言う事が出来ない。というより、何をいきなり言い出すのかと言う話だ。


しかしレダスは大まじめな表情で話しを続けた。

「俺はチュラとべティールが事あるごとに争うのが嫌だった。何とか仲良くして欲しいと思ってはいたが、俺には二人の喧嘩を止める事が出来なかった。どちらかに加担する事は出来なかったからだ。だけど、この人達はそんな俺を助けに来てくれた。この二人の喧嘩に無謀にも強引に割って入って自分達に興味を引き付け、そして、その身を持って助け合う事の大切さを教えてくれた。三人でも協力し合える事を見せてくれたんだ」


ユウはもちろんフィノもルティナももちろんそんな意図をもってあの戦いの中に入って行ったわけではない。

ユウの為になると信じたフィノが半ば暴走気味に二人の間に入ってしまった為、そのフィノが苦戦しているのを黙って見ていられなくなったユウとルティナが助けに入った、という構図だったはずだ。

それをいい様に解釈され、くすぐったい思いだが、レダスの表情は真剣で口を挿むような空気ではない。


そしてレダスはこうまとめた。

「俺は彼等を見て思ったんだ。チュラもべティールも俺が守ればいい。他の誰にもその役は任せない」


レダスの目はまっすぐに長老の目を見つめている。それに応える様に長老もレダスを見つめたまま言った。

「なるほど、それがお前の出した結論か」


「そうだ」

レダスはそう即答した。


すると、長老はレダスから視線を外し、一度俯き手元を見て、それから今度はユウの方に視線を向けて言った。

「……、まあ、いいだろう。過去にそう言う例も無かった事は無い訳だしな。どういういきさつでその人間達に出会ったのかは知らないが、お前がこれほど変わるとは…。確かに世話にはなったようだな」


聞けば、レダスはこの里の中では断トツの強さを誇るらしい。

ところが、二人の女性に言い寄られ、そのどちらかを選びきれずにいる内に、狩猟でも戦闘でも最近は目立った成果は上げられなくなっていたのだそうだ。それどころか、日常の生活でも優柔不断な行動を取るようになり、長老を始め他の里の者達にも迷惑をかける様になってしまっていたのだ。


次代の当主と目される男のふがいない有様に業を煮やした長老は、その原因となった二人の女性、チュラとべティールに自分達の里の将来の為にと、白黒つけるよう促した。それが数日前から始まった二人の喧嘩の始まりだった。

この問題を解決しない事にはレダスが自信を取り戻す事は出来ないだろう、という判断だ。


結果として、長老の考えていた思惑とは異なる展開にはなったものの、レダスがこれで自信を取り戻してくれるのであれば、長老としてはそこは歩み寄っても良いと判断し、認めることにしたのだ。

というのも、彼等はこの場所から引っ越す事が決まっていて、新天地に向けて里の者が一丸となって旅立たなければならない状態だったからだ。


その中核となるべき者として、レダスの力は無くてはならないモノだった。

その当のレダスがピリッとしないでいた為に、里が纏らず、その為、この問題はチュラとべティールだけの問題ではなく、里の者すべての問題になっていたのだ。


それを解決してくれた者として、ユウはフィノとルティナと共に歓迎される事になった。

ユウからしてみれば、レダスが助けを求めていたから来ただけで、彼らのそんな意図とは全く関係なく動いていた訳なので、そんなに有難がられても困るのだが、レダスの様子がそれまでと大きく変わって以前の状態に戻った事を知った里の者達に、代わる代わる歓待された。

長老との話が終わった後、長老の家の前の広場で催された宴での事だ。


その時、中心には長老が座していたのだが、その長老の横にはレダスが座り、初めて会った時とは別人の様な自信に満ちた様子で、次々に寄ってくる里の者達と言葉を交わしていた。

皆一様に喜んでいて、早速、レダスに意見を求めてくる者もいる。


聞けば、ここしばらくは意見を求めても、うやむやな答えしか返って来なかったらしいのだが、この時のレダスはまるで自身が長老であるかのように、てきぱきと指示を与えていた。

そんなレダスと、その両隣でかいがいしく動き回っているチュラとべティールを、長老の目の前にしつらえられた特別席で見ていたユウは、思いもよらぬ展開にただただ驚いていた。


そんなユウの隣では、フィノとルティナがようやくありつく事が出来たとばかりに、ご馳走を食べることに集中していた。

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