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キウルと三精霊

その男は滑るようにゆっくり近づいて来ると、ユウの少し手前、サントが横たわっている場所のすぐ横まで来た所で立ち止まった。

サントの胸の傷から湧き出していた黒い霧は、今はもう消えてなくなっている。


どことなく中性的な顔立ちのその男はサントの胸に刺さったままでいたユウの短剣をたおやかな動作で抜き去った。

サントの身体の硬直がゆっくりと解けて行く。


「死んだ…のか?」

ユウが思わず呟いてしまった言葉に、メリンがすぐに反応する。

「いいえ、サント様は神だもの、神がこの程度の事で死ぬ訳がないわ。たぶん、動けなくなっているだけよ。この会話だってもしかしたら聞こえているんじゃないかしら」


言われてみれば、胸に刃を受けているにもかかわらず、その周りには血の一滴も流れていないし、それどころかユウの短剣に刺された痕の傷口も、いつの間にかきれいに無くなっている。

先程までの様子を知らなければ、眠っているのではないかと思ってしまいそうなくらい表情も穏やかだ。


そんなサントのすぐ横で男がゆっくり立ち上がる。

「あなたがユウさんですね。私はキウルと申します。この子達から聞いています。助けて頂きありがとうございました」


キウルはそう言って頭を下げ、ユウに謝意を表した。

メリン達がここに居るのだから多分そうではないかと思っていたが、やはりこの男がキウルの様だ。


「いえ、私は私の頭に届けられた助けを求める声に応じてここへ来ただけで、何もした訳ではありません。あなたの事を助けたのはメリン達です。メリンの話だと、私達がここでサントと戦っている隙にあなたの事を助けたという事の様ですが、メリンが来てくれたおかげで私も助かった訳なのでお相子です」


すると、キウルは緩やかな動作で手を伸ばしユウに握手を求めてきた。

「やはりそうだったのですね。そうではないかと思っていました」


「どういう事ですか?」

キウルが何を言っているのか、ユウには正直わからなかった。


キウルはユウの差し出した手を握り、優しい笑みを浮かべている。

「その助けを求める声の主というのは多分私の事です。あなたの聞いたという声は、私がサントの張った結界にできた小さな穴を通じて助けを求めた時の声なのだと思います。その穴は閉じたり開いたりしていたので、始めの頃は聞いてくれている人がいるのかわからずとても不安だったのですが、あなたがカノンの地に入って以降は、あなた達が私の事を助けに来てくれた事は伝わっていました。多分、サントが面白がってそうしていたのだと思います。その後穴は完全に閉じられ、こちらの声は全く通じない様にされていましたが、それでもあなた方の様子は見えていました。そんな事は意図的にしないと出来ない事です」


キウルは言い終わると、倒れたままの状態で動けないでいるサントの事を見下ろした。

が、サントは全く動かない。

安らかに眠っているような姿で横たわったままでいる。


「じゃあ、フィノを助けた直後に暗闇の中で聞こえた、この世界に来るきっかけになったあの声の主はあなただったという事ですか」

「恐らくは。今にして思えば、サントの気まぐれの所為であなたに届いたのかもしれませんけどね」


「気まぐれ?」

「はい。多分、何か面白い事が起こるかもと思って意図的に結界に穴をあけたのだと思います。その穴の一つがあなた方がいたという次元に通じる穴で、その穴を通じて私の声があなたに届いたのだと思います。結果として、そのおかげで私はこうして助けてもらう事が出来た訳で、そう考えると矛盾している様に思われるかもしれませんが、サントも満足していると思います、随分と楽しんだようですからね。尤も、サントにとりついていた邪気についてはユウさんが払ってしまいましたので、今後しばらくはそんな満足などよりも遥かに大きな羞恥と後悔にさいなまれる事になるのでしょうけど…」


依然サントは目を瞑っていて、眠っているのか起きているのかさえ分からない状態でいる。

しかし、その表情は穏やかで邪気などは全く感じられない。


「ユウ、どうなっているの? 黒犬が急に石になってしまったんだけど」

振り向くと、フィノが駆け寄って来る所だった。

反対側からは、ルティナとアーダも走ってきている。


キウルは三人がユウの後ろに集まるのを待って、改めて謝った。

「君達には本当に感謝しています。来てくれてありがとう。そして、迷惑をかけて申し訳ありませんでした」


フィノは首を傾げている。

「これって、上手く言ったっていう事なの?」

ルティナとアーダも目を見合わせ、この状況を理解しようとしているのがわかる。


ユウは三人の方へと向き直った。

「良くはわからないんだけど、どうやらそういう事みたいだ。あまり実感はないんだけどね」


と、そこへ上空から精霊達の声が降ってくる。

「あなた達が頑張っていてくれなかったら、主様はまだ閉じ込められたままだったのは間違いないの。だから本当に感謝しているの」

「あたし達の事を助けてくれたのもユウ達だしな」

「みんな、あなた達のおかげですわ」


フィノ達もそれが誰だかすぐにわかったようだった。

「メリン、エルス、それにベーデ」

「そうか、主様とやらに会えたのだな」

「…という事は、この方がキウル様」


中でもルティナは人一倍驚いているように見える。

ルティナはこの世界の人間なので、実際に神を目の当たりにして恐縮しているのかもしれない。


対して、フィノとアーダはあくまでもいつも通りだ。

「ユウがずっと追いかけていた声の主ってこの人の事だったって言う事?」

「そうみたいだね」

「なら、この仕事も無事に終わったという事になる訳ね。よかったわ。この人の場合、声が聞こえてから長かったものね」

「この人って…」


キウルはこの世界の神と呼ばれる存在で、という事は少なくとも自分達のようなただの人間ではない事は間違いない。

まあ、ルティナとは違ってフィノにしてみればある意味そんな事はどうでもいい事なのかもしれないが…。


ユウは苦笑いをするより仕方がなかった。

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