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意外な結末

ユウが全力で押し返した事で、サントの刀はほんの僅かに浮き上がった。

一瞬だが片手になった事で、瞬間、力が弱まったらしい。

が、それもほんのわずかな間だけで、すぐに両手に戻して圧力をかけてくる。

ユウは背中が地面に押し付けられ、身動きが取れなくなった。

「さて、今度はどうするかな？」

サントは余裕の様相で、ユウの姿を見下ろしている。

恐らくはある程度手を抜いているのだろうが、見逃してくれる様子はない。

フィノはまだこの広間に姿を見せていない。

こちらに向かって走っているはずだが、ここまで来るには少なくとももう少し時間がかかるようだ。

と、その時だった。

『ユウ、右に転がるの』

どこか聞き覚えのある女性の念声(こえ)が頭に届き、ユウは気が付くとその声に従い力任せに右に転がっていた。

だが、その際どうしても刀を押し返す力が弱まってしまう。

それをサントが見逃すはずがない。

「なんだ、つまらない動きを選ぶんだな」

次の瞬間、サントの圧力が一段と強くなった。

そして、刀を真っ直ぐユウの心臓目がけて振り下ろしてくる。

二度避けられた事で本気になったのか、サントはこの一振りで終わりにするつもりでいる様だ。

これはとても避けきれそうもない。

ユウが半ば覚悟を決めかけたその時、横から巨大な蔓が伸びて来て、ユウとサントの刀の間に割って入った。

サントの刀がそれに当たり、蔓に沿ってユウの左側に逸れて行く。

これでできた時間を使ってユウはサントの刀の間合いの外まで転がった。

そしてすぐに立ち上がる。

サントの追撃に備える為だ。

しかし、サントは追撃しては来なかった。

それどころか、サントの顔はどこかあさっての方向を向いていて、ユウの事を見ていない。

ついさっきまで感じていた強烈な殺気も、今はきれいに無くなっている。

だからと言ってまだ油断する訳にはいかない。

ユウが急いで持っていたクリスタルの短剣を前に構えを取ると、

「しまった！」

ユウの目の前でサントが小さくではあるものの珍しくそう叫び声をあげた。

どこか上空を仰ぎ見て、今までにない無防備な状態になっている様にみえる。

そんな姿を見せられてしまっては、こちらも力が抜けてしまいそうだ。

が、そこへ、再び念声(こえ)が響いてくる。

『今よ、ユウ。サントの胸にその剣を突き刺すの』

ついさっきユウの事を助けてくれたあの声だ。

確かに、今がチャンスなのは間違いないし、この機会を逃したら次があるとも思えない。

ユウはこの念声に背中を押されるようにして、サントに向かって突進して行った。

元々、さほど離れた場所にいた訳ではなかった事も有り、サントがこのユウの行動に気が付いた時にはユウはもうサントの懐の内に飛び込んでいた。

サントが大きく目を見開くのがわかる。

それで僅かに動くのが遅れたその間に、ユウはサントの胸にクリスタルの短剣を突き刺していた。

そしてすぐにその短剣に力を込める。

ユウの手の中のクリスタルの短剣が次第にサントの胸に埋まって行く。

しかし、サントの胸から血が噴出す事はなかった。

その代わりという事でもないのだろうが、黒い霧が噴き出してくる。

それは、サントが力なく崩れ落ち、天を仰ぐような格好で倒れても、まだ続いていた。

サントがゆっくり顔を動かして、ユウに恨めし気な目を向けてくる。

「少し遊び過ぎてしまったようだ…な。まあ、いい。…だいぶ楽しませてもらったからな」

なんのことを言っているのかユウには見当がつかなった。

なのでユウが返事に窮していると、上から言葉が降ってくる。

「何を言っているの。あなたの所為でみんな迷惑しているのよ」

この声は先程ユウの頭に聞こえて来たあの念声と同じ声だ。

慌てて上を見上げると、そこにいたのは見覚えのある精霊だった。

神域に入ってすぐの頃に出会った精霊、メリンだ。

メリンは空中を音もなく飛んで降りてくると、ユウの目の前まで来た所で停止した。

「メリン、何でここに？」

「私だけじゃないわ。エルスもベーデも一緒よ」

メリンが後ろを指差して言う。

ユウがそちらの方向に視線を向けると、神殿からこちらに向かって近づいて来る二体の精霊の姿が見えた。

確かにあれはエルスとベーデの様だ。

「あれ、なんで君達がここに居るのさ？君達は君達の主様を探しに行ったんじゃなかった無かったの？」

ユウの記憶では、メリンは別れ際にそんなような事を言っていたはずだ。

それを聞いたメリンは笑顔になった。

「そう、やっと主様に会う事が出来たのよ。あなたのおかげでね」

「えっ、俺？いやいや、俺は何もしてないよ、他の誰かと間違えているんじゃないの？」

実際、ユウはそれらしい事は何もしていない。

なので、それはメリンの勘違いだと思われる。

だが、メリンは首を左右に振ってそれを否定した。

「いいえ、間違えてなんかいないわ。ユウがサント様の気を引き付けてくれていたおかげで、サント様の監視の目を掻い潜る事が出来たんだもの。そしてついに主様の元までたどり着く事が出来た。全てあなたのおかげよ、ありがとう」

「ちょ、ちょっと待ってよ。…どういう事？」

「私達だけの力だけでは主様の事を助けられなかったって言う事よ。だから貴方のおかげなの。それに、結果的にサント様にとりついていた邪気まで払って貰っちゃったしね。本当の事を言うとその辺の事は救出した後、主様に頼るつもりでいたんだけど、そう思ってサント様の様子を探ってみたらあなたがピンチに陥っているじゃない。だから少し手助けしたら、あっさり邪気払いまでしてくれるし、主様に頼るにしても、主様も解放されてすぐになる訳で、まともにやり合っていたら結構不利だったかもしれないから、本当、助かったわ」

詳しい事はわからないが、どうやらメリン達もユウ達とは別に彼女達の主様を助ける為に動いていた、という事らしい。

だとするならば…。

ユウがその先に思考を巡らせようとしたその時、神殿の扉が開く気配があり、その奥から一人の男が現れた。

男が身に付けているのは、サントのものよりもだいぶ薄汚れた白いローブだ。

にもかかわらず、そのオーラは遥かに光り輝いている。

ユウはその男の姿に完全に目を奪われてしまっていた。