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ハンティング

翌日、ユウはフィノとルティナと共に森へと入った。


街を出る前には武器屋へ寄りルティナの弓と矢を購入したのだが、店主はユウが弓を買いに来た事でルティナの弓の腕を狩りに使おうとしているのだと納得したようだった。


と言うのも、ルティナの弓の腕は上流階級の中では有名で、店主は以前ルティナの弓を選んだ事もあったのだ。もちろん、ルティナと直接顔を合わせる事は無かったのだが、ルティナの出した弓への要求は覚えていた。

そのため、ユウが弓を購入するという事は、奴隷であるルティナに狩りをさせようとしていると受け取ったようだ。


そんな店主が以前の注文からルティナの好みに合わせた何点かの候補を選び、その中から価格も考慮して最終的にはルティナが弓を選んで決めた。

店主に乗せられた所為もあって少しいいものを選んだため、価格が予定を少しオーバーしてしまったが、あまり安物過ぎて役に立たないのも困るので、悪い判断ではなかったと思いたい。


しかし、それよりもユウ達が狩りをしに行こうとしている事に店主が気付いてくれた事は大きかった。

獲物の卸し先を紹介してくれたからだ。

これで、獲物を獲った後になって卸し先を探し回る必要も無くなった。

なので、森では獲物を狩る事だけに集中できるし、戻ってから街の中をうろうろする必要もない。それはユウ達にとって有難い事といえた。


「ルティ、この辺には何がいるの?」

ユウの腕に掴まりながらフィノはユウを挟んで反対側にいるルティナに問いかけた。

ルティ、というのはフィノがルティナにつけた愛称だ。ルティナと呼ぶのも大して変わらないのでユウはどうかと思ったのだが、ルティナが殊の外愛称で呼ばれる事を喜んだので何も言わないでおいている。ちなみにユウ自身は今の所普通にルティナと呼んでいる。


「狩りの獲物としては鼠や鹿がメインになりますね。どちらもすばしっこくて捕まえにくいですけど、襲って来る事はありませんから怪我をする心配はしなくても大丈夫だと思います」

それは良かった、とユウが言うよりも早く、フィノが不満げな声を漏らす。

「えー、もっと強い奴はいないのぉ?」


ルティナはユウの前に身を乗り出す様にしてフィノの問いに答える。

「この近辺では、他にはイノシシとか雉がいるくらいでしょうか。あと、運が良ければ野生の馬もみかける事はあるようです。ですが、街の近くには、あまり凶暴な獣はいません。少し先の沼や梟の住む岩場まで行けば、ワニや梟のような肉食の獣もたくさんいるみたいなんですけど、日帰りではとても行ける距離ではありません」


「つまんないの。でも、まあいいや。良く考えたら闘技会で戦ったばっかりだしね」

というより、むしろ闘技会で戦ったからこそ自分の力を試してみたくなったのだが、本人はそうと気づいていない。


ガサ、ガサガサ


その時、少し先から何かが草を掻き分け動いている音が聞こえてきた。

「いくね」

すぐにフィノが動き出す。


「ちょっと、フィノ。せめて確認してから…」

ユウが止めようとするが、間に合わない。


少し先から言い返してくるのが聞こえてくる。

「大丈夫、怖い奴、いないんでしょ!」

確かにそうかもしれないが、ユウの常識では確かめてから動くべき所だ。フィノのこの行動力にはついて行けない。

『気を付けて』

念声を使ってそう声を掛けるくらいしかできなかった。


『見つけたわ。大きな角の鹿。捕まえるね』

その念声(こえ)と同時に、少し先で草を割る複数の足音。フィノが鹿を追いかけている音だろう。


「俺達も行こう」

「待って」

走りかけたユウの身体のすぐ前に、ルティナが自らの腕を伸ばして立つ事でユウがフィノを追って走るのを引き止めた。


訳がわからないまま、ルティナの顔を覗き込むと、ルティナは今まで見た事も無い程鋭い眼つきをしている。

そしておもむろに背中から弓を取り、矢をつがえて弓を構えた。


「ルティナ、獲物はフィノが追って行っちゃったから、ここには…」

ユウがそこまで言った時、突然、木の陰から長い牙を持ったイノシシが現れ、二人の方へ向かって突進を開始した。


猪は一直線に二人に向かってくる。

ユウは慌てて剣を抜こうとするものの、焦ってしまってうまく引き抜けない。

その間にもイノシシの突進は続いている。


ヒュン


ユウのすぐ脇で空気が震える様な音がして、直後、イノシシの額に矢が当たった。

「浅かったですか」

一瞬、止まる気配を見せたイノシシだったが、撃たれた事に気が付き頭に血が上ったのか、先程までよりも更に血走った目つきで全力の体当たりをかますべく突撃して来る。


 ヒュン


ユウが剣を構えるより早く、ルティナの放った二本目の矢がイノシシの右目に命中、その衝撃で突進の勢いをそがれ脚を緩めたイノシシにルティナの放った三本目の矢が襲いかかる。


 ヒュン


矢は狙いたがわず最初に狙ったのと同じイノシシの額に今度は深く命中し、イノシシはルティナの二メートル位手前で力尽きた。


「ユウ様、後はお願いします」

イノシシが倒れた事を確認し、ルティナはユウの後ろに下がった。

この先はユウに任せるつもりらしい。


これはルティナがまともな剣を持っていない為でもあるのだが、それよりもルティナの知る狩りでは獲物は止めを刺した者の成果となるため、ユウの手柄にしたいと考えた事が大きい。

ユウはルティナの意図を感じ取り、少し迷ったものの、イノシシを長く苦しめないようすぐに止めを刺した。


「ありがとうございます。さすがはユウ様です」

ルティナが頭を下げてくる。

ユウは頭を振った。


「いやいや、これはルティナの獲物でしょ」

「いいえ、止めはユウ様が…」

ルティナが否定してくるのがわかっていたユウは、ルティナに最後まで言わせず話題を変える。


「それにしてもルティナの弓の腕は見事なものだね。あれだけ早く連射する事なんてなかなか難しいんじゃないの」

「はい。あっ、いいえ、初めの一射がきちんと急所を捉えていれば、三本も矢を射る必要は無かったんです。まだまだです」

ルティナも弓を褒められる事は嬉しいらしく、話に乗ってくる。


「でも、三本とも狙い通りでしょ。それって凄い事じゃない?」

「いっ、いいえ、私の腕など大したことは…」


 ガサササ


その時、近くの草むらが大きく揺れた。

次第に近づいて来る草を踏みつけるような音は、良く聞くと一つではないようで、しかもその中には地面を擦るような複雑な音も混じっている。


ルティナはその方向を睨んだまま一度背負った弓に手を掛け、そして結局弓は取らずにすっと手を降ろした。


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