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白い狼

そこにいたのは、全身が真っ白な毛で覆われた狼だった。


全身の毛が白かった所為で、周囲の景色に紛れ、その姿が見えづらくなっていたという事らしい。

が、ルティナにはそれが見えたという事なのだろう。

だから厳しい視線を投げかけていたのだ。

ルティナのおかげで間合いを詰められる前に気が付く事が出来たのは、幸運だったと言える。

対応する余裕が出来たからだ。


そのルティナが更に注意を促してくる。

「気を付けてください。いるのは一匹だけじゃないみたいです。少なくとも五匹はいそうです」


言われて周囲を良く見てみるも、今は雷は落ちていないので、稲妻に照らされる事もなく、その影が浮かび上がる事もない。

だが、言われてみると、確かに複数の気配が感じられる。

ルティナの指摘は信頼に値すると考えてよさそうだ。


「けど、良く見えるね。俺には真っ白な風景にしか見えないよ」

感心するユウに、ルティナが笑みを返して言う。


「陰影に注意して見ているだけなのですけど、役に立っているのなら、嬉しいです」

「もちろん、大助かりだよ」


フィノは剣、アーダは槍を手に、もう既にユウの一歩前へと進み出ている。

二人がそこから更に前へと進むべく身構えたその時、


 ドドドドドーン


四人が見つめるその先に、稲妻が数回、たて続けに雪の地面に突き刺さった。

空気が震え、大地も激しく振動する。


しかし、そのおかげで、狼達の姿が確認できるようになった。

雪のように真っ白で一番大きな一匹を先頭に、全部で七匹の群れがこちらに向かって流れるように駆けてくるのが見て取れる。


そんな狼達の流れるような美しい姿にユウが一瞬見とれてしまっていたその間に、数発の矢がユウのすぐ隣から放たれた。

もちろんルティナが撃ったものだ。

矢は緩やかな放物線を描きながら、真っ直ぐこちらに向かって走って来る狼の群れを的確に捕らえている。

しかし、その矢は一本たりとも狼に当たらなかった。

狼達は矢が当たる寸前、ひらりと跳んで躱したのだ。

ギリギリまで避けないでいた所を見ると、彼等は瞬発力にも自信がある事がわかる。


彼等は元のポジションに戻ろうとする事なく、そのまま個々に散開していった。

取り囲んで仕留める作戦に切り替えたらしい。


フィノはいつもの様に飛び出しかけて、しかしすぐにそれを止めた。

今、飛び出すのは得策ではないと判断したようだ。

大剣を失った事で、慎重になっているという事もあるのかもしれない。

何しろあの剣は見るからに丈夫なものだったので、フィノの力を持ってしても大概の事では使い物にならない様な事にはならなかったのだ。

それと比較すると、フィノが今手にしている剣はどうしても心許なく思えてしまう。


アーダもフィノに追従し、飛び出すのを自重している。

ルティナは正面から接近してくる見事な毛並みの一番大きな一匹に狙いを付けてはいるが、しかし矢は放たない。

今撃っても、避けられてしまう事がわかっている為、好機を待っているのだ。


ユウは右手にクリスタルの短剣を持ち、左手で大きな盾を前に構えた。

その状態で身体を少し屈めると、盾の中に身体がすっぽり入ってしまう。


彼等の攻撃は、恐らくはその俊敏性を生かした突撃によるものだろう。

素早く相手の懐に入り、鋭い牙で喉を噛む。

だとすれば、この盾をうまく使って、走り込んでくる狼達の勢いを削ぐ事が出来れば、少なくとも彼等の出鼻をくじくくらいの事は出来そうだ。


ユウは盾を構えたまま、そろそろと前へと進んで行った。

フィノとアーダの間を抜けて、四人の中で一番前へと進み出る。

真っ直ぐこちらに向かって来る、あの一番大きな一匹と最初に接触するポジションだ。


フィノは一瞬ユウの動きを見て止めに動きかけたものの、結局動かず、ユウの動きを見守った。

素早い動きをする狼達がユウの盾を回避する際に速度を落とせば、フィノも戦いやすくなる。

その時に確実に屠りさえすれば、ユウに危険は及ばないと読んだのだ。


しかし、その目論みは外れる事になる。

七匹の狼達は正面の一匹を中心として、ユウ達を扇形に囲む位置まで来た所で停止したからだ。

そしてその場で一斉に顔を上げ、鋭い眼でユウ達の事を睨みつけてくる。

一匹としてそれ以上近づいてこようとする狼はいない。


しばらく待っても、彼等は動こうとはしなかった。

ユウは最終的には彼らは徐々に近づいて来るものだと思っていた。

そうしなければ、攻撃が出来ないと思っていたからだ。

充分に近づいた所で一斉に飛び掛かれるのが、数的に有利な狼達の取る戦法だと思っていたのだ。


しかし、白い狼達は一匹としてその場を動かなかった。

まるで何かを待っているかのようにじっとしている。


だが、狼達が近い位置で止まった事で彼等の姿ははっきりと確認できるようになった。

純白の長い毛に覆われたその体躯は見事なまでに美しい。

特にリーダーと思しき中央の一匹は、その一回り大きな体格も相まって、美しさと同時に力強さも感じられる。

難敵である事はどうやら間違いなさそうだ。


あまりに動かない狼達に焦れたフィノが、こちらから討って出るべく大きく身体を屈め、力をためた。

と、その時だった。

中央にいたボスと見られる一番大きな一匹が、鋭く尖った歯のびっしり並んだ上下の顎をこちらに向かって大きく開けた。


そのボス狼の口の中は、青白い光で満たされていた。

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