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二人ずつかたまって歩くようにしてしばらく行くと、上空に灰色の雲が迫って来た。

遠く雷の音も聞こえるようになってくる。

幸いにしてまだ雪は降って来ていないが、相変わらず風は強いので、降れば吹雪になりそうだ。


そんな状況の中、四人はひたすら南に向かって歩いていた。

今、ユウの隣にはルティナがいる。

一周回って二回目の隣だ。


「ユウ様、また風が強くなってきました。寒くありませんか?」

「俺の方は大丈夫。ルティナはどう?」

「少し寒いですけど、大丈夫です。それより、この雪原、何処まで続いているのでしょうか」


周りの風景は、所々に背の高い雪の小山が見られるようになった他は、当初と比べてあまり変化は見られない。

ルティナにはこの白い風景の中の微妙な違いが分かるらしいが、ユウにとってはほとんど同じ風景の中を歩いている様にしか感じられない。

ユウは立ち止まり、背負っていた盾を前に降ろしてみた。


「多分こいつが、ここを抜ける為のカギになると思うんだけど、何も変化が無いんだよな…」

念声(こえ)も聞こえてこないのですか?」

「ここの所、念声がはっきり聞こえた事が無いんだよね。なんというか、気配は一カ所に留まっている感じがしないし、かといって全く気配が無くなると言うような事もない。まるで誰かが意図的にこの状況を作り出しているかのように感じるよ」


するとルティナはユウに寄せていた自分の身体を更にユウの近くに寄せて、小さく言った。

ユウの腕にルティナの胸が密着する。


「もしかしたら、そうなのかもしれませんよ」

「えっ? どういう事?」


ユウは思わず聞き返していた。

というか、丁度この時ルティナが身体を捩じった為、強く当たった胸の感触が気になって良く聞き取れなかったのだ。


ルティナがユウに顔を寄せ、頭と頭をくっつけてくる。

そして念の声を使って言った。

『ここは神の国です。私達の言動など筒抜けになっていたとしてもおかしな事ではありません』


これは、ここに来て最初の頃に助けた精霊達に聞いた、遠くの神の盗み聞きを防ぐ方法だ。

なぜ今そんな事をする必要があるのか、正直ユウにはわからなかったが、ユウは先程の動揺を強引に抑え込むと、とりあえず念声で返す事にした。

『い、いや、いくら神だからって、さすがにそんな事はしないでしょう。そもそも、そんな事をしてまで俺達の事を妨害したいというのなら、もっと直接的に妨害した方が効率的だし、有効だと思わない?』


仮に邪魔をしようと考えるモノがいたとしても、わざわざ会話の内容から先回りをして、その先に何かしらの手を打つなどというまどろっこしい事をする必要があるとは思えない。

するのなら、もっと直接的で効果的な方法があるはずだし、彼等にはそれが出来る力があるはずなのだ。


『それはそうかもしれませんけど…、何と言うか、特に最近、何者かの作為を感じる事が多くありませんか? 私は感じます。っていうか、そう思うと全ての事が誰かの意図によるもののようにしか感じられなくて…』

『俺は、あまりそう言う風には感じないけどな。…でもさ、仮にそうだとしても、今まで通りで構わないんじゃない? なんだかんだで、一応、前に進んでいる事は確かみたいだし…』


『いえ、私達がその事に気が付いたと知ったら、更に何か妨害…というか、試練のようなものを与えてくるような気がするのです』

『考え過ぎだと思うけど…』


と、ルティナとの会話に集中していたユウの腕を、突然、何者かが引っ張った。

必然的にルティナとの間に少し距離が出来る。


「ねえねえ、ちょっとくっつき過ぎなんじゃないの?」

フィノだ。

ユウとルティナが必要以上に密着していると思ったフィノが二人を引き剥がしたのだ。


「そうそう、暖を取るのに顔までくっつける必要は無いわな」

アーダも少々むくれ気味だ。


まあ、確かに、念の声を使って話をしているとは思っていない二人から見ればほとんどキスをする寸前のような格好で固まっていた事になる訳で、勘違いをされても仕方がない。

だがここで言い訳を口にしたら、念声で話をした意味がなくなってしまう。

ルティナの話を信じれば、神の傍聴に引っ掛かる事になるからだ。


実際の所は、そうなったからと言って更なる妨害に結びつくのかどうかはわからない、と言うか疑問だが、ユウは、ここはルティナの気持ちを汲んでおく事にした。

「ルティナだけが特別な訳じゃないよ。二人の時も同じようにするつもりだから」


ユウは、ここではフィノとアーダに本当の事を言わずに、誤魔化す事にした。

こうする事で、後で説明をする事も可能となる訳だし、二人の意見も聞く事が出来る。

決して、ルティナ同様、久しぶりに二人とも密着したいと考えた訳ではない。


「わかったわ。…なら、仕方がないわね」

こんな説明で本当にわかったのか少々疑問は残るものの、フィノはそう言うと引っ張っていたユウの腕を離した。


その時だった。

まばゆい閃光が四人の頭上を斜めに通り抜けて行った。


直後、地面を震わす大きな音が降ってくる。

雷だ。

近くに雷が落ちたらしい。


「きゃっ」

ルティナがしがみついてくる。


雷が苦手なのだろうか、ルティナの身体がユウの腕の中で小さく震えているのがわかる。

対して、フィノとアーダはルティナ程は雷を怖がってはいないようだ。

雷鳴に反応はしたものの、すぐに体勢を戻している。


雷はまだどこかに落ちているのか、ここ以外にもあちこちに雷鳴が轟いているが、これらは稲妻と雷鳴の間に多少時間があるようなので、最初の一発程の至近距離には落ちていない。

だが、近くはないものの、確実にその数は増えて来ている。


ならば、こんな何の障害物もないだだっ広い場所にいるのは危険だと言わざるを得ない。

ここはどこか安全な場所に退避するべきだろう。


しかし、だからといってここで戻るというのはいただけない。

そっちの方向には、逃げ込めるような場所などない事が既にわかっているからだ。

それよりは前に進んだ方がまだどこか避難できそうな場所がある可能性はある。

ユウは、怖がるルティナの背中を押す様にして、真っ黒な雲の中に稲妻が見え隠れしている南の方角に向かって、急ぎ足で歩き出した。

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