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雪原

扉の先は一面が真っ白な雪で覆われた雪原だった。

今までいた砂漠とは全く逆の冷たい風がユウの頬を凍らせる。


ふと気づいて振り返ってみると、そこには小さな雪の小山があるだけで、扉は既に跡形もなくなっていた。

もう後戻りは出来ない、という事のようだ。


「さむっ。こんな所に長い間居たら、凍えてしまいそうだわ」

「冗談じゃねえ。とっとと先に進もうぜ。この様子なら盾を使えばいいんだろ? さっさと終わらせて次に行こうぜ」


確かに、先程は乾いた大地に剣を突き刺す事で、結果、先に進む事が出来た。

これは小屋で見た石碑の記述通りの事だと言える。

であるならば、ここでは、盾を使えばこの凍えた大地を抜ける事ができると思うのは自然な考えだ。


「でも、渇きの時の事を考えても、使うべき場所で使うべきものを使わなければ意味がないと思うので、何よりもまずはその場所を探さなければならないと思います」

ルティナが冷静に指摘する。

砂漠でも初めに剣を刺した時には何も起こらなかったので、やはり使い時がある事は考えられる。


「つっても、じゃあ、どこへ向かえばいいんだよ」

「見た感じ目印になるようなものなんて見当たらないしね」


フィノはジャンプしながら周囲を見回してくれている。

その様子を眺めながらルティナが何か思い出したように聞いてくる。


「ユウ様、ここでも例の声は聞こえないのですか?」

「うーん。さっきから探ってみてはいるのだけれど、砂漠の時と同じみたいで、気配のする方向が定まらないんだよね」


今現在、砂漠の時と同様、残念ながら念声(こえ)は聞こえて来ていない。

声の主の気配のある方向については、なんとなくはわかるのだが、それも砂漠の時と同じで、正確な方向まではわからない。

だが、砂漠の時とは違う方向に気配があるという事はわかる。

東ではなく大まかに南の方角に気配があるように感じられるのだ。


そんな事など知らないフィノが北の方角を指差して言う。

「じゃあ、どうするの? あっちの方が天気はいいみたいだから、とりあえずそっちの方へ行ってみる?」


確かに、その方向には雲らしい雲は見当たらない。

穏やかな天候が期待できそうだ。

しかし、北からは気配がは全く感じられない。


「いや、行くのはそっちと反対方向だ。南の方が気配のする確率が高いように感じるんだ」

南の空は黒い雲で覆われていて、あまりいい天気は期待できそうもないどころか、下手をすると吹雪に見舞われる可能性だってありそうな天候に見える。

しかし、誰も文句を言ってこなかった。


「そうと決まれば、こんな所でぐずぐずしていない方がいいわ。早く歩き出しましょう」

「そうですね。動いていた方がまだ体が温まりますしね」

「そうそう、とっとと先に進んで、その勢いでこんな所、通り抜けてしまおうぜ」


それどころか進むべき方向が決まった事を、皆前向きに考えている様だ。

なのでさっそく、南に向かって歩き出す。


雪原は延々と続いていた。

白一色の変わり映えのしない風景が続いている。

前方に見える黒い雲も、まだそれほど近づいて来ていないので、視界もあまり落ちていない。


「歩いても歩いても景色が変わらないから、何だかあまり進んだ気がしないな」

吐きだす様に言うアーダに、ルティナが斜め前方を指差して言う。

「そんな事ありませんよ。確実に進んでいます。ほら、あそこを見てください。小さな雪山があるでしょう。あれだって、少し前にはもっとずっと遠くに見えました。今はもうすぐそこに見えています」


「どれの事だ?」

「ほら、すぐそこですよ」

アーダがルティナの腕に顔を寄せ、ルティナの示す指の先を覗き込むようにして見る。


ユウもその方向を見てみた。

言われて見ると、その辺りは地面が大きくうねり、小高い山のようになっている。

白一色で気が付かなかったが、よく見ると同様の小山はあちこちにある様だ。


「進むにつれ、少しづつあの様な場所が増えてきているように思います。吹き溜まりに溜まった雪が重なって山になったもののようにも思えますから、この辺りの雪の下の地面は意外に凸凹しているのかもしれませんね」


それらに注目して行けば、自分達が進んでいるという事がもっとしっかりわかる、という事なのかもしれないが、残念ながらユウの目にはたくさんある小山のひとつひとつを識別する所まではできていない。

その為、少し目を離すとどこを見ていたのかわからなくなってしまい、結果、位置を把握する事などできなくなっている。

ゆえに進んでいるという実感もほとんどない。

だが、ルティナにはそれがわかっている様だ。


「まあいいさ。進んでいるのなら、それでいい」

アーダは二、三度頭を振ると、それからこれから進む方向へと視線を戻した。

どうやらアーダも、ユウと同じ様な状態の様だ。


更に進むと、雪のうねりは次第に大きくなり、足元もだいぶ深く歩きづらくなってきた。

風も先程までよりもかなり強くなっている。

それに伴い体感温度も随分と低く感じられるようになっている。

ユウはすぐ隣を歩いていたルティナを引き寄せた。

そして、体をぴったり密着させると、首だけ後ろを振り返り、二人に同じこ事をするように指示を出す。


「だいぶ寒くなって来たから、二人づつ体を密着させて歩こうか。フィノとアーダも俺達の真似をして」

こうしていると、相手の体温が伝わって来て、寒さはかなり緩和できる。

しかし、後ろの二人はすぐに文句を言ってきた。


「ずるい。私もユウの隣が良い」

「あたしだって、フィノよりもユウの方がいいに決まっている」

そうは言っても、四人でかたまってしまっては、まともに歩く事さえ難しくなる。

結果、一定の時間ごとに相手を変えるようにする事にして、とりあえずはこのまま2+2の状態で歩いて行く事になった。

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