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赤茶けた巨大な岩

結果から言うと、剣は大地に突き刺さったものの、何も変化は起こらなかった。

これから向かうべき方向が示される、というような事もない。


フィノがさらに剣を大地に押し込もうとする。

ユウはそれを引き止め、やめさせた。

「フィノ、もういいよ。それ以上やっても意味がない」


剣はもう刀身の半分程も地面に埋まっている。

これ以上押し込んだら抜けなくなってしまうかもしれないし、それに、そこまでする必要があるとは思えない。

剣が抜けなくなるような事まではないのかもしれないが、抜くのが大変になる事は間違いない。


実際、フィノは剣を抜くのを手間取った。

刀身が大地にがっちり挟まれ、動かせなくなってしまった様なのだ。


「大丈夫か? フィノ」

「平気、平気」


しかし、フィノは全く焦っていなかった。

そして、心配そうに見つめるユウの視線を振り切るように、もう一度岩の上へと飛び乗ると、その岩を蹴って、地面に刺さったままの状態の巨大な剣の柄の部分に、思いっきり蹴りを喰らわせた。

その圧力で、剣が傾いで斜めになる。

その斜めになった剣の柄を、今度は掴んで反対側に跳び、逆方向に力を掛ける。

剣は、僅かに粘ったものの、地面を割るようにして抜き去られ、フィノの元へと戻ってきた。


「ね、大丈夫だったでしょ」

当たり前の事の様にそう言うが、フィノにしては苦労したようにも見えなくはない。

今後はあまり無理をさせない様、少し注意したほうがいいかもしれない。


「すみません」

そこへルティナが合流し、ユウに頭を下げてくる。

ルティナはここで剣を突き刺す事にした事を謝っているのだ。

このフィノの一連の行動はルティナのアイデアだったという事なのだろう。


しかし、剣を刺しても何も起こらなかったのは、決してルティナの所為などではない。

「いや、むしろこれではダメな事がわかったのだから、トライしてみて良かったんじゃないかな。今は何が正解か、わからないのも確かなのだから、やれる事はやった方がいい」


それに、今はとりあえず、この後どうするのかを、決めなければならない。

少なくともこの場でじっとしていても何も解決しないはずだ。


「とにかくここを動こうか、と言っても何処へ向かえば正解なのかはわからないけど…」

「どこでもいいわ。私達はユウについて行くだけだから」

「とりあえず、太陽の光を遮る物のある所まで行こうぜ、でないと、干からびちまう」

「西の方角よりは東の方が雲が多いようなので、東の方へ行ってみませんか」


フィノとアーダはあまり深くは考えていないようなのに対して、ルティナはある程度考えを巡らせてくれているらしい。

はっきりした裏づけまではないのだろうが、当てずっぽうよりはマシなものと思われる。


「そうだな。歩きながらも気配は探ってみるから、その結果で行先を調整しようか」

そうやって微調整を繰り返して行けば、いずれはあの念声(こえ)がはっきり聞こえてくるはずだ。


と、言う事で、とりあえず東に向かって歩き出しはしたのだが、歩くにつれ、その行程が意外にハードなものだという事がわかってくる。

じりじりと焼けつくような暑さのせいで、思いの他、体力が消耗されるのだ。

少し歩いただけで、汗が吹き出し、疲れがどっと押し寄せる。

しかも、休憩に適した場所など、この辺りには全く見当たらない。

これでは、回復などとても見込めない上に、精神的にも参ってしまいそうだ。


だからと言って、この場に留まっていても仕方がない。

それではいずれ干からびてしまうだけだ。

なので、ここはとにかく歩くより仕方がない。


しかし、しばらく歩いても、状況に変化は見られなかった。

周りの風景も、最初にいた場所とほとんど変わらない。

次第に歩くのが空しくなってくる。


「みんな、大丈夫か?」

「ああ」

「大丈夫…です」

「平気よ」


皆、自然と言葉が少なくなっている。

今の所は、まだ誰も倒れるような事はないが、この状態が続くと、いずれ歩けなくなる者が出てこないとも限らない。

とはいえ、歩くのを止める訳にはいかない。

ここは先に進むより他に選択肢はないのだ。


それからしばらく行くと、少しだけ景色が変わってきた。

赤茶けた岩のゴロゴロしている、乾燥した岩場が続くようになってくる。


更に進むと、その岩の色が変わってきた。

全体的に、少し色が薄くなってきたように感じられる。


何とはなしにユウがその岩の一つに触れると、少し触れただけなのにもかかわらず、意外に簡単に砕けてしまった。

この辺りの岩はとても脆くできている様だ。


ユウは、そんなたくさんある岩の一つのすぐ横で、立ち止まった。

「もしかしたら、どんどん暑くなってきているのかも。岩まで干からびている感じがするよ」


その横にフィノとアーダが並びかける。

「たとえそうだとしても、ここまで来たら行くしかないでしょ」

「さっさと抜けて、涼しい所で休もうぜ」


更に後ろからルティナがようやく追いついて来る。

ルティナはいつの間にか少し遅れてしまっていたらしい。

「何だかこの辺りは特に乾燥している様に思えませんか?」


ユウは後ろを振り返って見た。

すると、少し先の岩は近くにある岩よりも少し濃い赤色に見える。

あの岩は触れただけで崩れる程脆くも無かったはずだ。


よく見ると、そんな岩が後ろだけではなく、かなり距離はあるものの左右の位置にも見えている。

もしかしたらルティナの言う様に、ユウ達が今いるこの辺りだけが特別に乾燥しているのかもしれない。


と、ユウが思ったその時、突然、地面が大きく揺れ出した。

とはいえ、立っていられない程のものではない。


なのでしばらくその場で堪えて落ち着くのを待っていると、不意に、少し先の地面の下から赤茶けた巨大な岩が地面を割って現れた。

周囲の岩よりは随分と濃い色の、とても硬そうな岩だ。

大きさもユウの背丈の三倍ほどもある。

かなりの大きさの立派な岩だ。


しかも、驚く事に、その岩はユウ達のいる方に向かってゆっくりと近づいて来るではないか。

岩だと思ったその物体は、実は岩などではなく、岩のような皮膚を持つ巨大なトカゲだったのだ。


ユウは、ぱっと見岩のようにしか見えないその巨大なトカゲの動きを見極めながら、ゆっくりと腰の剣を抜き放った。

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