乾いた大地
扉を抜けると、ユウはまず全員が揃っている事を確認した。
フィノ、ルティナ、アーダ。
ユウを含めて四人とも無事に扉を通り抜けている。
必要な物は揃っていたはずなのだから当然の事と言えるのかもしれないが、どうやら今回は誰一人欠けてはいないようだ。
気が付くと扉は、いつの間にか何処にもなくなっていた。
というか、小屋自体が綺麗に無くなっている。
これは「時空の扉」を使った時の状況とよく似ている。
この扉もやはり一方通行だという事らしい。
アーダが、数歩前へと進み出る。
「何だここは。随分と暑い所の様だが、砂漠か何かか?」
その後ろをルティナがとことこついて行く。
「これだと何処へ向かえばいいのか、見当もつきませんね」
確かに、どうやらここは三百六十度見渡す限り荒れた土地の様なので、少なくとも目視では進む方向は決められそうもない。
しかし、ユウには念声が聞こえるし、その念声のする方向もわかる。
…はずなのだが、今はその念声は聞こえていない。
「うーん、あの念声はもう何度も聞いているから、聞こえていなくても大体の方向はわかるつもりでいたんだけど、…ここでは何故かよくわからないな」
「気配も感じないの?」
「いや、全く感じないわけじゃないんだけど、何ていうのか、方向が定まらない感じなんだよな」
「どういう事?」
「気配のする方向が動いているような妙な感じ方なんだよね…、…混乱しているのかな」
正確に言えば、動いていると言うよりは、転々と場所を変えているような、そんな風に感じられるのだが、実際にそんな風に動く事はないはずなので、感覚が狂ってしまっているとしか考えられない。
もしかしたら、ここへ来る時に通ったあの扉が何か影響を及ぼしているのかもしれない。
あの扉を通った直後から、感覚がおかしくなったような気がするのだ。
だがそうなると、どこに向かえばいいのかわからないという事になる。
「とりあえず、どこか緑のある所まで行きませんか? この辺りはとても暑いですし、こんな所にずっといたら、そのうち干からびてしまいそうです」
「そうは言っても、どっちに行けばその緑があるのかさえ、わからないんだよな…」
少なくとも見える範囲にそんな場所は見当たらない。
ヘタに進むと逆効果になる事だって考えられない事ではないのだ。
「かといって、ここにいても、何の解決にもならないんじゃない?」
「どっちでも構わないから、とりあえず、動こうぜ」
確かに、それはそれで判断としては間違ってはいないものと思われる。
このままずっとここにいても何も解決しそうもないからだ。
とはいえ、無駄に動いてはただ体力を消耗するだけだ。
それならまだ、ユウが感じる気配を頼りに動いた方がマシなのではないだろうか。
「わかった。でも、もうちょっとだけ待っていて。もう少しきちんと気配を探ってみるから」
しかし、もう一度気配を探ってみても、気配のある方向は、依然として定まってはくれない。
それどころか、雑音に惑わされているような感覚までするようになってきている。
ユウは、一人皆から少し離れた場所へと移動する事にした。
そこで改めて意識を集中させる。
すると、少しだけ気配のする方向がわかるようになってきた。
気配は、北東から南東、いや、真南くらいまでの間にあるように思える。
その反対側からはほとんど気配を感じない。
となると、理論的には東から東南東くらいを目指して行くのが最も確率が高いという事になる。
が、いまいちしっくりくるものがない事も確かだ。
確実にこっちだ、と思えるようなところまでは感じられないのだ。
三人がユウの事を遠巻きに窺っているのがわかる。
集中を邪魔しない様配慮してくれているのだ。
何か言いたげにしている様にも見えなくもないので、話しかけるのを我慢しているのだろう。
ユウは、とりあえず東に向かう事にするつもりで、待っている三人の所に戻る事にした。
と、三人が手招きでユウの事を呼んでいる事に気付く。
何だろうと思いながら、首を傾げつつ歩いていると、その塊の中からフィノが小走りに駆け寄って来る。
「ユウ、ルティナがいい事を思いついたの。もしかしたらこの状況から抜け出せるかも」
「どういう事?」
「この剣を使うのよ」
フィノはそう言って、背中の大剣を引き抜いた。
そして、その巨大な剣を片手でくるくる回して見せる。
フィノ以外にはできない芸当だ。
しかし、剣を使うと言っても、今はそれを使うような場面ではない。
少し遅れてアーダとルティナが追いかけて来る。
「そんな派手なパフォーマンスなんて、いらねえだろ」
「どんな結果になるかもわかりませんし…」
二人はフィノのパフォーマンスを見て苦笑いをしている。
ユウはルティナに聞いてみた。
「いったい何を始めるつもり?」
すると、ルティナはフィノの横を迂回してユウの隣に回り込んで来て言った。
「あの石碑の文字の通りにフィノの剣を地面に突き刺せば、もしかしたら何か先に進む為のヒントくらいはわかるのではないかと…」
「そうか、あの石碑の文字か…」
確かに、この辺りは一面の砂漠なので、これがあの石碑にある、渇きの時だと言えない事もない。
だとすれば、試してみる価値くらいはあるのではないだろうか。
「やってみるわね」
フィノはそう言うと、すぐそこに有った人の背丈ほどの岩の上に登り、そこで剣先を下に向けて構えた。
そして、そこから勢いよく飛び降りる。
フィノの振るった巨大な剣は、乾いた大地に見事にしっかり突き刺さった。




