上陸
剣の刺さった場所から浮遊島の上までは、比較的容易に移動する事が出来た。
フィノの剣が刺さっていた場所が島の端に近かったので、そこを起点にクリアムが糸を使って一人づつ島の上に放り投げてくれたからだ。
それを、最初に島に投げられたフィノが一人づつ受けるような格好で、最後にクリアムの事をも引き上げた。
剣は全員が島に上がった後、クリアムが糸に圧力をかけて引き抜き、それを引き上げる事で今はフィノの元へと戻っている。
ユウとしては、フィノにはまだ言いたい事が無い訳でもなかったのだが、この結果は悪くもない訳だし、あまり言うとフィノは酷く落ち込んでしまいかねないので、今回は飲み込む事にした。
全員が揃った所で、こうなった経緯を三人に話した後、ユウは小さく呟いた。
「さて、これからどうしようか」
実際、この島は行先を制御できる訳ではないので、一度乗ってしまったら後は成り行きに任せるより仕方がない。
ここからしばらくは運任せという事だ。
心配するユウに対して、三人は意外に落ち着いている。
「とりあえず、ここからの景色を堪能してはいかかでしょう。滅多に来られる場所ではないようですし、ここからなら凄く遠くまで見渡す事が出来ますよ」
「そうそう、考えても無駄なのだから、あまり深く考えすぎない方がいいぞ」
ルティナとアーダはそこから見える風景を楽しんでいる。
対してフィノは、ほぼ真下を見つめているようだった。
「大丈夫よ。きっと何とかなるに違いないわ。だって、この島、高度を上げ出したもの。きっとあの針山を越えて行くつもりなのよ」
言われてみれば、確かに島は徐々に高度を上げている。
先程までは横に見えていた少し先の山なども、いつの間にか下に見える様になっている。
ここまで高くなってしまうと、さすがにフィノが投げても剣は島に届かなかったに違いない。
そう考えると、あの時島が高度を下げてくれていた事は幸運だったと言えそうだ。
気が付くと、バールリッツと一緒に超えて来た岩山さえ、もう下に見える様になっている。
下で見た時には、島は山に隠れて見えなくなっていた時すらあったくらいなので、あの山の山頂よりも低い位置を飛んでいた事もあるはずなのだが、今はそれよりも高い位置を飛んでいるという事になる。
という事は、この場所からだと島の反対側は途中の小高い山が邪魔をして見えないが、例の針山の山頂をも超える高度に達しているものと思われる。
だとすると、このまま神域の方向へと島が流れてくれれば、作戦はあっさり完了となるのだが…。
しかし、島は高度を上げはしたものの、そこで動きをぱったり止めた。
神域の方向はもちろんの事、その他の方向にさえ、全く動かなくなっている。
島を押していた風が凪いでしまったのだろうか。
そう思い、腕を上げ風向きを確認しようとしたその時、ユウは何者かに背中を引っ張られた。
振り向くとそこにいたのは蜘蛛豹、クリアムだった。
「なんだ、どうかしたのか?」
クリアムはユウが自分を見た事を確認すると、くるっと後ろを向いて、すたすたと歩き出した。
島の中心方向へと向かおうとしているようだ。
島の上には地上と同様、森や草原、それに山、というか、少し大きめの丘のようなものまで存在している。
その丘は島のほぼ中央部にこんもりと盛り上がるようにあり、その頂には朽ちかけた古い城が見えている。
見るからに古い城なので人が住んでいる様には思えないが、一見すると他には建物が見当たらないようだし、そこは島の中では最も見晴らしが良い場所でもある様だ。
「みんな、クリアムがついて来いって言っているみたいだけど、とりあえずついて行かないか」
ユウの号令で、フィノ、ルティナ、アーダの三人が集まってくる。
ユウは、三人を促してクリアムの後に付いて歩き出した。
少し歩くと、小さな森に差し掛かった。
その森を過ぎ、その先の丈の長い草の藪を通り抜けると、正面の丘の上に荒れ果てた古城が見えてくる。
かなり古い城の様で、崩れかけている部分もあちこちに見受けられるが、土台の部分はしっかり残っている。
クリアムはその古城を望む丘の下で立ち止まった。
ユウがその横に並びかける。
「行かないのか?」
ユウの言葉を受け、クリアムはユウと視線を合わせ、しばらく黙ってユウの目を見つめた。
何か言いたい事があるのはわかるのだが、何が言いたいのかはわからない。
「もしかして、あの城の中に誰かいるのか?」
しかし、そうは聞いたものの、城からは人の気配は全く感じられない。
クリアムはなおもユウの目を見つめている。
と、アーダがユウの隣に来て、クリアムの目を半ば強引に覗き込んだ。
そしてすぐに言ってくる。
「城から強い力が湧き出しているのを感じるってよ」
「アーダ、分かるの?」
ユウはアーダの顔を見た。
アーダはユウのすぐ隣で、まだクリアムを見つめている。
「まあ、何となくだけどな。あと、その力はユウにを何か働きかけているように見えるらしいってさ。ユウ、何か感じないか?」
「いや、これと言って特には感じないかな」
言いつつ、身体を点検するが、特に異常は感じれない。
敢えて言えば、腰の辺りに少し違和感はあるものの、別にそこに傷がある訳でもないし、もちろん痛い訳でもないので、異常といえるレベルのものではないといえる。
「なら、大丈夫じゃねえのか。まあ、何かあったとしても、あたし達もついている事だしな」
アーダのその言葉を聞いたクリアムは軽く頷いて、それからもう一度アーダの目を見てから城の方へと向き直りゆっくりと歩き出した。
「一応注意してついて来てくれってよ」
「わかった」
ユウは頷くと、クリアムとアーダの後ろについて歩き出した。




