天の門
しばらく歩いても、出口はなかなか近づいて来なかった。
歩いても歩いても景色はほとんど変わらない。
なので、無限ループの中に放り込まれた様な感覚になりかけてしまったユウだったが、よく見ると出口の光が徐々に大きくなっている事がわった為、焦らずに進んで行く事にした。
が、更に歩くと終わりは突然表われた。
まだまだ遠くにあるように見えていた崖の端は微妙に傾斜がつけられていて、それで急に切れて無くなったように見えたらしい。
崖の切れたすぐ先には大きな門が立っていた。
極端に縦に長い鳥居のような、巨大な門だ。
門の向こうは小さな広場になっていて、更にその先には広葉樹の森が広がっているのが見えている。
「やっと出口に着いたみたいね」
「さて、これからどうしようか…」
そんな会話を交わしながら、前を行くユウとフィノが一緒に巨大な門をくぐったその時だった。
『誰かー、助けてください。誰かー。誰かー』
途端に、ユウの頭に誰かの声が響き渡る。
とてもはっきりした声で、それはつまり、そう遠くない場所に声の主がいる事を表している。
しかし、残念ながらこの声はずっと探してきたあの声ではない。
方向も随分と東寄りだ。
「どう…」
フィノは言いかけてユウの異変に気づいたようで、少し離れてユウの様子を窺い始めた。
ユウは声の出所をもう少し詳しく探ってみる事にした。
これだけ明確に聞こえているのだから、声の主の居る場所もすぐに分かるに違いない。
と思ったユウだったが、事はそううまくは進まなかった。
更に近くから別の声が割って入って来たからだ。
『助けて、助けて、助けてよー』
しかも、その声の数は一つではなかった。
『出して、こんな所はもう嫌っ。誰でもいいから早く助けなさいよっ』
『私たちを助ければ、その後きっといい事に恵まれますよ』
中には、助けを求めている割に随分と勝手な物言いをするモノまでいる。
この新しい複数の声の所為で、前の声はもう辿る事が出来なくなってしまっている。
今辿る事が出来るのはこの新たな声の主達だけだ。
そして彼等の声を辿る事は楽に出来た。
すぐに声を辿る事が出来たのは、この三つの声がほとんど同じ場所からした事に加え、彼等との距離が非常に近かった為だ。
彼等、三つの気配は、正面の森を北西に少し入った所にある。
前の声とは方向が異なるが、彼等を助けてやらない事には、その先の展開には進めそうもない。
いや、それ以前に、すぐそこに助けを求めているものがいるのだ。
それを素通りする選択肢はユウにはなかった。
ユウの視線の先を見て、フィノがユウに聞いてくる。
「そっちなの? っていう事は例の声ではないみたいね」
「今回の声は三つあるみたいなんだ。それに…近い」
「わかった。行きすぎない様に注意するね」
フィノはすぐに動き出した。
「おい、待てよフィノ。どこへ行く気だ?」
その背中にアーダが声を投げかけると、フィノはその場で小さく振り返った。
「アーダは後からユウとルティナと一緒に来て。大丈夫だとは思うけど、もし何かあった場合には、アーダが二人を守ってね」
そして、再び前を向き、狼のような素早さで森の中へと突入して行く。
「行くよ」
残されたルティナとアーダに声をかけ、ユウも少し遅れて森に向かって駆け出した。
そのユウを追い越して、アーダがユウの前に出る。
「フィノの行った後を追えばいいんだろ。だったら、あたしがフィノの痕跡を追って行くから、二人はあたしの後ろを付いて来てくれ」
森の中は下草が多く茂っていて走りづらく、先行するフィノの足跡を追いかけるのは簡単な事ではなさそうだった。
フィノとは念の声での会話が可能なため、迷子になる可能性は低いのだが、時間的なロスを最小にする為にはアーダに先頭を行ってもらった方が良いとも考えられる。
「わかった。けど、見失うような事があったら言ってくれ、フィノと連絡を取ってみるから」
「了解」
という事で、アーダを先頭に、森の中を少し行くと、声の主の気配は途端にぐっと濃くなってきた。
が、その気配はすぐに遠のいていくようになる。
その事に気付いたユウが、アーダに止まるよう指示を出すその前に、アーダはユウの少し前で停止した。
しかし、それは別にアーダがユウの心を読んだという訳ではなかったようだった。
「フィノが戻って来るぞ」
見ると、前方からフィノが戻って来ている。
全速力、という訳ではないようだが、高くジャンプし、猿のように枝を伝って戻って来るその速さはユウ達が走る速さよりもずっと速い。
アーダはそんなフィノの形跡を追ってきたのだろうから、それはそれで大したスキルと言えそうだ。
フィノはユウの前まで戻ってくると、申し訳なさそうに謝った。
「ごめん。行きすぎちゃったのかな? それらしい人って見つからないんだけど…。って、あ、そうか、このエリアにいる声の主って、人ではないんだったっけ…」
とはいえ、人に限らず動物などはっきりと姿がわかるものなら、フィノにもきっとわかったと思うのだが、神や神の眷属がどのような姿をしているのかについては、はっきり言って良くわからない。
見のがしてしまっても仕方がないとはいえそうだ。
「そう、俺も今その事に気が付いた所なんだ。でも、近くまで来ている事は確かだから、どんな姿であれ声を辿ればすぐに分かると思うよ」
実際、この間も、声はずっとユウの頭に届いていた。
そのほとんどが『助けて』を繰り返すかなり耳障りな声なのだが、しかし、そのおかげで彼等の位置ははっきりわかる。
通り過ぎてしまったのは、ユウも視覚に頼りすぎていたからで、それらしいものの姿を見つけられなかったからだ。
だが、声を辿る事だけに集中すれば、彼らを見つける事はそう難しい事ではないものと思われる。
「ここから先は俺が行く」
ユウは皆の先頭へと進み出ると、声を辿って慎重に今来た道を戻り始めた。




