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一駅分の恋  作者: yamac
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パートA

気の向くままに

ふんわりしたお話が書きたいのでそんな気分の時に更新します。

昨日3日ぶりに充電した音楽プレイヤーをポケットに忍ばせて家をでる。

家から学校までは40分。


たかだか40分くらいの通学時間でも3日経てば充電がなくなってしまう。


そろそろ替え時かな。

そんな事を思ったのは何回目だろう。

でもなんとなく買い替えずにいるのはコレが限定品だからかもしれない。

銀色の本体にメタルピンクのロゴ。

イヤホンには同じピンクメタルのロゴが浮き彫りされている。少し女性向けなデザイン。

限定品って言っても時々持ってる人を見かけるから、すごいレアものってわけでもない。

単純にデザインが好きだから買った。

それだけ。


今日聞く曲を決めながら、いつものように改札を抜ける。

前から3両目、ドアすぐの端の席。そこが私の指定席。


もう聞く曲は決まっているけど、小さな音楽プレイヤーをイジる振りをする。


次の駅へと向かう電車の中は程よく混んでいる。

席はちらちら空いてるが、立っている人もいる。

次の次の駅で乗り換えがあるからかもしれない。

私もその駅で乗り換えるのだけれど。


次の駅まで4分程。

その間に私は鏡を取り出し、前髪や顔の感じをチェックする。


次の駅の到着を知らせるアナウンスが車内に響く。


鏡をしまい、音楽プレイヤーのロゴを周りに見えるように持ちかえる。

今度の駅は向かいのドアが開く。私の席からは乗車してくる人の顔がよく見える。

深呼吸をひとつして、気持ちを落ち着ける。


ドアが開く。

なるべく見ないようにでも全神経はそのドアから乗ってくる人に向けられる。


少しの緊張と、期待。

ドクドクを高鳴る鼓動を回りに悟られないように、ポーカーフェイスの仮面を顔に貼付ける。


いた。


どうしよう。

今日はいつもより疲れた顔をしているな。


ドキドキしながらその人の顔を除き見る。

2、3駅先の高校の指定ブレザーを少し着崩している。

学校指定の鞄は半開きで乱雑に入れられた教科書と白いタオルが見えた。

耳には見慣れたイヤホン。

左手には見慣れた銀色の小さな音楽プレイヤー。

ロゴはメタルピンク。

私と、同じ。


 あぁ、今日もかっこいいなぁ


自分の顔が少し赤くなるのがわかる。

きゅっと自分の音楽プレイヤーを胸によせ、瞳を閉じて彼を焼きつける。


ちょうど一年前、同じ音楽プレイヤーを使う彼を見つけた。

はじめは何も感じなかった。ただ同じ音楽プレイヤーを使ってる人だっていうだけ。

少し女性向けなデザインのそれは彼の手によく馴染んでいた。

 それから一年間彼とはほぼ毎日同じ電車、同じ車両に乗っていた。

基本的に一人で乗ってくるけど時々友人らしき人と乗ってくる。

きっと前日に一緒に遊んで彼の家に泊まったとかなんだろうな。


その時の友人と話す彼の笑顔は、とても素敵だった。


気になり始めたのはいつだったんだろう。

気付けば毎日彼の姿を探していた。


『次は〜……き、次は…駅。左側のドア開きます、ご注意ください』

彼との思い出は一駅区間くらいじゃ語れない。

電車を降りるため腰を浮かせる。最後にちらっと彼を盗み見る。

音楽プレイヤーは胸ポケットに仕舞われ、代わりに携帯が彼の手に収まっていた。


携帯は同じじゃないんだな。


少し残念な気持ちになったけど、今日も朝から心はほかほか。

この気持ちはきっと恋に近いけどまだ恋としては未熟な物。


赤くなった顔を隠すように下を向き、駅のホームを移動する。

階段を上っている途中で電車は出てしまった。

おそらく2駅先の駅で彼は降りるのだろう。


ちらりと電車を見送り、向かいのホームへと足を動かす。

あと一分足らずで電車が来てしまう。


きっと私は彼の名前を知らないまま卒業して、恋とも呼べないこの気持ちはこのホームに置き去りにするんだろう。

声を掛ける気もない。

彼の事をちょっとは知りたいけど、知ってもらおうとは思わない。


彼と同じ音楽プレイヤーを握りしめ、学校へと急いだ。





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