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中学校という場所は、どうしてこうも落ち着くのだろうか。


 池宮城冬真(いけみやしろとうま)は、母校である東中学校の3年5組の教室に立って思っていた。特に用事があって来たわけではないのだ。3年前卒業して以来、一度も来ていなかった中学校に、行こうと思い立ったのはつい昨日のことだった。

 後輩の様子が気になっているのでもない。冬真は中学生の頃、部活にも生徒会にも所属していなかった。そもそも、冬真が3年前に卒業しているのだから、冬真が知っている生徒は、みんな卒業してしまっているのだ。

 それでも、知っている先生はいた。職員室の窓にちょこんと顔を出すと、3年生の頃に担任だった本井先生が声を掛けてくれた。3年間一度も会わなかった生徒を、先生はきちんと覚えていたのだろうか。それはすごい、と冬真は思った。本井先生は若い女性の先生だったけれど、ベテランの先生たちと同じくらい、教えるのが上手かった。教師が天職なんだろう。先生のおかげで受験に通った生徒も少なくない。高校受験のシーズンになると、本井先生は放課後に数学の講座を開いた。他にも仕事はたくさんあったのだろうが、それらを放っておいてでも、生徒のために数学を教えていた。

 「冬真君、ずいぶん久しぶりじゃない。卒業してから、一度も来なかったでしょう」

 「お久しぶりです。……あまり、来る機会がなくて」

 先生はきょとんとした顔になった。

 「そうなの?でも、鴨井君はしょっちゅう来ていたのよ。そう、鴨井君最近来なくなったから心配してるんだけど…彼、元気にしてるかしら」

 「鴨居は、大学受けるから、この時期は忙しいと思いますよ」

 「ああ…。もうそんな時期ね。まだ夏なのに…。でもそうよね、大学受験は、高校に入ったくらいから始まるわよね。そうだわ。私も猛勉強したのよ。……それより、ねえ、冬真君今日はどうして来たのかしら?あ、来ちゃいけないわけじゃないのよ。ただ…その、冬真君もほら、勉強しなきゃいけないんでしょう?それに、3年間一度も来てないから…」

 本井先生は、ゆっくりと、言葉を選ぶように聞いた。

 どうして、と言われても、冬真にも理由は分からない。唐突に中学校に行きたくなったから来たのだ。なぜだろう。冬真は自身に問いかけた。

 ただ、鴨居、と言う名前を聞いて、さまざまなことを思い出した。この中学校に通っていた、3年間。鴨居と出会った日。冬真と鴨居は、しょっちゅう一緒にいた。二人で協力して宿題をこなし、休みになれば自転車で"旅"と名づけて遠出をした。そんなに一緒にいたのに、卒業以来、ほとんど会っていない。携帯でするメールのやり取りも、たまにだ。それでも、冬真は鴨居のことを忘れずに、一番の親友だと思っているし、それは鴨居も同じことだろう。

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