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ONLINE  作者: niziya
LOG.05 " VERSUS "
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#05-01

電算部のトラブルに巻き込まれ、バーチャルステーションで大暴れしたシンこと久賀慎一と、それに付き合った(?)相棒のリンこと鮎川鈴音。本章はそこから5日後(『 NEW STAGE 』実装から1週間後)から始まる……


 七月二十八日(テスト六十五日目)──百諸島ハンドレッド・アイランズは晴れ時々、海賊船だ。

「シン! 左よ、左、左、左!」

「やってんだろ!」

 舵輪をめいっぱい回しているが、船はそう簡単に曲がってくれない。

 その間にも左腹を見せている《パイレーツガレアス》は大砲を撃ち込んでくる。

 全長約二〇メートルほどの微妙にデフォルメされたオール付き帆船。なんでも名前の通りガレアス船というものをイメージしたものらしいが、最近某月刊誌でリメイク外伝が始まった某海賊王漫画の最初期の船とそっくりなのは……知名度の問題か? まぁ、そんなもんだろうな。

 どうせだから、少し補足しておこう。

 実装済みの船舶系エクストラカードは大きく五階級に大別できる。

 最下級はボード。よくある手漕ぎボードそのものだ。

 次がスループ級。一本のマストで基本的に縦帆を持つ小型の船がこれにあたる。

 その上がキャラベル級。三本のマストで縦帆と横帆を持つものがある小型船だ。

 この上がバーク級。大きいが機動性に難のある四本マストの中型船になる。

 最上位はガレオン級。全長五〇メートル超の大型帆船だ。

 このうち、某海賊王漫画の最初期の船と似ている横帆版のバーク級は、案の定、テスターの人気も高いらしい。蒼都の青空市場で一発当てた面々が次々と百諸島のデフォルトスタート地点、神殿島でバーク級を購入しては「海●王に俺はなる!」と叫んでいるのが昨今のお約束になっているという書き込みもあるぐらいだ。

 で。

 船舶所有者が増えたせいか、百諸島には海賊船そのものが敵モブとしてポップするようになった。今、俺たちの進行ルート上に突如として出現した《パイレーツガレアス》もその一種だ。

 《パイレーツガレアス》は“ガレー船っぽいオールを付けたバーク級”といった見た目をしている。ただ、甲板に人影はない。マネキンすら存在しない。船そのものがモンスターとして攻撃してくる。そのあたりは、まぁ、ご愛敬ってところだろう。

「──ってぇえええ!」

 リンの雄叫びと共にこちらの右舷から突き出た《マナカノン》が爆音を轟かせた。

 十二の光弾が右舷から放物線を描いて続く十二の射撃補助線(ガイドライン)に沿うように高速で飛んでいく。その全てがキッチリと敵船右舷の砲門に着弾するのだから、俺の相棒はチートもいいところだと思う。

 ……いや、マジでどうなってんだ、こいつの頭の中。

 二〇〇メートル以上、離れてるだろ。

 おまけに、こっちも向こうも動きまくってるんだぞ?

 それなのに、なんで狙ったように敵船の全砲門をブッ壊してんだ?

 予測とかなんだとか、そういうレベルじゃないだろ。

「……うん、あとは作業?」

「あいさー」

 速度を落とし、あとは全てリンの砲撃に任せる。

 今回は初めて《パイレーツガレアス》がポップする、まさにその瞬間にカチあってしまったせいで最初は慌てたが……結局はいつも通りになってしまったわけで。

「んっ、お終いっ……と」

 HPがゼロになった《パイレーツガレアス》は、一般的なザコ敵と同じように、硝子が砕け散る演出によって消えていった。ドロップするのは大量のクリスタルのみ。『NEW STAGE』になってからアイテムドロップ率が激減しているが、ここまでアイテムが出てこないのは、正直、どうかと思う。

「シ~ン、航路戻していいよー」

「あいさー」

 俺は左側スクリーンに表示させている地図を確かめつつ船先を今日の探索地域へと戻すことにした。

 純白の船体が波間を切り裂く。

 風上に向かうが、そんなのは関係ない。

 この船の推進力は船首側の水中翼に備え付けられている謎の推進機関だ。船に詳しい人間に言わせると“全長約二〇メートル超のブリガンティンっぽい水中翼型チート艦”というのが、この船の正体らしい。

 サイズ的にはキャラベル級と同じ。

 だが搭載量エクストラ・イベントリィも砲門数もガレオン級に匹敵する謎仕様。

 世界に二十四隻しかないプライベーティア級の一隻。

 《クロスボーン・プライベーティア》。

 骨を思わせる装飾が随所に施されている少し不気味なこの白いチート船は、リンというチートな砲手を得たことで、もはやゲームバランスなど考えるだけバカバカしいほどの無敵っぷりを発揮している。

 で、そのチートの元凶様は、今、どうしているかと言うと……

「さーて、つづきつづき♪」

 俺の後ろ、つまり甲板後部の一段高い場所にソファーとテーブルを持ち込み、神殿島で買い込んだスィーツやフルーツに舌鼓をうっている。

 ちなみに家具系のエクストラカードも神殿島で購入したもの。

 今は使い心地を試している段階で、いずれ本格的に拠点用の家具類を買い集めるつもりなんだとか……

 まあ、どうせゲームの金なのだから、深く考える必要も無いと思うが。

「シ~ン」

「んー?」

「東側、そろそろ埋まるぅ?」

「あーっと……もうちょい」

 俺は右手を舵輪、左手を床から突き出ている長いレバーに置いたまま、展開させている三面スクリーンの左側を俯瞰(ふかん)映像から地図に切り替え、そう答えておいた。

 船は、基本的に一人で操船できる。

 本職にしてみれば噴飯ものだろうが、まあ、そういう仕様なのだから仕方がない。

 正面スクリーンは船体斜め後ろ上空からの、いわゆるサード・パーソン・ビュー。

 左右は表示を変えることができ、右側には船のステータス、左側には地図か真上からの俯瞰映像を流すようにしてある。地図は《マップ・オブ・ハンドレッド・アイランズ》と《コンパス・オブ・ハンドレッド・アイランズ》をパーティ倉庫パーティ・インベントリィ氏族倉庫クラン・インベントリィに入れておけばパーティウィンドウと船から閲覧できるので、今は氏族倉庫に保管中だ。

 今のところ地図は3分の1程度しか埋まっていない。

 いや、灰色に表示されている概要だけでも充分だって話があるのだが……ほら、こういう未完成のマップ、埋めたくなるもんだろ? ゲームクリアに関係なくとも、そこに歩くだけで更新されていくマップ機能があれば、地図の端まで埋めに行くのがゲーマーってもんじゃないか?

 そんなわけで、『 NEW STAGE 』実装から一週間が経った今現在も、俺たちは海のモンスターと戦いながら地図埋めに勤しんでいるところだったりする。

「ところでさぁ」

 と、相棒が例の話題を切り出してきた。

「アマテラスとかの件、今はどう?」

「どうもこうも、静かなもんだな……」

 バーステことバーチャル・ステーションで部長様と電算2号をぶっとばしたのは『 NEW STAGE 』実装の翌日、今から5日前のことだ。

 あれから連中は何も仕掛けてこない。

 諦めたのか。

 それとも何か別のことを企んでいるのか。

 まあ、新島の件はワカさんに任せてるので、そっちで何かあったかもしれないが、個人的にはどうでもいい話なのでわざわざ確かめるつもりもない。というか、また何かしでかしたらブッ殺すだけの話だ。オフで仕掛けてきたら……その時はその時。また考えればいい。

「それよりそっちは?」

「えっ?」

「だから、おまえんところの先輩。騎士団に」

「あー。ん~。今のところ、なんにも」

 とは言え、向こうはお嬢様学校の先輩後輩って間柄だ。俺のように殴っておしまい、みたいな感じにはいかないだろう。

「はぁ……めんどくせぇ」

「だねぇ。ほっといて欲しいんだけど……んんんっ! あっま~い♪」

 どうやらイチゴが美味いらしい。

「梨あるか、梨」

「梨はナッシング」

「うわぁ……」

「そーい」

「っと」

 肩越しに振り返るなり放り投げられてきた新鮮な梨を受けとり、シャクッと皮ごと囓ってみる。汁が垂れるほどジューシーで噛みごたえも最高。所詮は仮想現実なので腹にたまることは無いが、逆に言えばどれだけ食べても太らないということもであり……あー、道理でリンの奴、甘ったるいものばっかり買ってくるわけだ。

 そうそう。

 昨日、変装して買いだしを行った際、俺たちの服装も新しくなっている。

 トップス付きのブーツに濃紺のズボン、赤い帯布に白と薄青の横縞模様の入ったシャツ、そして頭に赤いヘッドスカーフをつけ、顔には目を隠すように《アイマスク・オブ・アサシン》を付けるという感じだ。

 端的に言うと“海賊船の水夫”ファッション。

 だがブーツはトップス込みで、落下衝撃吸収と水上歩行能力──ゲーム上の喫水判定面を歩けるだけなので波に足をとられやすい──がある《ウォーター/ショックブーツ》だし、ズボンとシャツは水属性耐性を持つ《ウォーターレジストクロース》だ。ヘッドスカーフは、これでも《レザーヘルメット》と同程度の防御力を持つ《パイレーツヘッドスカーフ》という代物だったりする。

 ちなみに相棒のシャツは丈が短く、へそが丸見えだ。

 あと第三者から見れば《アイマスク・オブ・アサシン》という目玉模様のついた目隠しをしている状態に見えるので、ちょっとばかしインパクトのある状態になっていると思う。

 無論、これらを選んだのは全て相棒だ。

 防御を度外視している理由は、《スケール・オブ・ブルードラゴン》だけで、けっこうどうとでもなってしまう上に、下手に重装備だと海に落ちた時……わかるだろ?

「ねー」

「んー?」

「あれ、敵じゃない?」

「んんー?」

 梨を囓りながら再び振り返ると、相棒がパンと胸前で両手を合わせ、小振りな望遠鏡を具現化させていた。俺も思考操作で《ショート・テレスコープ》を具現化、相棒が眺めている方角に視線を走らせてみた。

「どこだ?」

「ほら、雲と雲の切れ間の真下から……あっ、消えた」

「消えた?」

「出た。あそこよ、あそこ。小さい島……椰子の木が二本の、その右の、岩の奥の」

「いた。あれか」

 距離はザッと……3キロ?

 マストは三本。前マストと後ろマストに縦帆、中のマストに横帆。いわゆるブリガンティン型。それが意味するところは、ひとつしかない。

「あれって……プライベーティア級?」

「だろうな」

 どうやら俺たち以外にも海賊王キャンペーンに参加し、氏族を構えてプライベーティア級艦船を手にいれた人間が現れたらしい。お目にかかるのはこれが初めてだが、骨造りというべき俺たちの《クロスボーン・プライベーティア》と違い、あちらさんは船体に流れる渦のような模様を描く雅な形をしているらしい。

「っと……向こうも気付いたか?」

「だね」

 船先が不自然なほど早くこちらに向き、その直後から盛大に船首左右の波間が白い飛沫をあげ、加速を始めたのだ。マナを燃料にする水中翼推進機を使い出したのだ。

「……なぁ」

「なに?」

「どっちだと思う?」

「どっちって?」

「アンチかどうか」

「ん~っ……なんか舐めるようにジロジロ見られてた感じだったけど……」

「えっ?」

「えっ?」

 俺と相棒は顔を見合わせた。

「ジロジロ見てたって……なんでわかる?」

「あー、それ。ほら、前からあったじゃん。視線の圧力みたいな感覚。バーステで暴れた時、なんかこう……それっぽいやつ、掴んじゃったのよ。うまく言えないけど」

「なにそれ」

 視線の圧力──確かに、そういったものがあることは、俺も間違いないと思っている。そうでなくとも銃や呪文の射撃補助線なんかは背中に当てられてもソレと感じられるようになっている。詳しいことはよくわからないが、ゲームシステム的な処理か何かを、微妙な肌感覚として捕らえているような気がする。

 その理屈で言えば、視線も、感じ取れる可能性が高い。

 見ることそのものが、この仮想現実では様々な処理を必要としている。そうである以上、見られたことにより発生する処理を、相棒のように肌感覚として捕らえることも不可能ではない……が。

「そういうの、ウィザードの領域って言わないか?」

「あんたにだけは言われたくないんだけど」

「どこが?」

「どこも」

「かしこも」

「かしこかしこみ」

 そんな馬鹿なことを話しているうちに、俺はレバーを上スイッチを押しつつ前に倒した。ガチンッと音が鳴るまでレバーが倒れると、船首方向から何かが唸るような音が響き始める。それはすぐさま、ドッという水中翼推進機の水流噴射音へと変化した。

 船体が勢いよく進み始め、船首がわずかに浮き上がった。

 白骨の船体が、波上を滑るように加速していく。

「あちゃあ」

 相棒が立ち上がりながら小さくつぶやいた。

「あれ、もしかすると《メイルシュトローム・プライベーティア》かも」

「げっ」

 二十四隻あるプライベーティア級。俺たちはその全ての中から、とある理由で《クロスボーン・プライベーティア》を選んだ。だからこそ、他のプライベーティア級についても基本的なスペックは把握している。

 プライベーティア級は運用に莫大な《マナカード》を必要するというデメリットを持つ一方、全スペックがガレオン級に匹敵し、さらには一隻ごとに異なる特殊能力まで設定されている。

 《クロスボーン・プライベーティア》の特殊能力は──自動修復(オートリペア)

 船の破損は、専用施設でしか治せない。

 それだと色々と面倒そうだ、という理由で俺たちはこれを選んだのだ。

 そして。

 プライベーティア級の中には速力で他の追随を許さない船がある。

 《メイルシュトローム・プライベーティア》。その特殊能力は──加速増強(アクセルブースター)

──ドドドドドドッ!

 彼方から爆音が迫りだした。

 あの船だ。

 船首側左右の波間にあがっている飛沫が、あろうことか船体に匹敵する大きさにまで膨らんでいる。それと共にものすごい勢いで距離を詰め始めていた。今のところ、こちらの真後ろを追走する構えを見せているが、どこで側弦を見せ、《マナカノン》を撃ち込んでくるかわかったものじゃない。

「うわぁ、気合い入ってるなー」

「どこの連中だか……」

「騎士団とか?」

「だったらどうする?」

「潰す」

「違ったら?」

「ひねる」

「にげてー、ちょーにげてー」

 今現在、ネットのPO系は、どこもかしこも絶賛混乱中といった感じだ。おかげで、どこの誰が本物のプライベーティア級所持者なのか、特定しきれていない。蒼海騎士団の一部が数隻抑えたらしいことはわかっているが、どのプライベーティア級を抑えたのかまではわからないのだ。

 ちなみに新要素に関する情報も絶賛混乱中。どこかの誰かが情報戦をしかけているのか、それとも祭好な連中が暴れているだけなのか……おそらくその両方だろう。厄介な話だ。

「まっ、面倒だし、こっちが逃げるか」

「異議なーし」

 相棒が賛同したので、俺は思考操作で氏族ウィンドウから本拠帰還(リターン)を選択した。俺と相棒、そして俺が船長として操舵輪に触れている《クロスボーン・プライベーティア》が淡く輝きだし……次の瞬間、軽い浮遊感と共に視界が真っ白に染まった。

 転移先は我らが本拠地、クロスボーン島。

 正確にはそのからほんの少し南に下った海上に、俺たちは船ごと戻っていた。

「なぁ、船降りたらアリアリでやらねぇか?」

「ん~っ、ただやるのもなんだし……賭ける?」

「波動拳」

「島」

「げっ……それって、あれだろ。島の形、変えるっていう……」

「今ならギリギリで買えそうだし」

「……波動拳レベル7」

「5」

「7」

「5」

「……7」

「5」

「……………………」

「もぅ……じゃあ、6にしていいから」

「よぉしッ!」

 蒼都スレの書き込みによると、レベル6以上になると残光エフェクトが付くらしい。

 そうだよ。そう。リアル波動拳の次は、リアルか○はめ波だ!

 勝つしかないだろ、今回のガチ喧嘩。

「……そういうところだけは、あんたも充分、普通の男の子なんだ」

「んっ?」

「べっつにー」

 まあ、いい。さぁ、やるぞ。さぁ、勝つぞ!!


2012.01.15

前書きの誤字修正。主人公の名前を間違えるって……('A`)

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