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ONLINE  作者: niziya
LOG.04 " BUCCANEER "(未改訂版)
51/57

#04-16

「ぬぉおおおおおおおおおお!」

 キンキラ部長様が雄叫びと共に駆け寄ってくる。

 杵のつくところに白い光球──射出前の《ライトアロー》が出現していた。

 あれを叩き付けるつもりらしい。

 距離は約10メートルから少しずつ………………

(………………)

 遅い。走るのが遅すぎる。

 電算2号同様、アビリティを全て防御に回しているからだろうが、あまりにも動きが亀だ。これじゃ、かもにしてくれと言ってるようなものだが、本当にそれでいいのか?

 ちなみに俺のアビリティは得意魔杖特化系のバランス型にしてある。

 職種系は《グラップラーLv5》、《ランサーLv3》、《キャスターLv4》の3種。

 増強系は《ストレングスLv2》、《ディフェンスLv5》、《ダイエットLv3》、《スキンガードLv2》、《アイアンフィストLv5》、《アイアンレッグLv5》の6種。

 付与系は《ライトフィストLv3》、《ライトレッグLv2》、《エナジーショットLv3》の3種。

 見ての通り、拳闘系魔杖寄りのレシピなのだが、実際には槍で戦っていることが多いという、けっこう謎な感じになっているのは秘密だ。

 そういうわけで。

(……マジで耐えてみるか)

 俺は自分の限界を確かめてみるべく、この勝負、1本目を捨てることに決めた。

 部長様が迫る。

 このまま行けば、杵が頭に振り下ろされることになりそうだ。

(………………)

 さすがに頭は怖い。左腕で受けることにする。

 《アイアンフィストLv5》と《スキンガードLv2》、さらに《スケール・オブ・ブルードラゴン》で固めている左腕だ。よっぽどの攻撃でない限りダメージは通らず、痛みや衝撃も嘘のように打ち消してくれる。

 もっとも地下(アンダーグラウンド)では、これくらいの守り、軽々と吹き飛ばすような化け物どもがけっこううようよしていたりするのだが。

(さっ、お手並み拝見……)

 と思った矢先だった。

 杵先端の光球から球状のワイヤーフレームが広がった。しかも、大きくなるにつれて球の中心は杵から離れていき、決して杵の持ち主はワイヤーフレームの中に含めようとしないままで……

「しまっ──」

 咄嗟に俺は飛び退けようとした。だがその頃にはもう、部長様は、巨大化したボール状のワイヤーフレームを虫取りの網にでも見立てたかのように、杵を勢いよく振り下ろした。その時の部長様の表情は、嬉々としながらも一抹の不安をぬぐえない、といった実に複雑なものだった。

 安心しろ。さすがにこれは、俺もやばい。

──ドドドドドドドドドドドドドドッ!!

 ドフッという単発の爆音が間断なく全方向から轟いた。

 猛烈な衝撃と熱が全身をくまなく傷つけていく。

 視界の左側に表示されている俺のHPバーは猛烈な勢いで減りだした。

 俺は歯を食いしばった。

(くそっ、アロー系じゃなくボール系か!?)

 攻撃呪文は今のところ、単体攻撃用のアロー系と範囲攻撃用のボール系が用意されている。前者のダメージが後者より高いため、杖系のユーザーの大半は──俺を含め──アロー系を好んで使う傾向がある。だからこそ部長様もそうだろうと、つい思いこんでしまった。

 失態だ。

 我ながら自分自身に腹が立つ。

「……ちっ」

 完璧なまでに、連続発動する《ライトボール》の範囲内に取り込まれている。

 抜けられないこともない。

 だが、かなり派手なことをする必要がある。

 あれだけ言っておいて、今さら、そんなことは俺にできない。

「終わりか」

 俺がそうつぶやいたと同時に、HPがゼロになった。

──HIT POINT is EMPTY. YOU DEAD.

 例のマシンボイスが聞こえた。

 衝撃と熱が消え、視界がそれまでとは違う白さに染まったかと思うと、俺はここのボックスの椅子に座っていた。デッドジャンプさせられたのだ。

「……コロセウム以来か」

 俺のデッド経験は、相棒とガチで殺し合ったあの時が最初で最後だ。リンもそう。死にかけたことなら数え切れないほどあるが、そのたびに片方がフォローに入る──もしくは手加減する──ため、意外とどうにかなっているのだ。

 それにつけても……我ながら情けない。

「予想できただろ。ボール系だってことぐらい……」

 確かに連続発動でPKをやるなら、アロー系のダメージに拘る必要はなくなる。むしろ、ピンポイントで狙わなければならないアロー系より、おおざっぱな狙いでも相手に攻撃があたるボール系のほうが有利だ。

 そんなことは考えるまでもなく、わかっていた。

 ああ、わかっていた。

 見抜いたとしても結果が変わっていなかっただろうこともわかっている。

 そう、わかっている。

 どうしてこんなに頭に来るのか、俺自身、不思議なくらいだったが、とにもかくにも俺自身にムカついて仕方がない。おそらく、慢心で予測を違えたことが腹立たしいのだと思う。

「………………ちっ」

 舌打ちをしながら立ち上がる。

 視界の片隅でカウントダウンが始まっていた。

 インターバルは60秒らしい。

 俺はもう一度舌打ちをすると、頭をかきながら外に出た。


 相棒(リン)が不機嫌そうに立っていた。


「………………」

「………………」

 なにはともあれ。

「……おい」

 とりあえず声をかけてみる。

「なによ」

 ムッとした顔で言い返してくるその外装(アバター)は、間違いなく相棒(リン)のものだ。

「……なんでいるんだ。ここに」

「こっちの台詞よ」

「例のカルトなアマテラスに呼び出された。そっちは?」

「ハメられた。蒼海に」

「蒼海?」

「ハメたというのは心外だな」

 相棒の向こう側には、海色のノースリーブロングコートを羽織った妙にさわやかそうな男がいた。鳥の巣のような頭とダルそうな垂れ目、額の一本角が特徴的な男だ。その傍らには海色のアオザイを上品に着こなす胸の大きな女性の姿もある。どちらも見覚えがあった。見た瞬間、あの日のことを思い出していた。夕日がキレイだった俺とリンの隠れ家的な宿を去る原因になった、あの日のことを。

「てめぇら……」

「詳しいことはまたあとで」

 鳥の巣頭はグラウンドを一瞥した。

「念のために言っておくけど、東京のβ1(ビーワン)を集める話はずっと前からあったことなんだ。Cα(クーア)だけじゃ、祭りにならないからね。彼はそれを利用して、“SHINを倒した男”になりたかったようだけど……」

 奴は苦笑する。

「それが実現しそうで、すこし驚いているところさ」

「次はてめぇだ」

 俺はカウントダウンが20を切ったのを確認した上で、ウィンドウを開いた。

「次?」

 鳥の巣頭が不思議そうに尋ねてくる。

 俺は鼻で笑った。

「決まってんだろ……あのキンキラの次は、てめぇをあそこでぶちのめすって言ってるんだよ」

 そのまま俺はグラウンドに転移しようとした。

「シン」

 転移の直前、相棒が呼びかけてきた。顔を向けた瞬間には、もう俺は転移に入っていたが、その一言は、しっかりと耳に届いていた。


「──許す」


 次の瞬間、俺は巨石が点々とする芝生に覆われたグラウンドに出現していた。

「あーっははははははは!」

 キンキラ部長様は腹を抱えて笑っている。喜んでいるところらしい。

「なんだ、あっけないじゃないか! もっと耐えると思ったら、他のやつらと同じ! あははははは! なにが神様だ! なにがSLだ! 全然、全然すごくないじゃないか! あーっはははははは!」

 カウントダウンは10を切った。

(さて……)

 困ったことになった。

 なにが困ったかといえば……相棒に、許されてしまったことだ。

 なにを許されたか?

 制限だ。

 いざという時に備えて一切情報を出していない切り札を、なんでも使っていいと言われてしまったのだ。

(……いや、あれは使っていいじゃなくて……“使え”、だな)

 より正確に言うなら“見せつけろ”かもしれない。

 相棒は相棒で頭にきているようだ。

 まあ、俺もそうだが。

 だが初公開の相手が、こんなクズ野郎だと思うと……いや、お披露目相手としては、そう悪くない相手かもしれない。なにしろこいつらはガチガチに守りを固めている。装備を軽くしている理由まではわからないが、瞬殺されないことは間違いない相手だ。

 気になるのは、観客が蒼海騎士団に絡んだ連中ばかりらしいというところだ。

 ムカつく。

 あの鳥の巣頭の垂れ目を思い出すだけで、妙にムカついてくる。

「あーっははははは! さぁ、《青》の神様! そろそろ始まるぞ!!」

 キンキラが笑いながら杵を持ち上げた。

「でも、すぐ終わるけどね! あーっははははは!」

「……だな」

 俺は部長様を一瞥すると、首を軽くもんだ。

「そういや、言ってなかったな」

「今さらなにを言っても負け犬の遠吠えだよ! あーっはははははははははははは!!」

「おまえがさっきやったやつ、俺たちはずっと前から裏技って呼んで、自分たちなりに使い込んでるんだが……あとで教えろ。おまえらがなんて呼んでるか」

「はははは……は?」

 杵を振り上げている部長様は、笑顔を凍らせ、驚きのまなざしを向けてきた。

 カウントダウンが終わろうとしている。6……5……4…………

「とりあえず今度はてめぇが──」

 俺は軽く膝を曲げた。カウントダウンが終わる。

「逝け」

 刹那、俺は《スケール・オブ・ブルードラゴン》の固定アビリティ《・・・・・・・・・・・・・・・》を発動させた。

 四肢の鱗がすべて逆立ち、青い燐光を放ち始める。

 腕力も脚力も何もかも2倍に強化された俺は、一瞬でキンキラへと肉薄、やつの目元を左手がガッシリと鷲掴みにした。

 向こうに反応する暇など与えない。

 そのまま俺は《エナジーショット》──掌から《ライトアロー》を放つアビリティ──を連続発動させた。

「ぐあぁあああああああああああああああ!?」

 部長様が奇声を張り上げた。

 《エナジーショット》のせいだけではない。俺が《スケール・オブ・ブルードラゴン》を発動させたまま、渾身の力でアイアンクローをかけ続けているせいだ。

 いくらアビリティカードで守りを固めていようと、逆鱗を解き放っている今の俺の握力で顔を捕まれたらたまったものじゃないはずだ。実際、リンはこれをやられると速攻で負けを認める。おかげでこいつはリンと喧嘩する時でさえ、禁忌技にしているぐらいだ。

「ああああああああああああああ────────」

 悲鳴が急に途絶えた。

──WINNEAR 【SHIN】

 マシンボイスが勝利を告げると同時に、部長様の外装(アバター)が消えてしまった。さっきの俺のようにデッドジャンプしたのだ。

「なに地味な勝ち方してんのよ」

 そう告げながら、俺の背後に相棒がスッと転移してきた。

「………………」

 どうして転移できる?──と疑問に思いながら振り返ると、

「同じクランかパーティのメンバー、インターバル中なら仲間のところに行けるのよ。なんか文句ある?」

 と言い返してきた。

 無論、文句なら、ある。

「地味で悪かったな」

「ア(・)レ(・)でやっちゃえばいいじゃない」

逆鱗(これ)で充分だろ」

 発動から100秒過ぎると、燐光は消え、逆立った鱗は元に戻ってしまった。これ1回につき1万MPも装填しないといけないアビリティだが、1万MPになるよう融合した《マナカード》は10枚以上、常に持っておくようにしてあるため、特に大きな問題はない。

 ちなみにアビリティの名前は《ゲキリン・オブ・ブルー》。市長には、あまりにもあまりな名前なので改名するよう進言してあるが、PO全体のネーミングセンスがけっこうすさまじいところを考えると……あまり期待しないほうがいいだろう。

「だいたい、ア(・)レ(・)はまだ不安定すぎるだろ」

「だから試すんじゃない」

「ここで?」

「ここで」

「でもなぁ……」

 直後、部長様がグラウンドに戻ってきた。

「き、貴様! 卑怯だぞ!!」

 第一声が、これだ。

「スサノオを珍しい火器で脅したばかりか、我に対しても、そんな、貴様らしか持っていない装備でゴリ押ししてくるとは──」

「黙れ」

 俺は、カウントダウンがまだ30秒以上あるのを確認しながら部長様に向き直った。

「ノーリミットだろ。言い出したのは、そっちだ」

「うぐっ……」

「なんならレギュレーション、今から決め直せ。ただし、1本勝負だ。それで決める」

「……くっ」

 歯を食いしばった部長様は、その場でウィンドウを展開し、なにかを入力していった。

 と、俺の前にウィンドウが強制展開する。

 バトル中断の同意を求めるウィンドウだった。

 俺は深く考えず、YESを押した。

 すると続けざまに別のウィンドウが出現した。バトルロイヤル=ポイントマッチ、ノーリミット、制限時間30分への参加募集を促すウィンドウだ。

「なんだこれ」

「早く参加しろ!!」

 部長様は焦り気味に言い返してくる。

「あっ」とリン。「わたしも参加できるってこと?」

 見ると相棒の前にもウィンドウが展開している。

 まあ、それもそうか。ポイントマッチという部分が謎だが、バトルロイヤルなのだから他の連中が参加できてもおかしくない。気になるのは、わざわざそんなもので、部長様がなにをしようとしているのか、という部分だが……

「早くしろ!!」

 部長様は焦っている。その理由は、すぐわかった。


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