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ONLINE  作者: niziya
LOG.03 " NEW STAGE "(未改訂版)
31/57

#03-12

「ここに潜れば……?」とリン。

「多分な」と俺。

 地下14階のアッパーボックスから遠く離れたところには、鍾乳洞にありがちな大きな池――俺たちは、そこへと移動していた。

 ちょうど細い道から大きく膨らんだところの右側にある、細長い水溜まりだ。

 電灯(ウィル・オー・ウィスプ)が頭上にあるので真下を見るのは難しいが、透明度の高い水たまりは、奥行きが約1メートル、左右の長さが約10メートルほどあった。深さは軽く3メートル近くあるだろう。

「ビンゴ」

 端から調べていくと、ちょうど真ん中のあたりに、奥に向かって続く穴が空いていた。

 水底から直径2メートルほどの穴が空いているのだ。

 それも、自然洞窟ではありえない、まるで鋭利に切り取られたかのような丸い穴が。

「潜る気?」

「当然」

 俺はジャケットとハーフパンツを収納。ガンベルトや《トライデント》も収納した。

「すぐ戻る」

「ちょっと!」

 まだ躊躇していたリンを残し、俺は思いきって水たまりに飛び込んでみた。

 ザブンと、冷たい水の中に落ちた感触がある。

 やはりPVだ。息苦しさまで再現している。これから先端技術嫌いになりそうだ。

(どれ……)

 目を開けてみると、目の前に問題の穴が空いていた。

 水中でも電灯(ウィル・オー・ウィスプ)が輝いているおかげで、穴の中はバッチリ見えていた。材質は金属。リベット撃ちされている。だが、10メートルほど先で行き止まりになっているらしい。その上からは、柔らかい明かりが差し込んでいる。

(ビンゴ)

 俺は水底を蹴り、上にあがった。

 角が丸まっている縁に両手をつき、顔を水上に突き出した。

「ぷはぁ!」

「どうだった?」

 そこでは、ショックシューズに肩無しシャークウェアという俺と同じ格好になったリンが、金髪のポニーテイルを揺らしながら、準備体操をしているところだった。

「ビンゴ。あと、けっこう冷たい」

「やっぱり?」

 リンは縁に腰掛け、両足を入れてから水の中に入った。

「なによ。けっこう温いじゃない」

「ウェアのせいだろ」

 リンは軽く潜り、すぐ上にあがってきた。

「ふぅ――けっこう気持ちいいかも。それよりどいてよ。穴、見るんだから」

 俺が横にずれると、再びリンはスッと潜り、少したってから顔を出した。

「楽勝じゃない?」

「そりゃあ、そんな遠くに設定できないだろ。ゲームなんだし」

「ところでさ――息、どれくらい止めていられると思う?」

「……試すか」

 ウィンドウの時間表示を使い、ひとりずつやってみたところ、俺は約40秒、リンはなんと1分10秒ほど我慢できた。

「さすが経験者」

「はぁ、はぁ、はぁ――なんで仮想現実なのに息苦しいわけ?」

「脳がそう判断してるんだろ?」

「じゃあ、あんたも鍛えなさいよ。水泳、筋力付けるのに最適なんだし」

「はいはい。じゃあ、行ってみるか」

「OK」

 俺たちは、俺、リンの順番で穴の奥に向かってみた。

 10メートルほどの横穴を進むと、リベット撃ちされた鉄板で囲まれたプールのような場所に出る。

 深さは水たまりと同じ約3メートル。よく見ると、もう少し進んだところに段差があった。

 とりあえず水面に顔を出してみた。

 広い鉄板の壁に囲まれた部屋だ。横幅は約3メートル、天井が高く、進行方向には横幅いっぱいのなだらかな上り階段があった。

 その奥は、水面からだと、よく見えない。

「ふぅ」

 すぐ横にリンの顔がでてきた。

「雰囲気、違うね」

「だな」

 俺たちは階段のあるところまで進み、水からあがった。

 警戒しながらも、そのまま階段をあがってみる。

 案の定、すぐ奥にログインボックスがあった。俺が無言で右拳を横に出すと、リンも無言のまま、左拳をガンッと重ねてきた。

 あまり知られていないが、『 PHANTASIA ONLINE 』には2分ルールというものがある。汗や息の乱れなんかは2分ほどで消えてしまうという仕様のことだ。

 濡れた体も同様らしい。

 装備を調えながら、2分ほど水面を眺めていると、体はすっかり乾いてしまった。

「ねぇ」とリン。

「んっ?」と俺。

「海に突き出たテラスのある宿って、無いのかな?」

「さすがに宿は厳しいんじゃないか?」

「だよねぇ」

 ここ最近、急に蒼都の探索が進んでいる。といっても、紅都や翠都に比べれば、かなり遅れての展開でもある。それでも、どこそこになにがあった、あそこになにがあったという報告が、蒼都スレに次々と寄せられているそうだ。

 今ではほとんどの宿、購入可能な分譲部屋と家屋、東区のゴンドラ時刻表まで『マトメ』に載っている。隠れ宿屋もほとんど見付けられており、安い物件は、すでに投資の対象として買いあさられているそうだ。

「んじゃ、軽く見回ったら、新しい宿、探しに戻るか」

「たまには戻らないとねぇ」

 俺たちは誰も見たことがない地下15階へと向かってみることにした。



━━━━━━━━◆━━━━━━━━



 今度の迷宮は、一言で言えば“秘密基地”だった。

 構造素材はリベット撃ちの鉄板。通路は碁盤の目のように均等だが、ところどころがぶ厚い隔壁で阻まれていた。ためしに攻撃してみたが、壊れるどころか傷ついても、2分でどこからともなく現れた粒子で修復されてしまった。

 敵も新しくなった。

 地上1メートルを浮遊する円筒状のロボット――セキュリティポール。

 高速で動くバスケットボールサイズの涙滴型ロボット――ルーケサイト。

 蜘蛛の頭部に人の腰から上がついているようなドール――アルケドール。

 いずれも遠距離から銃器系で攻撃してくる厄介な敵ばかりだ。しかもあえて接近戦を挑んでも、固くてなかなかダメージが通らない。俺にとっては天敵とも言える連中だ。

 おまけに、上へ戻ることができなかった。

 最悪だ。

 予定では22時半頃に取り引きがあったのだが、物理的(?)に不可能になってしまったのだ。

「ねぇ、シン。カートリッジ、全然落としてくれないけど、どうする?」

「今度は兵糧責めかよ」

 新しいカードも手に入るが、回復系と弾薬系のカードだけが手に入らない。かといって近接で挑んでも時間がかかるだけだ。

 なるほど、なかなか考えられている。

「こうなったら意地でも近接で乗り切るしかないってところか……」

「わたしも?」

「当然」

「ぶーぶー、女性虐待はんたーい」

「男女平等ぉ、さんせーい」

 俺たちは戦い続け、時間も無かったため上がれないアッパーボックスでログアウトすることにした。ダウンボックスを探すだけでも、かなり苦労しそうだったのだ。



━━━━━━━━◆━━━━━━━━



 PVベッドのフードがあがると、開きっぱなしになっていた部屋のドアから、背広姿の親父が入ってきた。

「――あれ?」

「着替えろ。戦いだ」

 それだけ言い残し、親父は部屋の電気を付け、ドアをバタンと閉ざした。

 しばらく呆然としたままドアを見つめる。

「……待ってたのかよ」

 ベッドを降りた俺は、そのまま机のケータイを手にした。

 登録してあるリンの番号にかける。

 耳にあてながら部屋着を脱ぎ捨て、クローゼットから制服を取り出す。

〈もしもし、何かあった?〉

 さすが相棒。察しが早い。

「よくわからん。でも、親父から『戦いだ』って言われた」

〈怪我の具合は?〉

「左手がまだ。頭は平気」

〈POのほうはわたしに任せて。いい。無茶してあんたがこれなくなったら、わたし、北海道まで乗り込むからね。わかった〉

「勘弁しろよ。生身は外装ほど頑丈じゃないんだ」

〈殴るだけよ。撃つわけじゃないから平気でしょ?〉

「せめて平手にしろ、平手に」

〈OK。今日は起きてるから、愚痴りたくなったらいつでも連絡して〉

「OK、相棒。じゃあな」

 電話を切った俺は手早く半袖Yシャツを着込み、ネクタイを持って部屋を出た。

 リビングには、親父と母さんが座っていた。今すぐ外出可能な格好で、だ。

何事(なにごと)?」

 俺はネクタイを結びながら尋ねた。

「おそらく今夜でおしまいだ」

 親父が溜め息混じりに応えた。

「終わりって――」

 尋ね返すより先に、家の固定電話が鳴った。

 子機を手にした親父が、ワンコール目が鳴り出すが早いか電話に出た。

「もしもし、久賀です……はい、そうです。お疲れ様です。それで、大山憲義くんの状態は……えぇ…………はい……………………はい………………はい……………………はい…………………………そうだと思い、準備していました。今からでも大丈夫です。先方も、そのようにお望みだと思いますが………………いえ、責任はあくまで先方にあります。なにも先生が気に掛けることはありません。では、これから伺わせていただきます」

 親父は電話をきった。

 険しい表情の母さんが、スクッと立ち上がった。

 左頬の湿布が痛々しい。おまけに首に見える青痣も見るだけで胸が痛んだ。

 大山父を止めた時、母さんは大山父に首をしめられたのだ。そればかりか、左頬を何度も何度も叩かれている。執拗に左頬ばかり叩かれた母さんは、今もひと目でわかるほど、頬を腫らしている。

「母さんは――」と親父がいいかけた。

「お父さん」

 母さんはジロッと親父を睨んだ。

 しばらく二人は黙り込んだ。

 負けたのは親父だ。

 重い溜め息をつきつつソファーから立ち上がり、俺をジロッと見た。

「慎一」

「あいよ」

「父さんはおまえと母さんを天秤にかける状態になったら、真っ先に母さんを助ける」

「俺が親父と母さんを天秤をかけたら、やっぱり母さんが先だな」

 俺は頭のネットをむしりとった。

「あら、私は二人とも助けますからね。どんなに嫌がっても」

 母さんが断言した。

 俺と親父は顔を見合わせ、こりゃ勝てないわ、と苦笑しあった。

「よしっ」と俺。

 調子が出てきた。

 なにがなんだかわからないが、このイベント、なにがなんでも乗り切ってやる!


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