#03-05
部屋に戻った俺たちは、わずか十数分で終わる夕暮れの光景を堪能した。
「じゃ、行くか」
「了解」
西の空が赤紫色に変わったところで部屋を出発。宿の前にはゼノンの仲間たちがたむろしていたが、俺たちはそれを無視して中央広場に向かった。それぞれログインボックスに入り、アンダーグラウンドへの転移を選ぶ。
残り時間は１時間を切っていたが、俺たちは変装したままの状態で、迷うことなく地下４階まで降りていった。使った魔杖は共に《バーストガン》だけだったが、煉瓦階層の段階では、これだけで充分すぎるほど対応可能なのだ。
「時間だな」
「じゃ、後で」
９時５１分、リミットタイムが間近に迫っていた俺たちは、地下４階のアッパーボックス――上の階層に通じているログインボックス――でログアウトすることにした。
ＰＶベッドを出た俺は、一端、冷蔵庫のミネラルウォーターを取りに部屋を出て行った。
リビングで洗濯物を畳んでいた母さんが俺を見ると、壁掛け時計を見上げた。
「あら、もうそんな時間？」
「親父は？」
「脇坂さんとコレよ、コレ」
母さんは釣りの手真似をした。
「好きだな……」
「あんたのゲーム好きといい勝負よ」
「はいはい」
俺は冷蔵庫をあけ、ミネラルウォーターのペットボトルを取り出した。
「慎一。母さん、そろそろお風呂入って寝るけど、あんたもほどほどにするのよ。来週、期末試験なんでしょ」
「へーい。じゃ、おやすみ」
「はい、おやすみなさい」
俺はミネラルウォーターのペットボトルを持ったまま、部屋に戻った。
机に向かい、勉強を――するはずもなく、ノートパソコンのモニターを覗き込む。
モニターには『Ｘちゃんねる』専用ブラウザで、ＰＯ関連スレが表示されたままだ。
俺は最新データを全部読み込み、情報をあさりだした。
読んでいなかった市場スレが次スレに移動していた。懺悔スレ、ヲチスレ、『マトメ』に作られた雑談、紅都、蒼都、翠都の各スレは読まずに放置しておく。本スレも次スレに移動していたので、市場スレともども、新スレを開いてみる。
最後に、展開中の全スレを「騎士団」で検索。
と、平面ディスプレイのＳＣＯＰ３が、アドレスコール有りのウィンドウを開いた。
リンだ。
そのままエンターキーを押すと、長い黒髪をすべて降ろした、Ｔシャツ姿のリンが画面に映し出された。
〈お待たせ〉
「いや。それより騎士団の下調べだ」
〈だよね〉
俺たちはそれぞれのパソコンで、蒼海騎士団に関する情報を集めまくった。
だが、大した情報が見つからない。少なくともクグル(Coogle)でヒットする情報は、前に見たことがある不確かなものばかりだ。
それでも『マトメ』の蒼都スレには、“金持ち集団”がアイテムを買い占めているという書き込みがポツポツと寄せられていた。
時刻は２０時頃だ。夕方にログインした面々が書き込んだものらしい。
〈こっちも同じ話ばっか〉
「どこにあった？」
〈市場スレ。魔杖も買いあさってるみたい〉
確かめると、《スペルガン》の上位にあたる《ブラストガン》や《バーストガン》、《アサルトライフル》、《グレネードバズーカ》、《ブラストバルカン》などが、朝の６時台から品薄になっていることがわかった。
「金がありあまってるってところは、確かっぽいな」
〈でも、変じゃない？〉
「変に決まってるだろ」
〈なんだろう……簡単にお金が稼げる手段…………〉
「そんなのがあったら、すぐネットで流れるだろ」
〈あいつらが稼ぎ方を隠しているっていうのは？〉
「どうやって」
〈さぁ？〉
「稼ぐ……稼ぐ……金を稼ぐ……その方法といえば？」
〈モンスターを倒すとか、カードを売るとか、カジノで――〉
俺たちはハッとなり、
「「カジノ！？」」
と同時に声をあげた。
〈でも、大当たりしたらニュースになるでしょ！？〉
「だったら大当たり以外の方法があるんだろ。とにかく、カジノ関連で調べるぞ」
〈ＯＫ〉
俺たちは再びネットの情報をあさりだした。
すると『Ｘちゃんねる』の過去スレに、それっぽい情報が点在していることに気づいた。全リセット前から、カジノに入り浸っているテスターが何名かいるというものだ。外装に関する情報は無かったが、居る時は仲間うちで固まり、カジノの奥にあるハイ＆ローばかりやっているという書き込みがあった。
「これだな。きっと」
〈どれ？〉
教えると、リンも同じ結論に達したらしい。
〈そっか……わたしたちのギャンブル版だったわけ？〉
「かもな。それにしても……どれくらい溜め込んでるんだ？」
〈どれだけやり込んでるかによるんじゃない？〉
「やり込んだ程度でどうにかなるのか？」
〈イカサマしてるとか？〉
「ありえるな……でも、荒稼ぎしてることぐらい、市長も気づいて……いや、待てよ。気づくのが遅れたとしたら？」
〈どういうこと？〉
「そうか……そうだ。カードだ。クリスタルカード」
〈だから、どういうことよ〉
「仮にだ。あるテスターが１０００万なんて大金を持っていたとしたら、スタッフもエラーかと思って、確認するだろ。仮にイカサマじゃなくても、それだけ稼ぐユーザーがいたとしたら、あの市長が――」
俺は苦笑した。
「見過ごすわけないだろ。違う意味で」
〈名前を晒すぐらいはするわよね、あの人なら〉
リンも同感らしい。
「だが、ゼノンなんて名前は聞いた記憶が無い。リューネもそう。だったら連中は、あまり正当とは言えない方法、つまり不正な手段で荒稼ぎしてたと見るべきだろ」
〈でも、大金稼いだら、スタッフも気づくんじゃないの？〉
「だから、カードにするんだよ。クリスタルカードなら、カードウィンドウに収納しておくこともできるだろ？」
ちなみに稼いだ金は、通常、キャッシュデータとして保存される。ただ、キャッシュはカード化することが可能だ。リンが青空市場でやってみせたように。
「１万稼いではカード、１万稼いではカード……それを続ければ、キャッシュデータを少なくしたまま、ウィンドウに１万のクリスタルカードを最大１００枚、溜めることができる。それなら、アイテムデータを覗かれない限り、スタッフも気づかないだろ」
〈そっか……〉
リンは顔をしかめながら補足してきた。
〈２人でパーティ組むと共有込みで３００枚ももてるもんね。それに１万のカード２枚を融合させれば２万のカードになるし……これを繰り返せば、いくらでもスタッフに気づかれないまま溜めることができるわ。うん〉
「ところがスタッフも勘付いた」
〈それが昨日？〉
「いや、もう少し前だろ。しかも、金は取り上げられなかった。だから、金はあるが、力の無い連中が、まず装備を調えることから初めた。そして俺たちに接触してきた。どうだ、俺の戯れ言」
〈筋立てはいいけど、証拠も無いし、そもそもわたしたちに接触する理由は？〉
「勧誘だろ」
〈だったら、あの１００万は？〉
「釣り餌って可能性は？」
〈そうじゃなかったとしたら？ そりゃあ、あくまで可能性の問題だけど、最初からわたしたちがＳＬだって確信してたとも言えないんじゃない？ 違った場合のリスクは？〉
「冗談の一言で済ませる」
〈そして見知らぬプレイヤーに不信感を抱かれて、ネットに書き込まれる？〉
「それだ」
俺は指を鳴らし、画面のリンを指さした。
〈それって？〉
「だから、不信感を抱いたプレイヤーは、ネットに書き込むだろ」
〈呆れた……ニセモノのふりして書き込みするつもり？〉
リンは表情を曇らせた。以前の騒動を思い出したからだろう。
しかし俺は、楽しげにいい返した。
「いや、ＳＬで書き込む」
〈それ、矛盾してない？〉
「つまりだな――」
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344 名前：LIN ◆KM48rimMsQ 投稿日：X0/07/08 01:56:42 ID:********
みなさん、お久しぶりです。ＳＬのＬのほうです。
今回は少しお尋ねしたいことがあり、ご迷惑になるとは承知のうえで
お邪魔させていただきました。ご不快に思われたら、お許し下さい。
お尋ねしたいことというのは、ある青陣営の集団についてです。
実は本日、地下で私たちと同じ二人組のプレイヤーと会いました。
私たちは普段通り、逃げるつもりだったのですが、その方々は、
・私たち（ＳＬのことです）に間違えられて困っている
・相談に載って欲しい
と言ってきたため、話だけは聞こうということになりました。
内容を列挙すると、次のようになります
・相談者二人は路地裏の宿屋を拠点にする攻略パーティ（コンビ）
・火力重視により、鍾乳洞でギリギリ戦えるぐらいになった
・宿に戻ると、不審な集団（計８ＰＴ）から立ち退くよう要求された
・代償として１００万クリスを定時された（クリスカードも見たそうです）
・完全に自分たちをＳＬの変装だと勘違いしている
・どうすればいいのか
以上が相談内容の全てです。
相棒はやる気ゼロなのですが、私としては少なからず気にかかっています。
（すみません。長いので続きます）
348 名前：LIN ◆KM48rimMsQ 投稿日：X0/07/08 01:57:02 ID:********
お尋ねしたい点は、次のものです。
１）宿の立ち退き料として１００万クリスは妥当な金額なのか？
２）宿を全室占拠すると特別なメリットが生じるのか？
３）問題の不審な集団は安全そうなのか？
得に３番目が不安に思っています。
私は戦闘狂な相棒の代わりに仕入れや売却も行っているのですが、
市場スレにおける、ここ数日の蒼都の価格変動は異常というしかありません。
相棒は「カジノで一発当てたヤツがなにかしてるんじゃないか？」と言っていますが、
そのような話は寡聞にして知らないので、薄気味悪いものを感じています。
知ったからどうする、というわけでもありませんが、
何か情報がありましたら関連スレで提供していただけると助かります。
謝礼は市場に鍾乳洞のドロップアイテムを積極的に流すということで、
ご勘弁頂ければ幸いです（他の陣営の皆様、申し訳ありません）。
以上、よろしくお願いします。
追伸 相棒が波動拳中毒です。なんとかしてください（涙
403 名前：SHIN ◆O4TEsRfEf/ 投稿日：X0/07/08 02:00:17 ID:********
波動拳は漢の浪漫なんだよ！ヽ（`Д´）ノ ウワァァァン！
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■ミノタウロスのおいしい食べ方
・遠々距離（十メートル以上）だと特攻を仕掛けてくるので攻撃は我慢
・遠距離（五～十メートル）で拳or剣or槍を構えると防御姿勢をとるので静止する
・そこを銃or杖（属性アロー）で攻撃
・当たり所に寄るが三～五秒で特攻してくる
・斧を真上に振り上げたら向かって左に、横に振りかぶったら後ろに退避
・近接攻撃は太股を狙えば当たりやすい（腕の振り回しに注意）
・一番簡単のはバルカンによる二万円攻撃（全弾斉射のこと。命名者はＬ）
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どうやらこれでガチっぽい。青以外では違うかもしれないので検証必須。
>>謎の集団
正直、俺はどうでもよかったり。
俺の対応はいつもの通り、貴重なログイン時間を食いつぶすヤツをぬっころすだけ。
ＰＫはコロシアムでしか経験してないから、いい機会かも――とすら思ってる。
>>巻きこれた二人
俺は全然話していないので、よーわからん。
418 名前：SHIN ◆O4TEsRfEf/ 投稿日：X0/07/08 02:01:43 ID:********
>>392
刀剣型のコツは腰を使うこと。試しにパターンＡで素振りだけやってみれ。
腕は使うな。手首を使うのも、もっと後。まずは足腰の力を意識するとＯＫ
>>398
よーわからんが、宿を占拠するつもりだったらしい。
宿屋って占拠したら何かあるのか？ っていうか、占拠の基準ってなによ。
街は専門外だから、市民派の諸氏に任せる。
ブツは相棒が約束したから、ちゃーんと市場に流すので安心してくれ。
次の帰りはもうちょい先になると思うけど。
>>同志諸君
そう、波動拳こそ漢の浪漫！ 使い勝手の悪さなど些末な問題！
でも昇竜は勘弁。今の時点で対空技いわれても…… orz モッテルケドサ
以上。おやすみ。
ノシ
