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ONLINE  作者: niziya
LOG.02 " BBS "(未改訂版)
17/57

#02-06

 気持ちはわかる。わたしもこの人と関わりたくない。だいたい“必ず私がSHIN様を本当の最強のプレイヤーにしてあげます”って、どういうことだろう。まさかこの人、わたしがシンを鍛えたと思っているんだろうか? いや、その前に“LINというテスターはSHIN様を騙しSHIN様のノウハウを独り占めにすることで”と書いているわけだから、シンの強さが独力によるものだって自覚しているはずで……

「……んっ?」

 何かが引っかかった。

 どういうわけか、わたしは一昨日のことを思い出した。おばあちゃんのことだ。

――まったく、恥ずかしいったらありゃしない。せっかく将来有望な良家のご子息をご紹介いただいたというのに、仮病で退席するだなんて……鮎川の女のくせに、よくもまぁ、人様の顔に泥を塗るようなことを平気でやれるもんね、

 こっちのほうが日本語になっている。

 でも、根っこが似ている気がする。

 なんというか……謙遜の押しつけ? 幸福の押し売り?

 うん。なんとなくそういう気がする。

 おばあちゃんにとっての幸福とは、間違いなく、鮎川の家を継ぐことだ。だからこそ、ママにもそれを押しつけ、わたしにも現在進行形で押しつけようとしている。でも、名家を継いだからといって、必ずしも幸せになれるわけじゃない。そのことを、おばあちゃんは絶対に考えようとしない。それと似ているのだ。

 JUNEという人にとっての“幸福”はシンを強くすること……じゃなくて、多分、シンと親しくなることなんだろう。だからこそ、シンにとって唯一のパーティメンバーであるわたしに、強い敵愾心を抱いている。

 でも、シンと一緒にいるからといって、JUNEという人が幸せになるとは思えない。

 だいたい、シンは“友達”として考えると最低の相手だ。

 無口だし、根暗だし、ゲームのことしか考えていないし。

 仮に。

 あくまで仮定の話として。

 考えをまとめるために、そういう可能性も検討するとしたなら。

 シンは“恋人”としても、どうかと思う。

 うん、そう思うことにする。

 それで、だ。

 だったらわたしは、どうして一緒にいるのかといえば――やっぱり“相棒”だからだ。

――きっとね、運動部とかで一緒に練習した同期生に感じるものと一緒だよ。

 とはパパの言葉だが、その通りだと思う。

「なるほどね……」

〈んっ?〉

「あっ、ううん。こっちの話」

 わたしはひらひらと手を振ってから、ヴォイスチャットのウィンドウを最大化した。

 シンは腕をくみつつ、釈然としない様子で小首を傾げていた。

 まずいな――と思う。

 なにがまずいかといえば……もう少し肉がつけば、けっこうイケてることを再認識したからだ。

「ねぇ。どうでもいいこと、聞いていい?」

〈どうでもいいなら質問すんな〉

「あんた、どこ住んでんの?」

〈函館。そっちは?〉

「東京の自由が丘」

 するとシンは、

〈あぁ……近場だったら直に相談できたのか。ったく、最初に気づけよ〉

 終わりの言葉は自分に向けて言ったものだろう。

 はてさて。

「遠すぎるよね……」

 ポツリとつぶやいたわたしは、うん、と軽くうなずいた。

 遠距離恋愛は趣味じゃない。よって、そういうことは今後一切、考えないことにする。うん、それでいい。だいたい、恋愛沙汰なんか起こしたら、せっかくのPVも楽しめなくなるし、学校でもたいへんだそうし、おばあちゃんのこともあるし。

〈まぁ……別に遠くたって、こうして話せるから、いいか〉

 一瞬、ドキッとした。

 画面の中のシンは、左下――別のモニター?――を向きつつ、タンタンタンタンッとリジミカルにキーを叩いていた。

 なんだ。見透かされたかと思ったじゃない。

〈とにかく〉

 シンはこっちに目だけを向けた。

〈妙なヤツに粘着されるわ、何かするたびにグダグダになるわ……〉

 わたしはハッとなった。

「まさか本気で辞めるとか言わないわよね?」

〈言う〉

 シンは、まっすぐわたしを見ながら速効で答えを口にした。

〈面倒くせぇからもう辞める。でもまぁ、辞めたあと、おまえにアレコレ粘着されるのもなんだから、とりあえず状況くらいは――〉




「どあほ!」




 わたしはめいっぱい怒鳴った。ついでに21インチの液晶ディプレイをガシッと掴み、画面に顔を寄せた。驚いたシンはギョッとしながら逃げるようにのけぞっている。この後におよんで、まだ逃げるのか、このアホンダラ!

「つまりなに!? あたしに全部押しつけてハイサヨウナラって魂胆なわけ!?」

〈だから説明してんだろ〉

 シンはムッとしながら言い返したきた。でも、まだのけぞっている。そればかりか、顔を横に向けていた。

「こっち見ろ!」

〈…………〉

「人と話す時は目を見て話せって言われなかった!?」

〈…………〉

 シンは渋々といった様子でこっちに顔を戻した。でも、まだのけぞってる。

「あんたね……」

 あぁ、もう! なんだってこんなやつにトキメいたりしたのよ!

「いい!? ここであんたが消えたら、なにがどうなろうと、間違いなくわたしが粘着されるじゃない! つまりあんたは、わたしがどうなろうと知ったこっちゃないっていうわけ!? だったらなんでケータイの番号までこっちに教えんのよ! まさか何かあったら連絡としろとか言うつもり!? 北海道にいるあんたに何ができるわけ!? どうなのよ!!」

〈…………〉

「都合悪いからって黙秘すんな! この根暗の凶悪顔!」

〈っせぇな!〉

 シンは拳を振り下ろした。

 画面がかすかに揺れた。

〈続けようや続けまいが俺の勝手だろ! この貧乳!〉

「なによムッツリスケベ!」

〈胸なんか姉貴ので見飽きてるんだよ、ペチャパイ!〉

「あぁあああ! もう、頭に来た!」

 わたしは時計を見た。時刻は午前9時を少しすぎている。

「あっちに来なさい! 今すぐ!!」

 わたしは通信を切った。

「なにが貧乳よ! ペチャパイよ! 悪かったわね! 小さいのは鮎川の血筋よ!」

 怒鳴りながらPVベッドに寝転がる。

 怒り狂っていたが、スイッチを押すと冗談のように意識が遠のいていった。

 お馴染みのログインメッセージが耳元で流れる。

 両脚がしっかりと地面を踏みしめる。

 わたしはバッと顔をあげた。真正面の鏡には黒髪色白の鮎川鈴音ではなく、金髪濃褐色肌のLINが映っていた。

 息を胸いっぱい吸い込む。

 吐く。

 両頬をピシャッと叩く。

「よしっ!」

 気合いを入れてログインボックスを出る。

 ざわめきが聞こえた。

 なぜか正門広場にはたくさんのプレイヤーが集まっていた。それも、まるで不可視の壁があるかのように、ログインボックスから正門までのスペースがポッカリと空いていた。そのうえ、正門の前には4名ほどの、子供にしか見えない外装のプレイヤーが集まっていた。その全員が驚きの目でわたしのほうを見ていた。

――シュッ

 左後ろからドアの開く音が聞こえた。

 目を向けると、シンが出てきた。

「…………」

「…………」

 わたしたちは無言で睨み合った。

 わたしは顎で正門を示した。シンはパキポキと指を鳴らした。言わなくても、行くべき場所がトレーニングルームでないことぐらい、伝わっているようだ。

 そう、向かう場所はグランド――蒼都で唯一、PvP(プレイヤー対戦)が可能な場所だ。

 わたしたちは並んで歩き出した。

 周囲が静まりかえった。

 わたしもシンも、前を睨みながら、黙々と歩いている。

 正門に来ると、例の子供外装4人が行く手を邪魔した。ひとりが前に出て、残り3人が後ろで身をすくめている。その先頭にいる子供が、カチコチに緊張しながら、何かを言おうと口をパクパクさせていた。

 でも、わたしとシンは、まったく同じタイミングで、同じ言葉を吐きだしていた。

「「どけ」」

 互いに睨み合う。

 シンは竜眼をギラつかせながら、スッと左手を自分の顔の横まであげた。

「無制限だ」

 その指にカードが出現していた。口元が微妙にニヤけている。挑発的な笑い方だ。

 ムカついた。

「コール……」

 悔しかったが、最初のコマンドを声で出したわたしは、シンと同じカードを思考操作で呼び出した。本当に悔しいが、シンのように手の中に呼び出せないわたしは、デフォルトの位置である眼前にカードを出現させていた。

 わたしは両手でカードを挟み込み、

「オープン!」

 と怒鳴った。

 シンは無言でカードを展開した。

 ほぼ同時に、わたしとシンの両腕と両脚が光りに包まれ、パッと光の殻が砕けた。

 どよめきが起きた。わたしたちの両腕が、青い竜鱗に覆われたからだ。

 拳闘系魔杖スケール・オブ・ブルードラゴン――“戦いの達人(MASTER of BATTLE)”になると獲得できるボーナスカードのひとつ。下手に付けたままでいると目立ってしまうため、前回のログアウト時、ウィンドウに収納しておいたものだ。

 わたしはシンに言い放った。

「絶対、ぶっとばす」

 シンはパーンと右拳を左手に叩きつけることで応えた。

 わたしたちは同時に前を向いた。

 邪魔な子供外装を押しのけ、正門に入る。

「“ころせうむ”にようこそ」と窓口のNPC。「ここでは、“ばとるろいやる”と“とれーにんぐ”をえらぶことができます。どちらをごりようになりますか?」

「「バトルロイヤル!」」

 わたしたちは、またもや同時に同じ言葉を怒鳴りつけていた。


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