相合傘大作戦
もし気分を悪くしてしまったら、申し訳ありません。
あぁ、また雨なのね…。
机にあごをつきながら小さくつぶやいていた。
私は雨の中、学校に来ていた。まぁ、当たり前だけど。
毎日雨が降っていると気分が落ち込んでくる。
何かいいことないかな?
そう思い窓の外を眺めていると…相合傘をしてる人を発見。
…こ、これだ!
唯と付き合い始めて2カ月が経ったけど、相合傘をしたことがない!
これはきっと大事件だ!
相合傘大作戦
しかし、どうやって相合傘しようか…
相合傘しよって言うのは恥ずかしい。
くそぅ、どうして私はこんなにも臆病者なんだっ。
そうだ、自然に相合傘するようなきっかけがあればいいのよ。
例えば…んーと…傘が壊れたとか、なくなったとか。
よし、そうと決まれば実行のみ!
私はいろいろ想像して頬が緩む。
そんな私の顔を見て、唯が心配そうな顔してたことなんて知るはずもない。
ど、どうしたのかな?
奏の様子がおかしい…。
傘をずっと睨みつけてる…一体傘にどんな恨みが…。
ん?でもなんだかにやけてる。
んー恨んでるわけじゃないんだ?
奏の考えてることってイマイチわからない。
いつかわかるようになりたいな。
今日も雨。
奏と家でのんびりできるから、私は雨が好き。
奏は憂鬱そうな顔してるけどね。
よし、学校がやっと終わったわ。
どれだけこの時を待っていたことかっ
唯と手を繋ぎ、リズムよく廊下歩いてく。
唯は顔を真っ赤にして「が、学校で手を繋ぐなんて恥ずかしいよぉ」と言っている。
そんな可愛い唯の言葉を無視して、靴箱へ向かう。
「あれ?そういえば傘は?」
「いやぁ、なんか知らないうちになくなってたの」
もちろんなくなったわけじゃない。
友達の冬に無理矢理預けた。冬は「え?どうしてまたこんな時に」と何やらぶつぶつ言ってたけど、理由を話したら「はいはい、仕方ないですね」と言って承諾してくれていた。
冬は私たちの唯一の理解者であり相談相手でもある。
本当にありがたい友達だ。
そんなことを考えながら靴を履き替えていると、気づいてしまった…。
ま、まさか!なことが起きてしまった。
雨が…雨がやんでいる…。
こんなことが起きるなんて予想してなかったわ。
で、でもまた明日がある…はず。
梅雨っていつ終わるのかな。
私は拳に力を込めて、雨が降りますようにと願った。
次の日、またしても私は相合傘大作戦を失敗していた。
もう素直に相合傘をしたいと言おう。
いつもなら晴れたら喜ぶはずのに、なんだか落ち込んでいる奏。
最近、奏の様子が変だから冬ちゃんに相談することにした。
「冬ちゃん、冬ちゃん。奏がおかしいよ」
「どんな風にですか?」
「んーとね、晴れてるのに落ち込んでる」
なぜか冬ちゃんはクスッと笑って「それはおかしいですね」と言った。
な、何で笑ってるんだろう?
冬ちゃんは少し考え込んで「まぁ、話してもいいですよね」とつぶやいたのが聞こえた。
なんで冬ちゃんは私の知らないことを知ってるのかな。
ちょっとだけ悲しくなる。
「奏さんはですね。したいことがあるんですよ」
さっきから冬ちゃんは笑いそうになるのをこらえているように見える。
「何だと思います?ちなみに雨の日にしか出来ないんです」
「んー…」
雨の日…かぁ
まったく思い浮かばないのは私の知識が乏しいに違いない。
「わからないよ」
「もう教えてあげる。相合傘だよ」
「あ、あ、相合傘⁈」
冬ちゃんふんわり笑いながら頷いている。
んー、でもどうして相合傘…
ま、これで奏の変な様子がわかった。
雨…早く降らないかな?
よし!今日こそ!
例え雨が降っていなくても、氷が降ってきても絶対に相合傘してやるっ
いや、やっぱり氷はきついかも…。
そんな風に意気込んでる私を見た唯はくすくすと笑っている。
なにがおかしいのかはわからないけど、唯が笑ってるところはやっぱり可愛い…
見惚れながらも靴を履き替える。
ふと外を見てみると、やはりというか何というか…
雨は降っていなかった。
気持ちが沈む。
何で雨降ってほしいときに降ってくれないのかな。
唯は私と違い気分がよさそうだ。
もう、いいか…。
最近、相合傘ばっかり考えていて、唯とあまり話せてなかったし。
今日は楽しく帰ろう。
空はほんの少し曇ってて、その雲の間から綺麗に光が射し込む。
空気も少し湿ってるけど、雨は降りそうにない。
隣を見てみると楽しそうに歩いている唯がいる。
今はそれで十分だと思えた。
可愛い唯の頬を撫でてから、唯の手を握りしめる。
唯は少し驚いたような顔をして、照れながら私の手を強く握った。
嬉しくて、少し涙ぐんだ。
あとどのくらい、
こうやって一緒に帰れるだろう。
手を繋ぐことができるだろう。
唯の笑顔が見れるだろう。
まだまだ足りないよ。
もっともっと唯のことを知りたい。
もっともっと触れていたい。
そんなことを思っていると、ポタポタと雨が降ってきた。
びっくりしすぎて言葉が出ない。
雨…。
雨……雨だと⁈
よ、よよよしっ
作戦実行だ!
えと、えと、何て言おう…
いざとなったら思い浮かばない。
唯は嫌がったりしないだろうか?
突然、そんなことが頭をよぎる。
大丈夫、大丈夫なはず…
大丈夫だとは思う。
だけど、もしかしたら…っ
「…奏」
名前を呼ばれて、唯を見てみた。
唯は照れながらもしっかり手に傘を持っていて、その傘には私と唯が入っていた。
相合傘…。
「…濡れちゃうよ?」
「あ、うん…」
私は知らないうちに傘をさそうとしていた。
そのとき、唯が私の手に触れた。
「か、奏は傘なくていーのっ」
顔を真っ赤にしながら、そんな可愛いことを言っている。
私の頬は自然に緩む。
さっきまで不安でいっぱいだった私の心は温かいもので満たされた。
つい唯をぎゅっと抱きしめると、最初のうちは「恥ずかしいよーっ」なんて言いながらじたばたしていたけど、しばらくするとおとなしくなった。
「仕方ない…外で抱きしめていいのは今日だけですよ…」
言い終えると、私の背中に手がまわった。
すごい生意気なことを言ってるけど、今日だけは見逃してあげる。
唯の匂いをしっかり吸い込む。
肺が唯で満たされる。
そして、私は唯の体温を感じながらそっと目を閉じる。
気づけば雨は止んでいた。
「雨、止んじゃった…」
唯は少し残念そうな顔をしながらそう言って、空を見上げた。
私も見上げてみる。
雨が止んでも少しも残念じゃなかった。
唯の可愛いところも見れたし、幸せね。
地面は雨に濡れていて、キラキラ光っていた。
私と唯は手を繋ぎながらそこを歩いていく。
「またいつか相合傘しようね」
そう言うと唯は頷いて、嬉しそうに笑った。
キラキラと眩しい笑顔
ずっとこの笑顔をみていたい
最後まで読んでくれてありがとうございます。
温かい話しになってると嬉しいです( ´ ` )ノ