照れ屋系転生令嬢・ティタニアの物語
アタシ、異世界転生系の令嬢、ティタニア・ラルメデジョブ!
実家のクソ親のせいで家が傾いたから、歴史ある侯爵なのに新興の伯爵に嫁ぐことになったお……。
なんでか?財産つかっちゃったからだお……。
あほしね。
この実家のせいで今も前世と今世の自分が上手く混ざれていないのだ。
主に前世の『私』目線でこのクソ環境を耐えていたというか。何回二人揃って押しつぶされそうになったか。
私が嫁ぐヴァルグレン伯爵家は魔物領域を食い止めて伯爵の地位と森の領地を賜った、地球のラノベとかだと多分勇者とかそんな感じの名前になるような人で。
この世界の魔物の知能は完全にスタンピードのそれだ。魔族みたいな単語もあるけれど、地球の神話における悪魔のようなポジションで、物語の存在になっている。
もしかしたら、不憫系勇者かもしれないね。
移動している時間がだいぶ長いなぁ。それもそうか、王都からカントリーハウスなのだから。
クソデカ溜め息を吐きながら相手の家に着くと、前世の自分でもわかるほど今日だけ着飾っている感がすごい質実剛健な家が出迎えていた。
メイドも最近入ってきたって感じなのが分かる。
「こんにちは、私はアトス・ヴァルグレン。ラルメデジョブ嬢、この家に来てくれてありがとう」
屋敷の入り口に立って出迎えてくれたヴァルグレン当主の姿は、ストレートの髪を腰まで伸ばしているタイプの銀髪碧眼の美形だった。
挨拶を済ませてつつがなく結婚式を終えた。
社交界は今世の『わたし』が担当する部分だ。『私』はぶっちゃけるとあまりいても意味はないけれど『わたし』をいつも褒めてくれる。
結婚式の時はあまり食べられなかったので軽食を摘んだ。美味しい。
そして、初夜。
「悪いけれど、君を愛する予定はない」
……一瞬愛さないと言うセリフから始まるアレか?と思ったけれどこれは……表情がガチすぎる。
理由を聞かねば。
「なぜ……ですか?」
理由は、古郷の村に愛した幼馴染がいらからだと言う。
アトスさんの村では歌をよく歌っていて、村の中では歌姫みたいな存在だったらしい。
結婚しようと言ったら、考えておくと言われたらしい。んー、『私』の記憶が良くて幼馴染によるキープ、下手したらやばい方はアトスさんの方だと言っている。けれど、『わたし』は一回会って確かめて欲しいと語っている。
私は幼馴染さんに話をつけた方がいいと言っておいた。
そして、その幼馴染を妾にしてもいいけれど、それはそれとして子供は私の方の子供を当主にするとも。
それからしばらくして、仕事に一区切りをつけたアトスさんは幼馴染に会いに行った。私もどっちがやばかったか気になるからついていこう。
そして。
話を聞いた結果、幼馴染がやばい方だったことが分かった。アトスさんの表情が死んでいる。
「すまない、しばらくひとりにさせてくれ」
なんかよろしくない気配がする。もしアトスさんが変なことし始めたらこの細腕で締めよう。
私がすることか……。内政とかではおそらく何もできない。複式簿記もちらっと聞いただけで詳しくは知らないし。多分この世界にももうあるだろう。
ふと、嫁ぐ前は庭に生えてしまった雑穀から水飴を作り、古典に出てくる坊主たちのように水飴の入った壺を舐めていた時のことを思い出した。
嫁ぐまで、この世界における甘いものは高いものだと言うイメージがあった。
嫁いですぐの頃、お忍びで市場をのぞいた際に、飴玉が普通に市場に売っていたのを知ったのだ。
庶民にはちょっと高いけれど、メイドの立場だったら十二分に買えるぐらいの給料をもらっている。
水飴仕入れたいな。
……現実逃避していた。社交、頑張らないと。
二週間後。結局庶民向け甘味は仕入れず仕舞いの状態だ。麦はあるので麦粥で水飴を作っている。
とある日の夜明け、メイドのジュリアと執事のヨハネに水飴だけれどボーナスもどきをあげるので、と話をつけてから水飴を作りにアトスさんの幼馴染が住むはずだった、現在は私の趣味である水飴作りのために作られたと対外的には言われている『プチトリアノン』と名付けられた建物に行くとメイドがいた。
歳の頃は15ぐらいか。
普通だとクビにするんだろうなぁと思いながら背後から話しかける。
「あびゃばびゃっー!?あ"ぁ'あ"ーー!?」
面白いほどに反応した。
名前はエレナ。新人だった。
何をしたかったのか聞くとどうやら悪い人だと思い込んでいたらしい。
私のアトス様にー!みたいな方面じゃなくて、バートリ伯爵夫人方面の悪い人。
この子はちょっと先輩に教育してもらわないといけない子かもしれないね。
水飴の材料の方はいい感じに糖化していたので汁を鍋の中に絞って煮込み始める。
今も動画の見よう見まねのやり方だ。今回も発芽させてしばらく経った麦芽を洗った後に刻んで、炊いた雑穀と混ぜるやつ。今回は大麦を使っている。
個人的に甘酒の米部分を取り除いて煮込んでいるみたいだなぁって感じる。
クッソ時間かかるけれど、日々の社交と比べたら…と言う感じだ。
貴婦人としては刺繍とかをするべきなのだけれど。一応お菓子作りだから貴婦人には入らなくとも少なくとも婦人にはなれるはず。
けっこうおたまに飴が絡むようになっていった。
「これぐらいでいいか」
茶色の水飴だ。
そんなにとろとろにはなっていないけれど冷めたらちゃんとよくある水飴みたいになるはず。
さらに煮詰めたものを加工すると芋飴っぽいのになるらしいけれど、失敗しかしなさそうなのでプロから買おうと思う。
水飴ができたので瓶に入れようとしたら、ジャムにしませんかとジュリアに言われたので加工することになった。使う果物は今が旬のイチゴもどき。庭にあったやつを採ってきてくれた。ちゃんとした名前はあるけれどもういちごでいいや。
……前世もジャム作ったことがないから、そこはジュリアにやってもらった。
私は見ているだけ。
ジャムって最初に果物を甘いやつの中にしばらく漬けて水分抜くんだね。知らなかったら多分いきなり煮込んで失敗していたと思う。
今度チャレンジしよう。
できたジャムを瓶の中に詰めていく。瓶を余分に持っていっててよかった。
解散した後はいつも通りの日々だ。
寄子の婦人方と喋るやつだ。
どうやらこのあたりの領地達は魔物領域の関連で生まれた派閥らしく、ヴァルグレン家がざっくり言うと寄親ポジションだった。
今日は刺繍の話だった。男爵の一人が刺繍の冊子を売るためにパトロンになって欲しいらしい。
木製の版画でも作ってみようかしら。
『わたし』はある程度慣れているけれど、『私』の部分だと嫌味とかがよく分からない。
茶の時間になったのでジュリアに紅茶を淹れてもらう。茶菓子は今日はスコーンの予定になっている。私のリクエストだ。
スコーンの乗った皿達が運び込まれる。
あ、ジャムの質感がいつもと違う。多分ジュリアが作ったやつだろうか。
メイドさん達用の予定だったけれど、使っても良いのだろうか。
ジャムの味は酸っぱめだ。多分保存にはむいていないだろう。
ここにはクロテッドクリームはないのでジャムのみで食べる。
「ティタニア様、このジャムが美味しかったので欲しいのですが……」
子爵令嬢から欲しいと言われたので目配せしたら了承してくれたので一瓶渡した。
「ティタニアさま、このジャム、もってかえってもいいかしら?」
「このズッキーニのマフィン美味しいですわね!」
「やっと終わった……」
今日は長かった気がする。私室で日本人からはガラクタだと言われるような扇子を仰ぐ。
その後ジャムはいくつか寄子に貰われていった。
使用人の分がいくつか足りなくなってしまった。
今度の作ったやつこそ使用人用にするべきか……?いや。失敗したら……。
考えていると足音がしたので扇子をチェストに直す。
アトスさんだった。
表情は少し暗い。『私』が甘いものを食べさせてあげたいと語る。『わたし』も賛成だ。
部屋に食べ物ははない。控えているジョアンナが持ってくる。目配せすると頷いてくれた。
「すいません、気分転換にちょこっとクラッカーでもいかがですか?ジャムとたべません?」
ジャムはどっちでもいいか。とりあえず甘い系のやつを二、三枚ほど食べさせようと思う。
しばらくしてジョアンナがクラッカーを載せた盆を持ってきてくれた。
どっちのジャムかはどうだっていい。毒はなければいいが。
よくチーズと食べているCMを見たけれど実際はどうなのだろうか。明日試そう。
「美味いな」
「でしょう?ジュリアが作ってくれたのよ」
他愛もない話をしていると突然、「明日、海の魔物を討伐しに行くことになった」と告げてきた。
「あら、レモンとか持っていかないといけませんわね」
その後も軽口を言うものの、不安でいっぱいだった。
次の日。
今日の朝食代わりにチーズとジャムを乗せたクラッカーを食べた。美味しいのかよく分からないや。
アトスさんが話しかけてきた。
「昨日言っていたレモンを持っていかないといけないってどういう事だ?」
「そんなこと話しましたか?」
「話したぞ」
えっ。
ビタミンCのあれやこれやはこの世界にはないものだと思っていたので言う必要も無いと思っていたら言っていたらしい。
「昨日見た夢の中で、レモンや柑橘系のものを食べるといいとされていたので、それが飛び出したのかもしれません」
夢の話でいいや。
アトスさんにお守り代わりとして食糧庫にあったレモンのドライフルーツを革袋の中にいれて渡した。
追加でジャムも渡すか。
「栄養にはなりますでしょう、もらっていってくださいな」
「……ありがとう」
ああ、嫌だなぁ。非力すぎて、何もできない自分が。
数日後、一つの手紙が来た。実家からだ。内容は妄言。なぁに言ってだこいつ。
婚姻無効化のあれこれと新しい婚約者の名前だけ。婚姻無効化の名目すら書かれていない。
実家に戻るかあ、それを実行するには至難の技だ。
アトスさんはその一週間後に帰ってきた。
帰ってくるなりハグしてきた。はわわ。何かをささやかれた。はわわ。
「ああっ、ティタニア様がフリーズしていますわ!」
「アトス様、キスをして戻すのです」
私達、ちょっとでも甘いものに触れると脳みそがオーバーヒートするんだね。
数日後。アトスさんがあいつらから来た手紙のことを私に聞いてきた。
「この手紙について話をしようか」
「これですか?私にも経緯が分からないので……すいませんが……」
なんとなくどこかの老貴族の後妻かなぁとかは思ったけれど。後妻は立ち回りが分からなすぎてなぁ。
その後、アトスさんに色々話された。どうやら相手は若い第二王子の派閥の人間らしい。アトスさんは中立派のようだ。
あっ……。今度の茶会で寄子の人に聞こう。
「これ、私たちどうなりますの?」
「分からない。でも俺たちは魔物から人間を守るだけだ。
後日、寄子商人の婦人にに聞いてみた。市場の動きはどうなのかって。
「麦と剣が最近売れますね」
私の燃え尽きた。
収穫後程なくして人間同士の醜い争いが始まった。王子継承権のやつね。
私たちの派閥は両方から襲われる可能性があったのでバリケードを築いた。
私は瓶詰めのやつとあれやこれやを。
庭師には薬草系の種や雑穀を世話してもらう。
アトスさんは今日も魔物と戦っている。
私達のすることといえば湿布を作るぐらいか。
実家からの使者が来た。こっち……第二王子の派閥のさに入れと。私、真面目に馬鹿だからアトスさんいないと無理なんよその話。
また来るらしい。
使者の事をアトスさんに話したけれど、アトスさんもわからず。
軍師のレナードに助けてもらうことになった。
内容は前世時点であまり詳しくないのでよく分からないので割愛。
もう薬草とかのバックアップとかしかできない。
魔物の血糊にもまだ慣れていない。
二年間の醜い争いは熾烈を極めた。
幸い私たちの領地は巻き込まれずに終わった。第一派閥が勝ったらしい。実家は伯爵へ降格になったようだ。
私の処遇はそのまま。
万が一のための研究をしていたノートをレナードに持っていく。この世界もメカニズムは似ているらしい。
アトスさんは争いの時はほぼ館の中にいたけれど、最近出た水を操るとても強い魔物には流石に出ざるを得ず向かっている。
勢力争いが終わる二日前だ。
お守り代わりに薬やレモンのジャムを作ったけれど大丈夫だろうか。
領地の南西にある森の一角だけ不自然に空の曇天が続くのもその魔物のせいらしい。
二週間後。空が晴れた。終わったのだ。
ちゃんと薬は持たせておいたけれど、相打ちだったらどうしよう。
いのるばかりだ。
数日後。出会ってしばらくはあまり足音がわからなかったけれど今ならわかる。あの人の足音だ。
「ティタニア!」
「アトスさん!」
私たちは再会のバグをした。
そして愛を囁かれ、私はフリーズしたのだった。




