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14 返答

 早朝、扉のノック音で目が覚める。

 窓の外を見れば、まだ薄暗い。


 覚醒しきらない頭のまま扉を開けると、そこには神官長が立っていた。


 彼女は挨拶と共に、早くに起こしたことを詫びた。

 それから神官長室へ来るように話すと、隣の部屋へ歩いて行く。

 ティラミアにも同じことを伝えるのだろう。


 扉を閉め、ひとつ息をついた。

 返答が来たに違いない。

 素早く身支度を整え、部屋を出た。


 数歩足を進めて、ふと、隣の部屋に視線を向ける。

 薄い扉の向こうからは、ガサゴソと動く音がする。


 まあ、一緒に来いとは言われてないし、待つ必要はないだろう。

 それに、自分を無視する人間と一緒にいたいとは思わない。


 扉から目を逸らし、再び歩き出した。

 


 記憶の通りに回廊を進み、ほどなく神官長室へと辿り着いた。

 

 ノックをしてから声をかける。

 入室を促され、一言断ってから扉を開けた。

 すると目に入ったのは、神官長とその隣に立つ1人の男性神官の姿。


 メガネをかけ、近寄りがたい雰囲気を纏う彼には、見覚えがあった。

 昨日の男性神官だ。

 咄嗟に頭を下げると、彼は先ほどまでの雰囲気を消し、柔らかい笑みを浮かべた。



 「僕は侍神官を務めています、コンラート・フォーゲルです。セラ・ヴェイルンさんでしたね。セラさん、とお呼びしても? 僕のことはコンラートで構いませんよ」



 そう名乗った彼に、こちらも挨拶を返す。

 

 しかし言葉を交わすたび、どこか肌に合わない気配が滲む。

 物理的な距離が近いわけでも、フレンドリーな言葉を使っているわけでもない。

 

 それなのに、気づけば肩の力は抜け、自分のことを話している。

 そのくせこちらが探ろうとすれば、サラリと躱され上手くいかない。

 

 悪い人ではない。

 それは分かる。

 だが、話すだけで妙に疲れる。

 

 私が一方的に気力を使いながら話していると、背後の扉がノックされた。

 おそらく、ティラミアだろう。


 私たちの様子を微笑ましげに見ていた神官長は、扉に向かって声をかけた。


 おずおずと入ってきたティラミアに、コンラートさんが挨拶をする。

 私はこれ幸いとティラミアに場所を譲り、コンラートさんから一歩離れた。

 

 2人のやりとりが一区切りついたところで、神官長が話を切り出す。



 「お二人を呼んだのは他でもありません。お二人の今後について、重要な話があります」



 彼女が話したのは、王からの返答についてだった。

 子供にも分かりやすいようにと、かみ砕いて説明してくれたようだが、そのせいで無駄に長い。

 

 『一旦どちらも聖女でいいけど、何ヶ月か聖の力を訓練して、その様子で正式な聖女を決めたい』

 要するに、今すぐ決める気はない、ということだ。


 正式な聖女というのはおそらく、魔王討伐に行く聖女のことだろう。


 少なくとも、感情で判断するような王ではないらしい。

 それが分かっただけでも、話を聞いた甲斐があった。

 数ヶ月の訓練期間があるのもいい。


 だが、“一旦”という言葉と、“正式な聖女を決める”というのが気になる。

 つまり……訓練次第では切り捨てられる可能性がある、のか?

 

 だが、だからといってティラミアを抜いて正式な聖女になるのは却下だ。

 そんな命の危険が多い立場は望ましくない。

 面倒な責任を負うのもごめんだ。

 

 力の強さで並ぶのは無理でも、器用さなら自信がある。

 ティラミアとほぼ同等の利用価値を見せなければ。


 となると、訓練期間を設けたのは、私を見極めるためか。


 異例の2人の聖女。

 どちらがイレギュラーな存在なのかと考えれば、力の弱い方を疑うのは何も不思議じゃない。


 扱えるなら欲しい。

 制御不能なら危険物。

 その見極め期間、といったところか。



 「……ということですので、明日からお二人には聖の力を使いこなす訓練を受けていただきます。聖女になれば元々する予定でしたので、少し早まった形にはなりますが――」


 「あ、あの!」



 神官長の言葉を遮り、ティラミアが突然声を上げる。



 「ヨハンさんたちとは、もう会えないんですか?」



 ティラミアはワンピースを握りしめ、悲痛な声で呼びかける。

 その言葉に、私も咄嗟に寂しさを滲ませた表情で少し俯いた。


 反射的に雰囲気を作り出しながら、クロイツさんたちとの別れ際を思い出す。

 確かに、神官長はすぐに会えると言っていた。

 だが、大人の言う“すぐに”が、一晩程度なわけがない。



 「……そうね。しばらくは、難しいのよ。……彼らの居る場所はここからとても離れているし、徒歩で会いに行くのは難しいわ。それに、貴方たちが来るときに使ったグランツゲートは、特別な許可がないと使えない物なのよ」


 「そんな……。でも、すぐ会えるって……!」


 「……ごめんなさい」



 そう言って黙り込む神官長に、ティラミアはとうとう泣き出してしまった。

 しゃがみ込んで泣き声を上げるティラミアに、神官長は気まずそうな顔で目を背けた。

 コンラートさんは困り顔で、手を意味もなくオロオロとさせている。


 自分も悲しそうな表情を浮かべながら、彼女を横目に見る。

 ティラミアからしたら、親も故郷もなくして、頼りにしていた人と離されたわけだ。

 

 可哀想に。

 

 まあそもそも、ゲートの使用に許可が必要なことくらい、見ていれば分かったはずだ。

 ホイホイ行き来できないことくらい、予想できそうなものだが。


 しばらく泣き続けたティラミアは、神官長に慰められ、ようやく落ち着いた。



 「……ともかく、これから数ヶ月間、お二人には聖の力の訓練を受けてもらうことになります。その際、力の使い方や聖女について教えるのが、彼です」

 


 軽く咳払いをして気を取り直した神官長が紹介し、コンラートさんが少し頭を下げる。



 「この機会に、“聖女とは何か”についてもしっかりと学んでくださいね。コンラートによる講義以外は、神官見習いたちと共に行動してもらいます。見習いたちの指導を担当する神官には話を通してありますから、この後、その神官に詳しい話を聞いてください。……話は以上です。何か困ったことがあれば、いつでも声をかけてくださいね」



 そう話を締め括った神官長に礼をして、部屋を後にする。

 コンラートさんが、私たちの指導をする神官のもとへ案内してくれるという。


 彼に続いて回廊を歩きながら、無意識に二の腕の紐に触れた。


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