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12 教会

 クロイツさんに続き、綺麗に磨かれた数段のアプローチ階段を登る。

 

 ポルチコ部分に受付があり、白い装束を纏った女性が立っていた。

 神官だろう。


 クロイツさんはその神官に懐から取り出した巻物を渡す。


 受け取った神官は巻物に目を走らせると、徐々に目を見開いた。

 慌てた様子で少し待つようにと言い残し、教会内へと駆けていく。


 そんな一連の流れに、思わず目を瞬かせる。

 

 あれはおそらく、聖女検査に関する書状かなにかだろう。

 検査を受ける者は少ないのだろうか。


 すぐに戻ってきた神官に先導され、教会へ足を踏み入れる。

 

 扉を開けてすぐに目に入るのは、広々とした礼拝堂だった。

 ズラリと長椅子が並び、ステンドグラスから差し込む光が美しい。


 そんな礼拝堂を横目に、私たちはそのまま奥へと通された。

 

 先導する神官は終始急ぎ足だが、クロイツさんとホルツさんはペースを崩さない。


 回廊を進み、神官は突き当たりにある重厚な扉の前で立ち止まった。

 室名札には、神官長室と書いてある。

 

 スッと道を空けた神官を横目に、クロイツさんは躊躇いなく部屋の中へと足を進めた。


 そこにいたのは、泰然(たいぜん)とした雰囲気が漂う初老の女性。

 執務机に浅く手を組む彼女は、一目で良質とわかる装束を纏っている。



 「お待ちしておりました、皆様。公爵様からの伝令は既に受け取っております。そちらが、検査を受ける子供たちですね」



 彼女は椅子から立ち上がり、机の前へと回る。


 

 「申し遅れました。私、教会本部の神官長を務めております、イルディア・ファルネスと申します」


 

 彼女はそう言うと、私とティラミアを流し見て、視線をクロイツさんに置いた。



 「クロイツさんとホルツさんとは、以前お会いしたことがございましたね。本日は大司教と司教が不在のため、代わって私が応対させていただきます。どうぞ、よろしくお願いいたします」



 そこで言葉を切ると、近寄りがたい雰囲気を消して、柔らかく私たちに話しかけた。



 「お二人のお名前を伺ってもよろしいでしょうか。あなたも、お顔を見せてくださると嬉しいです」



 重役2人の代わりが務まるということは、実質彼女が教会のナンバー3といっても良い。

 そうとは思えぬ柔らかさに、肩の力が抜ける。


 フードを取るようにと言われたので、念のためクロイツさんたちに視線を送る。

 すると、彼らもこちらを窺っていたようで、静かなうなずきが返ってきた。

 

 両手をフードのもとへ上げようとしたとき、隣から強張った声が上がる。


 

 「えっと、ティラミア・ノエルです。マルツ村でヨハンさんたちに助けてもらいました。えっと……よろしくお願いします」



 言葉に詰まりながらも最後まで言い切ったティラミアは、ホルツさんの服の裾をささやかに握っている。

 

 緊張も相まって、こちらのやりとりに気づかなかったのだろう。

 

 出鼻をくじかれた気分だが、気を取り直してゆっくりとフードを下ろす。

 このとき、少し不安げに視線を下げることも忘れない。

 

 ファルネスさんから、息を呑む音が聞こえた。


 私はそれに、恐る恐るといった風に彼女を見やる。

 

 一瞬だけ目を合わせてからすぐに目線を下げ、彼女の首元に置く。

 緊張を表すように両手を低い位置で握りしめながら、口を開いた。



 「セラ・ヴェイルン、です。孤児なので名字はなくて……孤児院の名前を借りています。……同じく、クロイツさんの隊の皆さんに、助けてもらいました。よろしく、お願いします」


 

 言い切って、俯く。

 クロイツさんが、褒めるように私の肩をポンと叩いた。

 

 しばらく固まっていた彼女は、軽く咳払いを挟み、話を進める。



 「ティラミアさんとセラさんですね。よろしくお願いいたします」



 色味に驚いたのか、それとも顔立ちか。

 少なくとも、彼女から嫌悪の感情は感じない。

 

 豪邸の使用人たちや、彼女の様子。

 これなら騎士たちの言っていたように、色素の薄い人間は他にもいると見ていいだろう。



 「それでは、挨拶も済みましたし、これから受けていただく聖女検査についてご説明いたしますね。どうぞ、そちらのソファにお掛けください」



 その言葉に従い、部屋中央にあるソファに2人ずつ向かい合って腰掛ける。

 ティラミアはホルツさんと、私はクロイツさんと。

 部屋の奥側、端の席には彼女が座った。



 「まず、お二人はどうして聖女検査を受けることになったのか、理解していますか?」


 「えっと、光が出たから、ですか?」



 いまだ緊張の抜けきらないティラミアが答える。



 「ええ、そうですね。その光が“聖女”と呼ばれるほどの強さを持つかどうかを確かめるのが、聖女検査になります。あなた方の見た光は、まず間違いなく聖の力によるものでしょう」



 聖女の力は、“聖の力”というのか。

 今まで呼び方なんて気にしていなかったが、そのままだな。

 分かりやすくて助かる。



 「その力を持つ方自体は少なくありませんが、聖女と認められるほど強い力を持つ者は、100年に1人ほどなのです」


 「100年に、1人」


 「……そんなに緊張なさらなくても大丈夫ですよ。もし聖女ではなかったとしても、聖の力があれば神官としての道もございますし。それ以外にも、教会が管理する孤児院で暮らすこともできます。聖女になれば確かに、多少の自由は制限されてしまいますが……いずれにしても、教会としてできる限りお力添えいたしますので、ご安心なさってくださいね」



 固い声で呟いたティラミアに、彼女はそう慰めをかけた。


 そんなやり取りを尻目に、私の頭は冷えきっていた。


 100年に1人の聖女。

 今までは、それがティラミアだと思っていた。

 だが、違う。

 だってティラミアは、布の力を使っているにすぎない。



 ――本物は、別にいる。



 無意識に二の腕を擦る。

 指先に感じる紐の感触が、気持ちを落ち着かせた。


 静かに息を吐いて、思考を整える。

 

 そのとき、扉を叩く音がした。

 全員の視線がそこへ向く。

 


 「検査の準備が整ったようですね。痛みを伴うことは一切ございませんので、どうぞご安心なさってください。……それでは、参りましょう」



 彼女に促され、立ち上がる。


 顔色は変えずに、拳を握りしめた。


 本物が、別にいる。

 だからどうした。


 本物が居ようが居まいが、私のやることは何も変わらない。


 現れないのが一番良い。

 できることなら、現れないようにしたいくらいだ。

 

 だが、先に選ばれてしまえば問題はない。


 私とティラミア。

 2人の聖女というだけでも異例だ。

 その座を固めてしまえば、後から現れる本物の居場所などない。


 握りしめた拳を緩める。

 長い白髪を揺らし、前を見据えて足を踏み出した。


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