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或る天狼星の公安事情 The Cold Logic of Sirius: The Secret Record of Binary Star  作者: 霜月淡碁
第0章

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0-6

2059年3月14日

マーレセルロ市リバーサイド区

州警察本部第108支所

9時00分


 「シリウスさん、シリオさん」

 同じ時間に出勤したシリウスとシリオに、ジェニスが呼びかける。

 「今、41小隊のオフィスにご報告へ行くところだったのですが…例のプリウスの3人のうち1人が、自分はレイモンド・トロアだと自供しました」

 「本当か!?」

 「はい、シリオさん。ただ、前にお伝えした通り、身分証が取り上げられていて、公的に確認できるものがありません」

 「面通しは?」

 困り顔のジェニスに、シリウスは冷静に提案する。

 面通しとは、犯罪の被害者や目撃者に犯人等の顔を確認させることをいう。

 「レイモンドの家族を呼んできて、本人確認させるのか」

 「ですが、来てくれますかね?そうでなくとも、レイモンドの父親は撃たれたばかりですし」

 偽情報によりトロア家の警察に対する印象は悪い上、レイモンド少年の父親は現在入院中だ。

 「…レイモンドの父親って、確かウエストポート総合病院に搬送されていたよな?家族も病院にいるのか?」

 「ええ、そのはずです」

 シリオはジェニスに確認すると、スマホを取り出し、どこかに電話を掛けた。

 「…よぉ、私だ。ちょっとフェイクニュースに踊らされている家族がいるんだが…困っている家族を救うのも遊撃士の仕事だよな?」


1時間後

10時00分


 108支所の玄関で、シリウスとシリオが待つ中、1台のレクサス・LS500がやって来た。

 「来たな」

 「連れてきてるのか?」

 「多分な」

 シリウスの質問に、シリオはそう返した。

 L500は一旦2人の前を通り過ぎ、来客用駐車場に停まると、人が下りてくる。

 「思ったより早かったな」

 「家を訪ねたら、ちょうどご在宅だったからな」

 ルドリナは、シリオに言われてそう返す。いつものようにリゼルを連れており、もう一人、同行者がいた。

 「遊撃士の頼みだから来たけど、警察が何の用だ」

 レイモンド少年の叔父は、不愉快そうに言葉を放つ。

 シリオはルドリナに電話かけ、トロア一家の誰かを連れてくるように言った。

 ルドリナも、シリオの頼みとは言えよく彼を連れてきたものだ。シリウスはそう思ったが、それを口に出すことはしなかった。

 「あんたに確認してもらいたいことがある。10分もあれば、あんたは自由だ。わっぱをかけられることもない」

 「トロアさん、お伝えした通りレイモンド君のことで確認がありますので、ここは彼女に従っていただけますか?」

 「わかりました」

 遊撃士、それもA級という高ランクの遊撃士の言葉に、叔父は素直に従った。

 「レイモンドの骸を見ろってことか」

 叔父は、レイモンド少年は死んでいると思っているようで、そう吐き捨てた。

 5人は建物内に入った。

 A級遊撃士2人の顔は、警察官の間では知れているためか、署内の警察官たちは少しざわついていた。

 シリオは叔父とルドリナたちを面会室に案内した。

 「どうぞ」

 シリオは椅子に座るよう、叔父に促し、彼も何も言わずに椅子に座る。

 叔父が座ると、シリオは仕切りを覆っているカーテンを開けた。

 仕切りの向こうでは、ジェニスが立っており、そのそばで1人の少年が座っていた。

 顔を上げた少年と目が合った叔父は、幽霊でも見たかのような表情をした。

 「嘘だろ…」

 「…叔父さん?」

 少年、レイモンド・トロアは、叔父の顔を見ると、少し嬉しそうな表情をしたが、当の叔父は驚愕で固まっている。

 「トロアさん、この少年はレイモンド・トロアで間違いないか?」

 「…え?あ、ああ、レイモンドだ!死んだはずじゃなかったのか!?」

 シリオの問いかけに、叔父は驚きのあまりパニック気味に答えた。

 「レイモンドさん、貴方があの晩何をしていたか、もう一度話してください」

 「え?あ、はい」

 ジェニスに言われて、レイモンドは話し始める。

 「先輩に、バイトに誘われて、集合場所に行ったら、銃を持った人がいて、学生証と免許証とスマホを取り上げられて、代わりの偽物?とスマホを渡されて、今日のことを誰かに話したら、家族を殺すって言われて…」

 「それで、トラックを受け取るように言われて、あの廃工場に行ったんですね?」

 「先輩がトラック運転できるから、僕は車を持って帰る担当で…」

 「トラックの中身は?知っていましたか?」

 「いいえ。でも、たぶん警察や遊撃士に見られたらマズイものだとは思って」

 「警察に捕まった後、自分の名前をなかなか言わなかったのは?」

 「偽物の名前を言わないと、家族を殺すって言われてて…でも、お父さんが撃たれたって聞いて…」

 「それで、本当の名前を教えてくれたんですね」

 「…はい」

 「そうですか、教えてくれてありがとう」

 やり取りを聞いていた叔父は、唖然としていた。

 「トロアさん、あんたの甥はテロリストに騙されて、武器の輸送をしていた。警察が介入して未遂だったけどな」

 「て、テロリスト?」

 「レイモンドが死んだって情報を流したのも、公園で彼の父親を撃ったのもテロリストの仕業だ」

 「そ、そんな…」

 「未遂で騙されたとはいえ、レイモンドはテロリストに協力することになった以上、すぐに家に帰すことはできない。ただ、身の安全は保証する。彼の処遇は、今後検察が判断する。確約はできないが、騙されていたことと、脅迫されていたことが認められれば、不起訴処分になるだろう」

 シリオの言葉を聞いて、叔父は緊張をほどいた。


 「なんで、警察はすぐに偽情報だと発表しなかった?」

 「発表したところで、信じないだろ?」

 叔父を家に送りに行くルドリナは問い詰めるが、シリオはそう言って受け流す。

 「こっちだって、身元確認に時間かかってたしな。それより、偽情報に踊らされてあんな集会を後援していたんだ。レイモンドが生きてたって、遊撃士で発表しろよ。あと、トロア一家の警備は念入りに」

 「無論だ。遊撃士の名において、彼らの安全確保には全力を尽くそう」

 そう言ってルドリナはLS500の運転席に収まった。

 走り出して去っていくLS500を見送るシリオとシリウスは、背後からの気配に気づいたが、特にリアクションをしなかった。

 「シーリーオ!」

 シズカはわざとらしい笑顔でシリオの肩を抱いた。

 「前から言ってるだろ、遊撃士を使うときは一言相談しろって。まぁ、いいけど」

 「まぁ、いいんですか?」

 「結局、体裁の問題だからな、シリウス。レイモンド少年の件は、これで大丈夫そうだな」

 「トロア一家の警護は、ルドリナたちに任せておけば大丈夫でしょう」

 シリオはそう言いながら、シズカの腕を振りほどく。

 「だが、問題が解決したわけじゃない。武器商人の大本はフェスティアたちに任せるとして、テロリストの方だ」

 「何か手掛かりは?」

 「何もない。ただ、偽情報の流布や公園での銃撃で捜査をかく乱する手口から、メディア戦術に長けた人物の犯行だと、公安四課では見てるようだ」

 シリウスに問いかけられたシズカは腕を組む。

 「レイモンドの件が遊撃士から公表されたら、恐らく犯人も何かしらのアクションを起こすはずだ。四課は、犯人のアクションに備える」


-----


12時10分


 公安特殊捜査部第四課の各小隊占有区画は、オフィスを中心にスムーズな移動が出来るように構成された更衣室や装備品ロッカー室などの部屋からなる。

 即応待機態勢、つまりテロが発生した際に緊急出動を即座に行える様にスタンバイする際、コンバットシャツとコンバットパンツに着替え、ベルト周りの装備品を装着してからオフィスで待機する。椅子の横には、マグポーチに実弾入りマガジンの入ったプレートキャリア、小銃を置き、ホルスターには拳銃を入れている。

 公安特殊捜査部で使用される銃は、クラリオン王国の大手重工業メーカーであるフロンティア重工の子会社、フロンティア・ガンワークスで製造されたFAR-15とFSP-45、つまり独自の改良が施されたAR-15とガバメントのクローンモデルで、これに加えて狙撃銃が配備されている。

 これらの装備に加え、公安特殊捜査部の人員にはD-MADと呼ばれるスマートフォン型の機材が支給され、左肩のポケットに収納している。

 MADとは、かつての杖や魔導書に代表される魔法補助具の総称であり、魔法の展開速度向上、脳の処理負担減少による疲労抑制など、高度な魔法を使うには必須に近い道具だ。

 その演算処理にデジタル処理を導入し、大幅な性能向上を図ったのがD-MADであり、40年前に日本で開発されて以来、魔法師に広く普及している。

 公安特殊捜査部の人事には、配属するのは魔法師のみという規定があり、優秀な魔法師がそろっている。そして、その魔法師に支給されるD-MADも高性能品で、大手魔法工学メーカーであるブルームシード・ウィザードインダストリアルのWA-1100という機種が支給されている。連邦軍特殊部隊でも採用されている国産の高性能品だ。

 装備を整えた第1戦術小隊のメンバーは、オフィスに設置されたテレビでニュースを見ていた。内容は、クラリオン遊撃士協会バリウェスト支部で行われている記者会見。その様子が生中継されていた。

 〈―でありますようにレイモンド少年の射殺は、彼を利用して武器を調達しようとしたテロリストによる偽情報であり、レイモンド少年の生存は本人の家族と遊撃士が直接対面して確認しております〉

 広報担当者が、カメラの前で事実を公表している。

 〈では遊撃士協会は、偽情報を鵜呑みにして公園での抗議集会を後援していたのですか?〉

 〈抗議集会を開催したから、レイモンド少年の父親は銃撃されたのではないですか?〉

 マスコミが質問攻勢をかけ、広報担当者は困り顔をするのを見て、シリオは満足げに微笑んでいた。

 「嬉しそうね」

 「そりゃそうだろ、アリューシャ。連中に恥かかせられたんだから」

 「シンビィード家も恥かかないかしら?」

 「別に構わねぇよ」

 他人が困っているのを見て、愉悦に浸るのも恥ずかしくないか、とシリウスは横目に見て思ったが、遊撃士協会が自ら招いた結果なのは同意だった。

 集会銃撃事件の捜査中にわかったことだが、レイモンド少年の家族は、彼がなかなか帰ってこないことを遊撃士協会に相談し、フェイクニュースの拡散後、遊撃士の方から抗議集会を持ちかけていた。

 遊撃士が集会を持ちかけなければ、レイモンド少年の父親は狙撃されなかった可能性もあった。

 記者会見では、マスコミもそのことを追求し、広報担当者はますます困った顔をしている。顔に出やすいのは、広報担当者としては好ましくないか。シリウスはそんなことを思いつつ、フェイクニュースを拡散させたマスコミの手のひら返しを、冷ややかな目で見ていた。

 どこの国でもマスコミはこんなものである。

 「これでテロリストが動くのか?」

 向かいの席でギムレットが疑問を言う。

 「さぁな。ただ、欺瞞工作が失敗した以上、次の手を打つだろう」

 ニュースが速報に切り替わったのは、シリウスが予測を言った直後だった。

 〈ただいま入った情報です。先ほど局に電話があり、マーレセルロ市内の市立小学校を襲撃するとの予告がありました〉

 「さっそく来たな」

 シリウスが呟く。

 同時に、シズカがオフィスに入ってきた。彼女は一瞬だけテレビに視線を向けた。

 「みんな、見ての通りだ。警察や市教育委員会にも同じような予告電話が届いている。地域部と機動隊がすでに出動した。第1戦術小隊は、ハイストック小学校に向かって、集団下校を護衛しろ」

 「了解、すぐに出動します。皆さん、準備を」

 キヨノの号令で、小隊員たちは一斉に動き始める。

 プレートキャリアを装着し、専用出入口から下階にある車庫に向かうと、待機している車両に乗り込んでいく。

 シリオのスマホが鳴動したのは、彼女がランドクルーザーに乗り込もうとした時だった。

 「チッ、こんな時に」

 悪態つきながら表示された相手を見ると、ルドリナの名前が表示されていた。

 「なんだ!?すぐに出ないといけないんだ、理由はわかるだろ?」

 〈レイモンドくんの叔父が、君に会いたいと言っている。何か重要な話があるとかで〉

 相手が相手だ。無視するわけにもいかない。

 シリオはシズカとキヨノに、事情を報告した。

 「わかった。シリオはシリウスと彼の話を聞きに行け」

 シズカはあっさり許可した。

 「よろしいのですか?課長」

 「ああ。それに小学校はダミーな気がする」

 「ダミー?」

 キヨノは首を傾げた。

 「小学校に警官を集中させて、手薄になった場所を狙う。そういうことですね」

 「そうだ、シリウス。とにかく、レイモンドの叔父の話を聞きに行け」

 「了解。行こう、シリオ」

 「ああ!」

 シリオはルドリナに合流地点を伝えると、シリウスと共に小型遊撃車二型、防弾仕様のトヨタ・クラウンに乗った。


-----


マーレセルロ市セントラルパーク区

マーレセルロ城公園

13時00分


 マーレセルロ城は、かつてこの地域一帯を治めていた貴族が築城した城郭で、今では観光地として公園が整備されている。

 合流地点である公園の駐車場に入ると、ルドリナのLS500はすぐに見つかった。

 L500の隣にクラウンを停めると、ルドリナは後部座席のドアを開けて手招きする。

 後部座席にはレイモンド少年の叔父が座っており、シリオは彼の隣に座った。

 叔父は緊張した様子だが、おもむろに話し始める。

 「な、なぁ…別にタレコミをしたいとか、そういうんじゃないんだ。ただ、気になることがあって」

 「そうか」

 「アンタは、レイモンドに会わせてくれたし、兄貴が撃たれた時に、すぐに手当してくれた。俺は単純な人間だから、アンタなら話せると思ったんだ」

 「そうか」

 「俺、昔なじみがいるんだ。いい奴で、面白い奴なんだ。この前会った時に、訳のわからないこと言ってて…体制が腐っているから不幸な奴が出るとか、一度リセットしねぇといけねぇとか…その時は、何かの冗談だと思って本気にしてなかったんだけど…」

 「そいつは何をやってる奴だ?」

 「今は何をしているのか知らねぇ…ただ、前にPMCで仕事してて、銃や武器に詳しいんだ」

 「名前は?」

 「スコット・アルブ」

 「どこに住んでる?」

 「待ってくれ…このメモの住所だ」

 「フラットフィールドか。わかった、ありがとう」

 シリオは礼を言って、車から降りた。

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