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或る天狼星の公安事情 The Cold Logic of Sirius: The Secret Record of Binary Star  作者: 霜月淡碁
第0章

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2059年3月12日

マーレセルロ市ポートサイド区

ウエストポート中央公園

11時30分


 第1戦術小隊と警備局警備第一部第一機動隊が、ウエストポート中央公園に到着した時には、抗議集会は数百人規模になっていた。

 アメリカ公民権運動のような歴史を変えた集会と比べれば、極小規模な集会だが、万一暴徒化すれば周辺に相応の被害が出かねない。

 ウエストポート中央公園のあるウエストポート地区は低所得層が多く、低所得層の多くは遊撃士を支持している。

 一方で、公園周辺の街区はタワーマンションなど高所得層や中間層の居住地域となっている。高所得層や中間層の多くは、警察支持または中立という名の無関心である場合が多く、対警察抗議集会に興味を持たない。

 ウエストポート中央公園は州が管理する非常に大きな公園だが、時折このような集会の会場となっている。そして、多くの場合集会に無関心の周辺住民により、騒音に関する苦情が州政府や警察に殺到することになる。

 「先着の機動隊員によれば、集会規模は400人規模。遊撃士も多数来ているようです。幸い、遊撃士が集会の統制をとっており、暴徒化せずに済んでいます」

 キヨノは、公園の駐車場で部下たちとブリーフィングを行っていた。

 駐車場の車は枠線を無視して乱雑に駐車されており、民度の低さを物語っていた。

 「問題のレイモンド少年の家族の他、地元の不良集団も来ているとの報告があります」

 「警察に恨みのある人たちが、この機会に憂さ晴らしに来ているだけでは?」

 「そうでしょうね、アリューシャ。恨みは恨みでも、大半は逆恨みでしょうけど。以前のケースでは、薬物使用者やギャング団が暴徒化を扇動したケースがあります。そういった連中が合流する前に解散させたいところですが、強制解散は事を悪化させる可能性があり、慎重な対応が必要です」

 「ルドリナとリゼルに言って、薬中とギャングが来たら追い返させるのは?」

 「シリオ、なんであの2人が来てるとわかる?」

 シリウスの質問に、シリオは駐車場の車を指差した。

 「あの黒いレクサスのLS500、あれルドリナの車だ」

 「遊撃士のくせに厳つい車に乗ってんだな」

 「車の厳つさはまぁいいとして…シリオ、412班はルドリナたちを見つけて釘を刺しておいてください」

 「了解」


 ブリーフィングが終わると、412班は公園内に入った。

 集会に集まった市民から厳しい視線が送られるが、AR-15やガバメントクローンで武装した警察官相手に喧嘩を売る者はいなかった。

 「俺の息子は、生活の厳しい我が家のことを思って、積極的にアルバイトをしていた!とても良い子だ!」

 問題のレイモンド少年の父親らしき人物が、演台の上で叫んでいる。

 生活が厳しいからと言って、武器取引を行っていい理由にはならないだろう。シリウスはそう思いながら、周囲を見渡していた。

 「市民の集会に、銃を持ってくるのが警察のやり方か?」

 412班を見つけルドリナが、自分の拳銃と片手剣で武装しているのを棚に上げて、そう言いながら近づいてきた。

 「そっちから出向いてくれるとは、手間が省けて助かるよ」

 シリオも喧嘩腰に言う。

 この2人の間は根深いな、と思いつつ、シリウスはまだ話の分かりそうなリゼルに話しかける。

 「集会の届けは出てないな」

 「市民には集会の権利がある。それを行使しているだけだ」

 「州立公園管理法第5条、『集会等を行う場合は実施日の1週間前までに、州公園管理局に許可を取らねばならない』及び、同法第8条、『公園内で拡声器、スピーカー等を使用する場合、近隣住民に騒音の通知を行わなければならない』だ。州法は無許可集会を禁止している。それに付近の住民から、騒音に関する苦情も出ている。苦情の対応も、税金で行われるんだぞ」

 「それは市民の集会を阻止する理由にはならないと思うが?」

 「生憎、どんな悪法も、それを廃止する処置が行われるまでは、法律は効力を発揮する。文句があるなら、違憲訴訟でも起こせばいい。中身スカスカなこの国の憲法の何条に反するのかは知らんが…先にこいつら止めない?」

 シリウスは、互いに胸ぐらを掴みあっているシリオとルドリナを指さす。

 「この2人、これが平常運転だから気にすることないと思うが?」

 「公衆の面前で、A級遊撃士と警察官が喧嘩するのはみっともなくないか?」

 「それもそうだな」

 シリウスとリゼルは互いに頷くと、同時にシリオとルドリナの尻尾をそれぞれ引っ張った。

 「「くぁwせdrftgyふじこlp!」」

 2人は、言葉にならない悲鳴を上げた。

 馬系統獣人の尻尾は、馬と同様根元を除いて神経が通ってないが、引っ張られると当然引っ張られると痛い。

 「いきなり何する!」

 「リゼル、乙女の尻尾を引っ張るな!」

 2人は喧嘩をやめて、プリプリと怒る。

 「公衆の面前でみっともない喧嘩してるからだろ?」

 シリウスに言われて、シリオは反論できず、八つ当たりに尻尾でシリウスの足をバシバシはたく。コンバットパンツ越しでは、痛みは感じず、くすぐったいだけだ。

 「…この集会を遊撃士が擁護するなら、せめて穏便に集会が終わるようにしろ」

 「別に俺たちは暴動を扇動するつもりはない」

 「ならいいが、不良集団が混じってると言う情報がある。暴動を扇動するつもりはないなら、連中が変なことしないようにしろ。あと薬物中毒者やギャングが、集会に合流しないようにしろ」

 「努力はしよう」

 リゼルのその言葉を聞いて、シリウスはシリオに目配せをする。遊撃士が状況の悪化を防止する責任を持つという言質を取ったと判断し、彼女も頷く。

 「変なことがあればまた来る。一度引き上げよう」

 シリウスはそう言って踵を返し、駐車場に戻ろうとした。

 その時、鈍い破裂音が公園中に響き渡った。

 同時に演台で演説していたレイモンド少年の父親が倒れた。

 「何があった!?」

 「見ての通りだ!狙撃だ!」

 戸惑うルドリナにシリオが叫ぶ。

 「オルフェ!お前らは狙撃犯を探せ!シリウス来い!」

 シリオは指示を出すと、演台に向かって飛び出す。

 彼女は加速術式と跳躍術式を駆使して、銃声にパニックになった人々を飛び越えてすぐに演台に着地する。

 父親は苦悶の表情を浮かべながら、肩から出血している。

 シリオは片膝をつくと、腰のメディカルポーチから止血キットを取り出し、手当を始めようとした。

 その時、金属が何かに当たる音がして、直後に光の粒子が粉雪のように舞った。

 「…!?」

 振り返ると、シリウスが右手を突き出し、防御魔法を展開していた。術式は一般的な銃弾を跳弾させるものではなく、より高度な、銃弾などのエネルギーを光エネルギーに変換し、光の粒子として放出させる術式だ。

 「シリオ!まだ狙われている!」

 「あ、ああ…」

 「オルフェ!狙撃位置がわかった!演台正面500の小屋の上だ!」

 〈了解!〉

 無線を飛ばしながら、シリウスは術式を展開し続ける。

 「シリオ、手当!」

 「あ…ああ、わかった」

 シリオは戸惑いつつも、父親の手当を始めた。

 〈シリウス、狙撃位置に到着したが狙撃犯はいない。ライフルが放置されているだけだ。周囲を捜索する〉

 「了解」

 オルフェからの無線を聞いて、シリウスはそれ以上の狙撃はないと判断し、術式を解除した。

 同じタイミングで、シリオも手当を完了させる。

 「助かりそうか?」

 「支援班に残り処置をしてもらう。すぐに病院に連れて行けば大丈夫だ」

 「そうか」


 ほどなく合流した支援班が追加処置を行っている間に救急車が到着し、父親はレイモンド少年の叔父だという若い男性と共に病院に搬送された。

 シリオの見立て通り、病院での処置が順調に進めば大事にはならないだろう。

 狙撃犯が発砲したと思われる場所は、演台を見渡せる小屋の上で、周囲からは目立たない場所にあり、発砲まで誰も気づかなかったのは無理もない。

 緊急配備が敷かれたが、狙撃犯は見つかっていない。


-----


マーレセルロ市リバーサイド区

州警察本部第108支所

16時50分


 現場を鑑識と機動隊に引継ぎ、第1戦術小隊は第108支所に撤収した。

 オフィスではシズカが険しい顔で待っていた。

 「ひとまずお疲れ様。だが状況は芳しくない。機動隊と公安が警戒する集会会場から狙撃犯の逃走を許したことで、メディアは我々を批判している。おまけに、特別緊急配備で人手が割かれた隙に、サンライズ地区(マーレセルロ市ノルドサイド区)の銀行が襲撃され、5000万ラダーが持ち去られた上に死傷者が出ている。銀行が日系だったせいで、日本総領事館も駐留自衛隊もピリピリしているそうだ」

 シズカは溜め息まじりに現状を伝える。

 在クラリオン自衛隊は、軌道エレベーター防衛のための多国籍軍の一部として派遣されているが、実態は遊撃士協会への圧力とクラリオン国内の日本人及び同盟国国民の保護を目的としている。

 そもそも日本政府は、クラリオン連邦政府を信用していない。クラリオン在留日本人に何かあれば、自衛隊による治安介入を行う姿勢を明らかにしており、日本の同盟国も同様の姿勢を見せている。

 日系企業に関わる事件は自衛隊の介入の理由になりかねず、連邦政府や州政府は避けたい事案だ。他の事件の影響で防げなかった、などということはもっと避けたい事案だった。

 「銃撃事件に関して、銃器密売に関わる事案と見て公安四課で捜査が始まっている。が、今の時点では手掛かりなしだ。銀行襲撃事件は刑事部が追っている。そちらも、現状進展なしだそうだ」

 「チェン課長、我々はどうしましょう?」

 「キヨノ、まだ働くのか、お前?夜勤明けに、この事件だ。仮眠をとったと言っても、みんな疲れているだろ?今日は帰宅しろ」

 「よろしいのですか?まだ、捜査中ですが」

 「戦闘部隊である私たちは、今の時点では出番がない。それよりも家に帰って、体を休めろ」

 シズカはそう言って、立ち上がった。

 「課長はどちらへ?」

 「部長のとこ行ってくる。みんな、今日は帰って休め。明日出勤の予定がない者は、明日はゆっくり過ごせ」

 シズカはそう命じると、部屋を後にした。

 「…そういうことですので、皆さん今日は帰宅してください」

 キヨノが言うと、隊員たちは少し躊躇いがちに帰宅準備を始めた。

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