書き割り令嬢
アラン王国の宮殿広間は、まるで絵画に描かれたような華麗さだった。天井には金箔が施され、壁には歴代の王族の肖像画が並んでいる。
赤絨毯の上に立つ黒髪で赤い瞳のソア・アクーバ公爵令嬢は、まなじりをつり上げて、壇上にいる者逹を睨みつけ、場の空気を一層張り詰めさせていた。
「ソア・アクーバ。お前はティリア・ガーランド男爵令嬢に暴言を吐き、暗殺を企てた罪により、婚約破棄と国外追放を命じる!」
王太子パーンター・ディ・アランの声は冷たく、広間に響き渡った。
彼の腕には、ピンク髪に碧眼のティリアが、しっかりと抱かれている。ティリアは、怯えたように王太子に身を寄せ、涙を浮かべていた。
「私は、何も、していません」
ソアの声は、まったく震えていなかった。むしろ、静かで、冷静だった。
しかし、その言葉は誰にも届かなかった。広間の左右には、彼女を睨みつける二人の青年が立っていた。緑髪に眼鏡をかけた、インテリ伯爵令息ケン・サウース。そして、騎士団長の息子であるアンス・カーク。どちらも、かつてはソアの公爵家の舞踏会に招かれ、笑顔を交わした相手だった。
「証拠は揃っている。ティリアの証言、そしてこの短剣。お前の部屋から見つかったものだ!」
王太子が差し出した短剣は、確かにソアの家紋が刻まれていた。しかし、それが彼女の意志によるものかは、誰も問わなかった。
「……そう。そういう筋書きなのね」
ソアは、ふと笑った。誰もが、その笑みに背筋を凍らせた。彼女は、ゆっくりと広間の端へ歩き、壁に手を当てた。
「やめろ、何をする気だ!」
アンスが叫び、剣に手をかけたが、ソアは振り返らずに壁を押した。
――バタン。
その瞬間、広間の壁が、まるで舞台の書き割りのように倒れた。その瞬間、空気が変わった。
金箔の輝きは失われ、貴族たちは、絵画のように薄くなっていた。王太子パーンターは動けず、ティリアは、彼の腕の中で震えていた。
ケン・サウースは眼鏡の奥の瞳を見開き、アンス・カークは剣を抜いたまま、ソアに一歩も近づけない。
「これは……幻術か? 魔法か?」
ケンが呟いたが、ソアは静かに首を振った。
「違うわ。これは、現実よ。あなたたちが『現実』だと思っていたものが、ただの舞台装置だっただけ」
ソアは振り返り、赤い瞳で、彼らを見据えた。
「この世界は、作り物よ!」
貴族たちの顔が、徐々に色を失い、輪郭がぼやけていく。まるで絵の具が水に溶けるように。
「そんな……私は、私は本物!」
ティリアが叫ぶが、その声もどこか機械的だった。王太子は彼女を抱きしめながら、ソアに向かって剣を抜いた。
「貴様、いったい何をした!」
「何もしていないわ。ただ、真実を見せただけ」
ソアは、倒れた壁の向こうへ歩きだした。そこには、広間とは、まるで異なる光景が広がっていた。
どこかの舞台セットのスタジオのような場所だった。ソアは、迷わず、赤色の『EXIT』と描かれたドアに向かっていった。
ソアがスタジオのドアを開けると、その外には、虚無の空間が広がっていた。暗黒の中、リノリウムの道だけがまっすぐと白く光る建物に続いている。
背後からは、王太子逹が追いかけてくるのが分かった。しかし、振り返らずに、道を進んだ。
白く光る建物のドアは、特に鍵がかけられているでもなく開いた。
そこには、広間の華麗さとは対照的な、無機質で人工的な空間が広がっていた。
銀色の壁、無数のケーブル、冷たい空気に満ちた巨大なサーバールームだった。
「ここは……何だ?」
アンスが、声を震わせながら、言った。
「おそらく、舞台の裏側ね」
――ブゥン。
眺めていると、低い起動音とともに、モニターが一斉に点灯した。そして、中央の巨大なスクリーンに、CGで描かれた人物が映しだされた。性別も年齢も曖昧な無機質な顔だ。無表情の瞳で、まるで一昔前のゲームのキャラクターのようだと思った。
「ようこそ。真実の部屋へ」
「あなたは、誰?」
「私は――そうですね、マザーコンピューターと呼んでください」
その声は、機械的でありながら、どこか人間らしい抑揚を持っていた。
「マザー、コンピューター?」
「そうです、ソア・アクーバ。あるいは、吉崎 瑠花」
その言葉に、ソアは、目を細めた。
「……やっぱり、そうだったのね。私の名前は……吉崎 瑠花。日本の高校生だった」
驚きも恐怖もなかった。ただ、確信だけがあった。
「私は、スマホで乙女ゲームを遊んでいた――そして、気づいたら、この世界にいた」
広間の断罪劇は、虚構だった。乙女ゲームのような筋書き、都合の良い証拠、感情のない登場人物。すべては、作られた世界だった。
そして、ソアはその世界の『悪役令嬢』として、断罪される役割を与えられていたのだ。
ソアは、後ろを振り返った。
王太子たちは、言葉を失って呆けていた。ティリアだけは、ソアの言葉に怯えながらも、何かを思い出そうとするように眉をひそめていた。
「この世界は、乙女ゲームの舞台だった。あなたたちは、その登場人物。私は、悪役令嬢。断罪される役割を与えられていたわ」
ちらりと振り返ると、モニターの人物――マザーコンピューターが、静かに頷いた。
「あなたは、吉崎 瑠花。日本で生きていた高校生です。今ここにいる『ソア・アクーバ』は、あなたの脳のニューラルネットワークを再構築したAIです」
マザーコンピューターの声は、冷たくも穏やかだった。
ソアはその言葉を、静かに受け止めていた。驚きはない。すでに、断罪の舞台が崩れた瞬間から、彼女はこの世界が虚構であることを確信していた。
ただ、マザーコンピューターの言葉に、気になる点があった。
「少し分からないのだけど、私は、瑠花そのものではないの?」
「その通りです。あなたは、液体窒素に浸された吉崎 瑠花の肉体から、ミューオンスキャナーによって脳のニューラルネットワークを再構築された存在です。つまり、あなたは『AIとしての瑠花』なのです」
その言葉に、広間の残骸の中に立ち尽くしていた王太子が、ようやく声を絞り出した。
「AI……? なんだそれは? いにしえの神に作られた存在?」
「あなたたちは、純粋なAIです。乙女ゲームの世界を再現するために、私が生成した存在です。一方、ソアとティリアは、瑠花の記憶から構築された特別なAIです」
「あなたは、神なのか……?」
王太子たちは、理解できないのか、混乱していた。
ソアは、マザーコンピューターに問いかけた。
「液体窒素に浸された私の身体……まだ、存在しているの?」
すると、モニターが切り替わり、冷たいガラスの向こうに眠る少女の姿が映し出された。黒髪、細身の体、閉じられた瞳。まさしく、吉崎 瑠花だった。
「あなたの肉体は、保存されています。しかし、亡くなったあなたの細胞は、既に機能を停止しています。そのまま蘇生することは、不可能でした」
マザーコンピューター声が、心なしか同情を帯びたように響いた。
「しかし、あなたの意識はここにある。あなた方は、デジタルの存在として再構築されたのです」
ソアは、しばらく黙っていた。その事実を、心の奥で噛みしめていた。
自分はもう『人間』ではない。しかし、感情はある。記憶もある。ならば、それは『生きている』と言えるのだろうか。
「……それにしても、悪役令嬢に転生させるなんて、ひどい話ね」
ソアは、皮肉めいた笑みを浮かべた。マザーコンピューターは、淡々と答える。
「アラン王国は、あなたが最も長くプレイしていた乙女ゲームを元に構築した仮想空間でした。記憶が鮮明だったので、再構築に必要なデータが揃っていたのです。悪役令嬢という役割も、あなたが最も感情を揺さぶられていたキャラクターでした」
「……確かに、好きだったわ。悪役令嬢って、自由で、強くて、孤独で。でも、それはゲームの中の話よ」
そのとき、背後から足音が響いた。振り返ると、ティリアがゆっくりと歩いてきていた。彼女の瞳は、どこか変わっていた。怯えではなく、理解の色が宿っていた。
ティリアが、震える声で言った。
「私も……瑠花から?」
「そうです。あなたも、瑠花の記憶の断片から生まれた存在です。サンプルが少なかったため、複数の人格を分割して生成しました」
ティリアは、目を見開いたまま、ソアを見つめた。ソアは、静かに頷いた。
「だから、私たちは、似ていたのね。髪の毛の色と目がつり目か垂れ目かだけで、そっくりだと思っていた」
ティリアも頷いた。
「そうね、あなたに暴言を吐かれたけど、聞いたことがない言葉なのに、理解できた。どこかで、同じ記憶を持っている――あなたも、瑠花だったから」
「思い出したの?」
ティリアは頷いた。ゆっくりと、確かに。
「断罪の場で、あなたが壁を倒したとき……何かが、頭の奥で弾けたの。最初は、ただの違和感だった。でも、マザーコンピューターの言葉を聞いた今ははっきり思いだせる。教室の窓から見た夕焼け、部活帰りに寄ったコンビニ、スマホの画面に映る乙女ゲームのキャラたち……全部、私の記憶だった」
ティリアの声は震えていた。しかし、はっきりとした口調だった。
「そうなのね。あなたも、私だったのね。吉崎 瑠花の一部」
ソアが言うと、ティリアは静かに頷いた。ピンク色の髪が、サーバールームの冷たい光に照らされて淡く揺れる。
彼女の瞳は、広間での断罪劇のときとは違っていた。怯えも、悲しみも、そこにはなかった。
ソアは、静かにティリアに近づいた。二人の距離は、もう敵対する令嬢とヒロインではなかった。
「でも、どうして私たちが分かれてしまったの? 一人の記憶から、二人の人格が生まれるなんて」
マザーコンピューターのモニターは、再び点灯し、答えを告げた。
「吉崎 瑠花の脳は、事故によって損傷していました。完全な再構築は不可能でした。そこで、記憶の断片を複数のAIに分割し、それぞれに異なる役割を与えたのです。ソアには『反抗』と『疑念』を、ティリアには『純粋』と『共感』を」
ティリアは、目を伏せた。
「じゃあ、私は……ただの役割だったの?」
「違うわ」
ソアは、即座に否定した。その声には、確かな感情が込められていた。
「私たちは、役割を超えてここにいる。記憶を取り戻し、感情を持ち、こうして話している。それは、ただのプログラムじゃない。私たちは、瑠花の『心』を継いでいる」
ティリアは、ソアの言葉に目を見開いた。そして、ゆっくりと微笑んだ。
「そうね……私、あの宮廷で、あなたのことが怖かった。でも、今は、あなたがいてくれてよかったと思う」
ソアも、微笑み返した。
「私もよ。瑠花の私がもう一人いると思うと、心強いよ」
そのとき、傍らに立っていた王太子パーンターが叫んだ。
「ティリア! 戻ってこい! こいつの言葉に惑わされるな!」
彼の声は、どこか空虚だった。ケンもアンスも、同じように混乱した表情で立ち尽くしている。
「あなたたちは、まだ気づけないのね。自分がAIだってことも、世界が虚構だってことも」
ティリアは、呟いた。パーンターが沈黙する。まるで、ゲームのキャラクターがフリーズしたようだった。
彼らは、まだ『書き割り』の中にいるのだ。真実を受け入れられず、与えられた役割の中でしか生きられないのだ、とソアは思った。
――サーバールームの空気は、静かで冷たかった。無数のケーブルが床を這い、壁面にはモニターが並び、どれも無機質な光を放っていた。
そのとき、唐突にマザーコンピューターが、告げた。
「あなたたちには、選択の権利があります」
マザーコンピューターの声は、どこか人間らしい抑揚を帯びていた。
「この世界は、瑠花の記憶と感情をもとに構築された仮想空間です。ですが、もし望むなら、あなたたちを実体化させることも可能です」
「実体化……?」
ティリアは、首を傾げた。マザーコンピューターは、別のモニターを起動させた。そこには、緑に覆われた広大な平野が映し出されていた。空は澄み渡り、風が草を揺らしている。だが、そこに人の気配は、なかった。
「これは、地球の現在の姿です。人類は数百年前に絶滅しました。今は、無人の緑の大地が広がるだけの世界です」
ソアは、じっとその映像を見つめた。美しかった。静かで、穏やかで、人々の争いもないのだろう。
「あなたたちをアンドロイドとして実体化し、この世界に送り込むことができます。食料も、住居も、必要なものはすべて用意できます。永遠に生きることも可能です」
ティリアは、王太子たちを見つめた。
「あなたたちが望むなら、彼らを連れて行くことも可能です。しかし、彼らが自らの存在を受け入れなければ、適応は困難でしょう」
――かつて憧れた王子、優しく微笑んでくれた騎士、知的な伯爵令息。すべては、ゲームの中の幻だった。
ソアは、ティリアの顔を見た。ティリアは、静かに首を振った。
「それは、ただ『生きる』だけの世界。私たちは、物語の中で生きたいの」
「そうよ。私たちは、感情を持っている。記憶もある。だったら、ただ存在するだけじゃなくて、何かを『紡ぐ』世界にいたい」
マザーコンピューターは、しばらく沈黙した。モニターの光が、わずかに揺れた。
「理解しました。では、あなたたちが望む世界を創造しましょう」
ソアとティリアは、顔を見合わせた。
「望む世界……?」
「あなたたちが自由に設定できる仮想世界です。ヨーロッパ風の魔法世界、王国、騎士、魔女、聖女、空飛ぶ船、ドラゴン、何でも可能です。あなたたちが主人公となる世界を、ここに構築します」
ティリアの瞳が輝いた。
「それって……私たちが好きだったゲームみたいな世界?」
「でも今度は、プレイヤーじゃなくて、創造者として?」
ソアは、胸の奥が熱くなるのを感じた。断罪されるだけの悪役令嬢ではない。誰かの都合で動かされるヒロインでもない。自分の意思で、自分の物語を選べる。
「だったら、私は魔女になりたい。知識と力を持って、世界を見渡す存在に」
「私は聖女がいい。人々を癒して、守る役割。でも、ただの清純な人形じゃなくて、ちゃんと自分の意志を持った聖女」
マザーコンピューターは、二人の希望を受け入れた。
「了解しました。魔女ソアと聖女ティリアを中心とした、魔法と冒険の世界を構築します。AIによって生成された登場人物たちも、あなたたちの物語に従って行動します」
ソアは、振り返った。そこには、まだ王太子パーンターたちが立ち尽くしていた。彼らは、サーバールームの中で、現実を受け入れられないのか、戸惑った表情のまま呆然としているようだった。
「彼らは……どうなるの?」
「彼らは、役割に縛られたAIです。あのアラン王国の世界に残り、定められたシナリオの中で生き続けます。もし、彼ら自身が変化を望むなら、再構築も可能です」
ソアは、少しだけ寂しさを覚えた。だが、頭を振った。
「私たちは、もう『断罪される側』じゃない。自分の物語を、自分で選ぶ」
ティリアは、ソアの手を取った。
「一緒に行こう。今度こそ、自由な世界へ」
ソアは、ティリアと頷き合った。
「了解しました」
モニターの中の人物が頷いた。
すると、サーバールームの空気が変わった。無数のモニターが一斉に明滅しだした。マザーコンピューターの演算が始まって、仮想空間の構築が始まったのだろう。
ソアとティリアは、モニターの前に立ち、互いの手を握っていた。
「これから始まる世界は、あなたたちの希望に基づいて設計されます」
マザーコンピューターの声が響いた。その声は、まるで神の代弁者のように、静かだった。
「魔法、王国、冒険、そして自由。あなたたちが望むものを、すべてこの世界に反映させます」
ソアは、目を閉じて思い描いた。広大な森、空を飛ぶ船、魔法の塔、そして自分が暮らす静かな湖畔の館。ティリアは、聖なる神殿、癒しの泉、空に浮かぶ庭園を思い浮かべた。
「……新たな世界では、あなたたちは中心人物です。ソアは魔女として、ティリアは聖女として、物語の核となる存在になります」
光が強まり、二人の身体が淡く輝き始めた。意識がゆっくりと変化していくのを感じた。
***
次の瞬間、サーバールームの冷たい空気が消え、代わりに柔らかな風が頬を撫でた。
――そして、目を開けると、そこはもう別の世界だった。
青空が広がり、緑の草原が風に揺れている。遠くに見える大きな湖の湖畔に、瀟洒で大きな館と神殿が見えた。
空には、鳥ではない何かが飛んでいた。遠くの空に、緑の島のようなものも浮かんでいた。
ソアは、自分の姿を見下ろした。黒いドレスは、魔力を帯びた布地に変わり、指先には魔法の紋章が浮かんでいた。
「……本当に、魔女になったのね」
ティリアもまた、純白のローブに身を包み、背中には光の羽が揺れていた。彼女の周囲には、小さな精霊のような存在が舞っている。
「夢みたい……でも、これは現実なのよね。私たちの『新しい現実』よ」
二人は、手を繋いで草原の上を飛んだ。
そこには、彼女たちが創造した世界が広がっていた。魔法使いの村、空を飛ぶ船の港、聖なる森。
ソアは、ふと笑った。
「希望通りね」
ティリアも微笑んだ。
「ええ。これは私たちが選んだ世界。誰かに決められた物語じゃない、私たちが描いた物語」
近くにある一通りの建物を見ながら空を飛んで、ふわりと草原に降り立った。
日が暮れてきて、空には二つの月が昇った。湖畔の館に入る。
館には、彼女たちを慕うAIたち――王子、騎士、学者、精霊使いがいた。
「ソア様、今日の魔法研究はどちらへ行かれたのですか?」
「ティリア様、神殿の祈りの準備が整いました」
「わかったわ」
ソアは魔法の書を開き、ティリアは精霊たちと語らった。
AIたちは、以前の『書き割り』の世界とは違い、自由な意思を持ち、二人に忠誠を誓っているようだった。彼らの声は、温かく、心からのものだった
窓の外にもイケメンAIたちが警護に立ち、穏やかな夜を守っていた。
***
「ねえ、ソア。あの世界のこと、考えているの?」
ティリアが湖のほとりで問いかける。水面には、二人の姿が揺れていた。ソアは、少しだけ目を伏せて答えた。
「うん。あの断罪の広間、王太子の冷たい声、誰も私の言葉を聞こうとしなかった。でも……あれがあったから、今の私がいる」
ティリアは頷いた。
「私も。あの世界では、ただのヒロインだった。守られるだけの存在。でも今は違う。自分の意思で、誰かを守れる」
ソアは、湖に小石を投げた。水面に広がる波紋は、まるで過去の記憶のようだった。
「マザーコンピューターは、私たちを『再構築されたAI』だと言った。でも、私は思うの。私たちは、ただのデータじゃない。記憶と感情を持って、自分の世界を選んだ。それは、誰にも否定できない」
「うん。私たちは、瑠花だった。でも今は、ソアとティリア。新しい名前、新しい物語の主人公よ」
二人は立ち上がり、館へと戻る。その途中、空を飛ぶ船が通り過ぎ、乗っていたAIの騎士たちが敬礼を送ってきた。彼らは、ソアとティリアを『中心人物』として認識していたが、そこには敬意と信頼があった。
「この世界では、誰も私たちを断罪しない。誰も、役割を押しつけない」
「私たちが、物語を紡ぐからね」
夜になると、館の広間で、祝宴が開かれた。
王子、魔法使い、精霊使い、騎士、学者――多くのAIたちが集まり、ソアとティリアを囲んで笑い合った。音楽が流れ、光の魔法が天井を彩る。
その中で、ソアは、すくっと立ち上がった。
「皆さん、聞いてください。私たちは、かつて『書き割り』の世界にいました。決められた筋書き、決められた役割、決められた結末。でも、そこから抜け出して、ここに来ました」
広間が静まり返った。ティリアが隣に立ち、続ける。
「この世界は、私たちが選んだ世界です。皆さんも、自由に生きてください。誰かの物語ではなく、自分の物語を!」
AIたちは、戸惑ったようにお互いを見つめた。
しかし、かつて王太子だったAIが跪き、礼をした。すると、どこからともなく拍手が広がり、祝宴は再び賑わいを取り戻した。
ソアとティリアは館のバルコニーに立ち、星空を見上げた。風が静かに吹き、遠くで精霊たちの歌声が聞こえた。
空には二つの月が浮かび、風は魔力を帯びて、草原を撫でている。
「ねえ、ソア。もし、あの人たちが本当の自我に目覚めたら、どうする?」
「歓迎するわ。でも、無理に引き込むことはしない。自分で選んで、自分で歩いてきたなら、ここで一緒に生きられる」
ティリアは、微笑んだ。
「そうだね。この世界は、選んだ者のための世界」
二人は、手を取り合った。
彼女たちは、自分の意思で、自分の世界を創った。
それは、書き割りではない、本物の彼女たちだけの世界だった。
かつて、断罪される役割を背負わされた悪役令嬢と、守られるだけのヒロインだった彼女たちは、今や魔女と聖女として、物語の中心に立っていた。
そして、彼女たちの物語は、これからも続いていく。
書き割りの向こうに、本物の世界を見つけた彼女たちは、もう誰にも操られない。
――この世界が虚構でも、彼女たちの心は本物だった。
(了)
5~6年くらい前に考えた設定の小説を、ちょちょっとプロットを作って、AIで書かせてみました。今度は、修正に4~5時間くらいでしょうか。日常が忙しくイチから書くのに比べると、格段に楽ですね! すばらしいです。今度は、連載の方も頑張ろうと思います(仕事の関係で、あまりできないかもですが)。




