09.暴走するレガシー
チームYは、埃と錆にまみれた地下通路を進み、ついに広大な空間へと辿り着いた。
そこには、ノアの設計図データが示唆していた通り、巨大な地質構造操作装置が姿を現した。
それは、かつてエリオンの資源を根こそぎ奪い去るために造られた、巨大な機械の心臓部だった。何十年もの時を経てなお、その威容は薄れておらず、薄暗い空間の中で不気味な存在感を放っている。
「これが……」
イヴァンが感嘆とも呆れともつかない声を漏らした。装置の大きさは、彼の想像をはるかに超えていた。無数のケーブルとパイプが複雑に絡み合い、巨大なギアが錆びついたまま停止している。
「酷い……こんなものが、まだ残されていたなんて」
エミリーは、装置を見上げて静かに呟いた。その顔には、怒りにも似た感情が滲んでいた。
過去の採掘業者が、莫大な撤去費用を惜しんで、危険な装置をこの星の地下に放置した。その無責任な利益追求主義が、今、エリオンを蝕もうとしている。
ノアは、自身のタブレット端末を装置の近くにかざし、詳細なデータをスキャンし始めた。
「予想通りだ。装置は停止しているように見えるが、内部でエネルギーが不安定に蓄積され、間欠的に放出されている。これが、地殻変動と住民が感知する『唸り』の原因だ」
ノアの論理的な説明に、カケルは眉をひそめた。
「つまり、完全には停止していなかった、と?」
「ああ。おそらく、最低限の停止処置だけを行い、残りの解体・撤去費用を浮かせたのだろう。そして、長年の放置と、何らかの微細な外部要因によって、この『負の遺産』が再起動を始めている」
ノアの言葉に、カケルの頭痛は急激に悪化した。それは、先ほどまで経験していた鈍い痛みとは異なり、脳髄を直接揺さぶられるような、激しい苦痛だった。視界が歪み、空間全体がまるで波打つかのように揺れ始める。
「くっ……!」
カケルは膝をつき、必死に痛みに耐えた。その脳裏に、怒涛のように未来の断片が押し寄せてくる。崩壊する惑星、逃げ惑う人々、そして――。
「カケル!?」
ミリアムが、カケルの異変に真っ先に気づき、駆け寄った。彼女の顔色も青ざめている。カケルの苦痛に呼応するかのように、彼女の空間認識能力が、装置から発せられる「不自然な空間の脈動」をこれまで以上に鮮明に感知し始めていた。それは、ノアが言う「不協和音」とは比べ物にならないほど巨大で、惑星全体を覆い尽くすかのような、破滅的な「音」だった。
「カケル……この『音』、すごいよ!装置のコアから、まるで星の心臓が発狂してるみたいに、空間が激しく脈打ってる!」
ミリアムが、カケルの腕を掴み、その感覚を共有しようとするかのように叫んだ。彼女の言葉が、カケルの中でバラバラだった未来の断片を、一つに繋ぎ合わせていく。
カケルは、ミリアムが感知する「空間の脈動」と、自身の能力が示す「未来の映像」が、完璧にシンクロする感覚を覚えた。その瞬間、彼の脳裏に、恐ろしいほど鮮明な「連鎖反応」の全貌が展開された。そして、その完璧なシンクロと共に、彼の頭を苛んでいた激しい頭痛は、嘘のようにスッと消え去った。まるで、ノイズが消え、クリアなチャンネルが開いたかのように。
それは、装置が惑星の核に直接作用し、内部の地質プレートを狂ったように刺激する映像だった。最初のうちは微細だった地殻変動が、やがて巨大な地震を引き起こし、地表に無数の亀裂が走る。亀裂からは灼熱のマグマが噴き上がり、エリオンの大地は炎と黒煙に包まれる。集落は跡形もなく崩れ落ち、住民たちは為す術もなく絶望の淵に突き落とされる。そして、最終的には、惑星エリオンの核そのものが破壊され、巨大な爆発を起こし、星系全体を飲み込む大災害へと繋がる、明確な未来だった。
その破滅的な未来の映像の中に、カケルの脳裏に、まるで光を帯びたかのように、あの顔を思い出せない保母の姿が、はっきりと映し出された。彼女は、瓦礫と炎が迫る中で、誰かを守るように抱きしめ、そして……静かに消えていく。その表情は、絶望ではなく、諦めと、そして深い慈愛に満ちていた。
「ノア……エミリー……イヴァン……」
カケルは、はっきりと、しかし震える声で絞り出した。彼の瞳には、未来の破滅が焼き付いていた。
「この装置は……エリオンを滅ぼす。あと、3日で、惑星核が崩壊する」
カケルの言葉は、確信に満ちていた。彼の連鎖反応予測能力は、この瞬間、完璧なまでに覚醒したのだ。そして、その覚醒は、惑星エリオンが抱える途方もない危機を、彼自身の失われた記憶と結びつけて、冷酷に突きつけた。




