04.不穏な振動
銀河鉄道ロイド支社の運行管理室は、常に無数の情報が飛び交う、緊張感に満ちた空間だった。
巨大なホログラムディスプレイには、ロイド支社が管轄する広大な星域の運行状況がリアルタイムで映し出され、オペレーターたちの指が忙しなくコンソールの上を滑る。その日もまた、無数のデータが処理される中、惑星エリオンからの報告がひっそりとシステムのログに記録された。
『惑星エリオン、観測データ。軽微な地殻変動を感知。期間中、計12回』
システムAIの無機質な声が報告を読み上げる。
「エリオン、またか」
主任管制官が、手元のカップを傾けながら呟いた。
「どの星でも起こることだ。特に問題はない。それにあの星は、昔から地盤がゆるいからな」
他のオペレーターたちも、特段気にする様子はない。
地殻変動そのものは、宇宙に無数に存在する惑星で日常的に起こりうる現象だった。ましてやエリオンのような辺境の、かつて資源採掘によって地質が不安定になった惑星であれば、なおさら珍しいことではない。
報告書は瞬く間に他のデータの中に埋もれていった。大半の関係者にとって、それは取るに足らない、ありふれた情報の一つに過ぎなかった。
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数時間後、GRSI本部。アラン局長は、自身のオフィスで山積みにされた報告書の山と格闘していた。銀河鉄道の安全保障に関わるありとあらゆる情報が、毎日彼の元に届けられる。その膨大な情報量の中に、ロイド支社からのエリオンに関する報告書も含まれていた。
局長は、通常であれば見過ごされがちなその報告書を、なぜか手に取った。報告された地殻変動の数値自体は、警戒レベルには到底及ばない。しかし、その報告書には、地殻変動と共に、「地下深部からの、微細な、不自然な共鳴音」という、ごく個人的な観測者の所見が添えられていた。
「共鳴音……か」
アラン局長は、眼鏡の奥の瞳を細めた。データとしては無視できる範囲。しかし、長年の経験が彼の直感に訴えかける。まるで、何かを訴えかけてくるような、奇妙な引っかかり。彼は報告書をデスクの隅に置いた。
これは、ただの地殻変動ではないかもしれない――。
言葉にならない予感が、彼の胸中に広がる。彼はすぐに、チームYにエリオンへの調査を命じることを決めた。
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同じ時、銀河鉄道株式会社本社ビル。
総帥アリア・テレスの私室は、簡素ながらも厳かな空気に満ちていた。壁一面に広がるホログラムディスプレイには、銀河鉄道の運行状況だけでなく、銀河全体の主要な事象が常時表示されている。アリアは、長い髪をたおやかに揺らしながら、ゆったりとした椅子に腰掛け、一編の報告書を眺めていた。
それは、アラン局長の元にも届いた、惑星エリオンからの地殻変動に関する報告書だった。彼女の表情は常に無感情で、何を考えているのかを伺い知ることはできない。
宇宙の全てを知る魔女――そう呼ばれる彼女の瞳は、報告書の数値や文字を追うだけでなく、その背後にある、目に見えない「真実」を深く見据えているかのようだった。
報告書を読み終えたアリアは、何も言わず、ただ無言でそのホログラムディスプレイを消した。彼女の周囲には、報告された軽微な地殻変動とはかけ離れた、まるで星の根源から響くような、ごく微かな「音」が満ちているかのようだった。




