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GRSI-04 星を蝕むレガシー  作者: やた


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02.葛藤

 銀河鉄道株式会社本社の隣にそびえ立つGRSI本部。その一角、チームYの控え室の片隅にあるカケルの自室は、シンプルながらも彼の個性が滲み出ていた。


 机の上には、飲みかけの合成コーヒーと、開かれたホログラムディスプレイ。ディスプレイに映し出されているのは、先日終結したばかりの惑星リュミエールでの事件の最終報告書だった。


 カケルは、ディスプレイの文字を追う指を止め、深い息を吐いた。彼の脳裏には、麻薬精製プラントの薄暗い光景、ミリアムが拘束されていたカプセルの痛々しい姿、そしてコレクターの狂気に満ちた嘲笑が鮮明に蘇る。


 あの時、ミリアムを救い出し、コレクターを逮捕できたのは、本当に間一髪の出来事だった。最終的にはミリアムの奇跡的な能力覚醒と、アラン局長率いるGRSI大規模増援部隊の介入という、複数の「偶然」が重なった結果だ。


 彼は報告書の中の自分の行動記録をもう一度確認した。作戦の立案者として、彼はコレクターの用意周到な罠や、ミリアムの能力が悪用される可能性を完全に想定しきれていなかった。


 もし、あの時ミリアムが覚醒しなければ?

 もし、アラン局長の増援が間に合わなければ?


 想像するだけで、カケルの心臓は締め付けられるような痛みを覚えた。


「俺は……本当にリーダーとして、これで良かったのか……?」


 カケルは、自身の未熟さを痛感していた。


 チームYの他のメンバーは、それぞれが圧倒的な「武器」を持っている。

 ミリアムの空間認識能力は、時に奇跡を起こす。

 エミリーの狙撃は、百発百中の精度で状況を打開する。

 イヴァンの格闘能力は、どんな敵も粉砕する。

 ノアのハッキング能力は、銀河中のシステムを掌中に収める。


 それに比べて、自分はどうか。


 カケルの主な能力は、精巧な変装だ。


 もちろん、諜報機関のエージェントとしては重要なスキルだ。しかし、チームの危機を直接的に打破するような、決定的な「力」ではない。リュミエールでの事件では、その「力」の差をまざまざと見せつけられた。


 自分のリーダーとしての判断と、仲間の持つ強力な能力。そのギャップが、カケルの中で拭い去れない葛藤を生んでいた。


 彼は、ふと机の上のフォトフレームに目をやった。そこに飾られているのは、一枚の古びた写真だった。幼い頃の自分が、穏やかな笑顔の女性に抱かれている。養護施設での記憶だ。その女性は、自分にとって絶大な恩義がある、心優しい保母だった。


 だが、カケルは、何度その写真を見つめても、どうしても保母の顔をはっきりと、鮮明に思い出すことができなかった。まるで、記憶の奥深くに靄がかかっているかのように、輪郭が曖昧なままだ。


 あのリュミエールでの事件のように、未来を「想定しきれない」不安。そして、大切な人の顔さえ「思い出せない」という、自分の中の曖昧さ。この二つの「見えないもの」への葛藤が、カケルの心を深く蝕んでいた。


 彼は、知らず知らずのうちに、未来の可能性を全て見通し、もう二度と「想定外」の事態を起こさない、完璧なリーダーになりたいと強く願っていた。

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