16.真実の光と新たな旅立ち
地質構造操作装置が完全に沈黙した空間に、安堵の息が漏れた。惑星核の崩壊は回避され、住民たちの命は救われた。しかし、任務はまだ終わっていない。GMCに雇われた傭兵たちが、すぐそこまで迫っていた。
「ノア、システムの完全ロックダウンと、データの消去を急げ!敵にGMCの不正の証拠を渡すわけにはいかない!」
カケルが指示を出す。ノアは素早くコンソールに向かい、残されたデータを消去し始めた。彼のハッキング能力は、証拠の完全抹消にも長けている。
「了解!このデータは、GMCの隠蔽工作を暴くための決定的な証拠となる。彼らには絶対に渡さない!」
ノアの指が、キーボードの上を猛スピードで滑る。彼の作業は二重だった。装置のデータを完全に消去しつつ、自身の端末にもその不正の証拠となるデータをコピーしていたのだ。これこそが、GMCを法的に追い詰めるための、決定的な切り札となる。
その間も、エミリーとイヴァンは、迫りくる傭兵たちを食い止めていた。エミリーが放つ正確無比な狙撃と、イヴァンの圧倒的な身体能力が、傭兵たちを寄せ付けない。しかし、敵の数はこちらよりも圧倒的に多く、彼らが消耗するのも時間の問題だった。
「カケル!どうする!このままじゃ、挟み撃ちだ!」
イヴァンが叫ぶ。背後からは、装置の停止で一時的に動きを止めていた別の傭兵部隊が、再び攻撃を開始しようとしていた。
カケルは、ミリアムを支えながら、冷静に周囲を見渡した。彼の予測能力は、もはや迷いなく、この状況における最善の脱出経路を示していた。
「ノア、データ消去完了後、この施設の爆破シーケンスを起動しろ!小規模でいい。奴らが追跡できない程度で!」
カケルの指示に、ノアが驚いて振り返る。
「爆破!?本気か、カケル!?」
「ああ。これ以上、奴らに追われるわけにはいかない。住民は避難を開始した。俺たちの役目は終わった」
カケルは、断固たる口調で言った。彼が求めているのは、GMCの不正を公にし、エリオンの住民が安全に避難すること。そのためならば、どんなリスクも取る覚悟だった。
「了解した!ハッキングを開始する!」
ノアは、素早く爆破シーケンスのコードを打ち込み始めた。
エミリーがインカム越しに状況を報告する。
「敵、かなりの動揺を見せているわ。装置が停止したことに気づいたようね」
「そうだろうな。彼らの任務は装置の完全破壊と俺たちの排除だ。装置が停止した以上、彼らにとって残されたのは、不正の証拠を隠蔽することだけだ」
カケルは、傭兵たちの心理を正確に読み取っていた。
数分後、ノアのシステムから「爆破シーケンス起動、5、4、3、2、1……」というカウントダウンが流れ始めた。
「よし、脱出するぞ!イヴァン、エミリー、俺たちを援護しろ!」
カケルは、ミリアムを抱え上げるようにして、最も安全な脱出経路へと走り出した。イヴァンとエミリーは、後方から迫る傭兵たちを食い止めるべく、最後の抵抗を見せる。彼らの連携は、これまで以上に研ぎ澄まされていた。
「くらええええっ!」
イヴァンの拳が、最後の傭兵を吹き飛ばす。エミリーもまた、最後の弾丸で敵の指揮官を仕留めた。その瞬間、背後で巨大な爆発音が轟いた。旧採掘施設の一部が崩落し、大量の土砂が舞い上がる。傭兵たちは、追跡を諦めざるを得なくなった。
チームYは、埃と煙の中を駆け抜け、オフロード車を停めていた場所へと辿り着いた。エミリーが素早く運転席に乗り込み、エンジンをかける。タイヤが砂塵を巻き上げ、車はエリオンの荒野を疾走し始めた。
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1時間後、チームYを乗せたオフロード車は、銀河鉄道のエリオン臨時駅に到着した。駅には、すでに銀河鉄道の避難列車が到着しており、エリオンの住民たちが次々と列車に乗り込んでいく光景が広がっていた。アラン局長の尽力に加え、銀河鉄道ロイド支社が総動員で避難列車を編成したことで、住民たちの命は確実に救われようとしていた。
「カケル、見て!みんな、助かったんだね!」
ミリアムが、感動に打ち震える声で言った。彼女の瞳には、安堵の涙が浮かんでいた。カケルは、その光景を静かに見つめる。彼の脳裏には、崩壊する惑星のヴィジョンではなく、安堵の表情で列車に乗り込む住民たちの姿が鮮明に映し出されていた。
彼の予測能力が示した未来は、もはや「死」だけではなかった。ミリアムとの共鳴が、絶望の淵に沈みかけていた彼の心に、常に「希望」という選択肢を与え続けてくれたのだ。そして、その希望を掴むための「道筋」を、彼の能力が正確に指し示してくれた。
「ああ、助かった。これで、エリオンは再生の道を歩める」
カケルは、確信を持って呟いた。
ノアは、自身のタブレット端末で、GRSI本部への最終報告を送信していた。
「GMCの不正に関する全ての証拠と、装置停止のデータ、傭兵部隊の情報、そして私がコピーした不正の決定的な証拠データ、全て送信完了だ。これで、GMCは銀河鉄道から徹底的に調査され、不正の責任を問われることになるだろう」
イヴァンが満足げに笑う。
「ふん、ざまぁみろってんだ!金のためなら何でもするような奴らは、こうでなくっちゃな!」
エミリーは、静かに空を見上げた。エリオンの空には、もうあの不気味な「唸り」は響いていない。
「アラン局長も、きっと喜んでくれるわ」
カケルは、遠ざかる避難列車を見つめた。彼の脳裏には、あの顔を思い出せなかった保母の顔が、今でははっきりと映し出されていた。彼女は、穏やかな笑顔で、彼を見守っている。それは、エリオンの住民を救うという彼の行動が、失われた過去の傷を癒やし、未来への希望を与えてくれたことを示唆しているかのようだった。




