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GRSI-04 星を蝕むレガシー  作者: やた


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12.絶望の淵と一条の光

 惑星エリオンの地下深く、地質構造操作装置の不気味な脈動は、ますます激しさを増していた。カケルは、その脈動が、惑星の崩壊へと繋がるカウントダウンの音であると、はっきりと理解していた。


 彼の覚醒した予測能力は、最悪の未来しか示さなかった。エリオンは、あと3日で滅びる。そして、その星を守ろうとする彼らの前に立ちはだかるのは、強欲な企業の残した負の遺産と、証拠隠滅のために送り込まれた傭兵たち。


「どうする、カケル……このままだと、エリオンは……」


 ノアの声には、珍しく焦りが滲んでいた。GRSI本部からの連絡は途絶えがちになり、上層部が未曾有の惑星避難命令を躊躇しているのは明らかだった。彼らは、エリオンの住民を見捨てるだけでなく、過去の不正を隠蔽するために、傭兵を送り込む事を見逃がすという最悪の選択をしたのだ。


 イヴァンが、悔しそうに拳を壁に打ち付けた。


「クソッ!あの金の亡者どもめ!この星一つ、見殺しにするってのか!」


 エミリーもまた、静かに装置を見つめていた。その瞳の奥には、感情を押し殺したような、深い悲しみが宿っていた。


 カケルは、膝をついたまま、虚空を見つめていた。


 彼の予測は、完璧に「死」の未来を映し出していた。住民が逃げ惑い、星が砕け散るビジョンが、まるで現実のように脳裏を駆け巡る。その中に、何度も現れる、顔を思い出せない保母の姿。彼女は、瓦礫の山の中で、幼いカケルをかばうように抱きしめ、そして崩壊の炎の中に消えていく。


「俺は……俺はまた……」


 カケルの心に、絶望的な無力感が押し寄せた。リュミエールでの事件の悪夢が蘇る。あの時も、彼は「想定しきれなかった」ことで、ミリアムを危険に晒した。


 そして今、自分の予測能力が覚醒したというのに、エリオンの、そしてエリオンの住民たちの「死」を、ただ予測することしかできないのか?


 リーダーとして、仲間の命を、住民の命を、この星の運命を、救うための「道」を見つけられないのか?


 その時、カケルの隣に、ミリアムが静かに寄り添った。彼女は、何も言わず、ただそっとカケルの手を取った。その小さな手から、温かい体温が伝わってくる。


 ミリアムの空間認識能力は、カケルの絶望的な感情の「振動」を、敏感に感じ取っていた。彼女は、カケルが抱える重圧、そして彼が失った「記憶の穴」が、どれほど彼を苦しめているかを無意識に理解していた。


「カケル……」


 ミリアムが、そっとカケルの名を呼んだ。彼女の声は、普段の快活さとは違い、優しく、しかし確かな響きを持っていた。


「私には、まだ聞こえるよ。この装置の『悲鳴』……でも、その中に、すごく微かな、『希望』の『音』がする。カケルが、どんなに絶望的な未来を見ても、その奥に、必ず道があるって信じてる、カケルの『音』も聞こえるんだ」


 ミリアムの言葉は、カケルを突き動かした。彼女が感知する「希望の音」。それは、彼が今見ている「死」の未来の裏に、別の可能性が存在することを示唆しているのか?


 彼の能力は、これまで冷徹な論理とデータの積み重ねで未来を予測してきた。しかし、ミリアムの空間認識能力は、そこに「感情」という新たなレイヤーを加える。彼女の「音」は、ただ物理的な情報だけでなく、その空間に宿る「想い」や「可能性」までをも感知できるのだ。


 カケルは、ミリアムの瞳をじっと見つめた。その奥に、彼の顔を思い出せない保母の眼差しが重なる。保母は、常に彼に「希望」を与えてくれた。どんな困難な状況でも、諦めない心を教えてくれた。そして、ミリアムが今、彼の心の中に、その「希望の音」を見出している。


 ミリアムの空間認識能力が感知する「希望の音」が、カケルの予測能力と再び共鳴した。その瞬間、カケルの脳裏に映し出されていた破滅的な未来のヴィジョンに、微かな「光」が差し込んだ。


 それは、装置の内部構造の、これまで見えなかった「わずかな隙間」。そして、その隙間を突いて、惑星核の崩壊を回避するための「最後の手段」。それは、非常に危険で、わずかな誤差も許されない、奇跡に近い選択肢だった。


「……見えた」


 カケルは、立ち上がった。彼の顔には、まだ疲労の色が残るが、その瞳には、先ほどまでの絶望ではなく、確かな「光」が宿っていた。


「ミリアムの『音』が、俺に道を示してくれた。ノア、エミリー、イヴァン。まだ、諦めるには早い。この装置を止める方法が、一つだけある」


 カケルの声は、力強く、そして冷静だった。彼は、もはや自分の能力を疑うことはない。ミリアムとの共鳴によって、彼の「連鎖反応予測」は、単なる未来の「予測」を超え、隠された「可能性」を見出す力へと昇華していたのだ。彼らは、絶望の淵から、希望への一歩を踏み出した。

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