11.迫り来る破滅と政治の壁
地質構造操作装置は休むことなく、その不気味な「脈動」を続けていた。巨大なギアが錆びついたまま微かに震え、目に見えないエネルギーが惑星の核を静かに、しかし確実に蝕んでいく。
カケルの予測が示す通り、惑星の地殻には新たな亀裂が走り始め、エリオンの集落では、以前にも増して強い「唸り」と微震が頻発していた。住民たちの間には、漠然とした不安が広がり始めていたが、彼らには何が起きているのか、具体的な理解はなかった。
その頃、セントラル・オービタルに位置するGRSI本部。
アラン局長のオフィスは、緊迫した空気に包まれていた。彼のホログラムディスプレイには、惑星エリオンからの最新データが次々と表示されている。チームYからの報告は、もはや疑う余地のない、惑星核の崩壊を示唆するものだった。
「エリオンの地質構造は、もはや臨界点に近い。このままでは、3日、いや人間が生存できる時間はあと2日ない。直ちに緊急避難命令を発令すべきだ」
アラン局長は、通信回線を通じて銀河鉄道本社の幹部会議に接続し、強い口調で訴えた。彼の後ろには、ノアが収集したGMCの不正会計データと、カケルが送ってきた詳細な惑星崩壊の連鎖反応予測のシミュレーションが映し出されている。
会議室のホログラムには、銀河鉄道の各部署の幹部たちが映し出されていた。
「アラン局長。貴局からの報告は承知した。だが、惑星規模の避難命令となれば、前例のない大規模なオペレーションとなる。多大な費用と、銀河社会への混乱は避けられない」
投資計画部の幹部が、冷静だが感情のこもらない声で答える。
しかし、安全保障本部の幹部は、アラン局長の意見に同意した。
「GMCの過去の不正が事実であれば、それは看過できない。エリオンの住民の安全を最優先すべきだ。避難計画の立案を急ぐべきだろう」
だが、資材調達部など、GMCと長年にわたる取引関係にある部署の幹部たちは、依然として消極的だった。
「GMC社は、銀河鉄道のインフラ整備において長年の協力関係にある。彼らが公式に『安全処置を完了した』と報告している以上、その内容に疑問を呈し、責任を追及することは……現在のところ、非常に難しい。軽率な避難命令は、企業間の信頼関係を損なう」
幹部たちの間では、意見が真っ二つに分かれていた。安全保障本部や運行管理部といった、現場の安全を重視する部署は避難に賛成する一方で、投資計画部や資材調達部といった、GMCと経済的に深く結びついた部署は、この件を「大事」にしたくないという思惑が透けて見えた。彼らは、エリオンの危機よりも、企業イメージと既得権益を守ることを優先しているようだった。
「エリオンの住民の命が危険に晒されているのですよ!GMCの過去の不正が、惑星一つを滅ぼそうとしている。それでも、貴方方は彼らの『面子』を優先すると言うのか!」
アラン局長は、珍しく声を荒げた。しかし、会議は平行線を辿るばかりで、具体的な行動に移ろうとはしない。惑星エリオンの運命は、企業の利益と政治的な思惑の狭間で、宙に浮いたままだった。アラン局長は、彼らの硬直した態度に、深い絶望を感じていた。
その時、アラン局長を補佐するベテランの調査官が、静かにオフィスに入ってきた。
「局長、緊急の報告です」
調査官は、手元の端末を差し出した。ディスプレイには、銀河鉄道の運行経路から外れた宙域を、高速で移動する複数の所属不明のフライトシグナルが示されている。
「これは……」
「おそらくは傭兵部隊のフライトシグナルです。GMCの元役員たちが、彼らを雇い、惑星エリオンへと向かわせているものと思われます。恐らく、我々が装置を発見したことを察知し、証拠隠滅のために、装置の完全破壊、そして我々チームYの抹殺を企てている可能性が高いと思われます」
調査官の報告は、アラン局長にさらなる衝撃を与えた。銀河鉄道本社の一部幹部は動かず、惑星エリオンは刻一刻と崩壊へと向かっている。そして、その星を守ろうとするチームYには、隠蔽を目論むGMCの傭兵集団が迫っていた。
アラン局長の顔に、深い苦渋の色が浮かんだ。彼は、歯を食いしばり、固く目を閉じた。惑星エリオンの住民の命。そして、彼の最も信頼するチームYの命。全てが、今、絶望的な状況に追い込まれていた。




