聖歴 0401 1月2日
ーーとあるからの書籍から引用ーーー
二代目勇者レーヘンの英雄譚からちょうど400と1年。
過去の英雄譚を改めて編集するという事業のもとに、当時の英雄達の伝承を集積し、こうして一つの英雄譚として記してきました。
世界を征服し、人類根絶をしかけた魔王を討伐したーー勇者レーヘンはまさしく歴代随一の大英雄であると言えましょう。
さて、人類がもっとも危機に瀕した四百年前。
しかし、意外に思われるでしょうが、当時の人々は多くの資料を残してきました。彼らは人類の危機だからこそ何かを残そうとしたのでしょう。
人類連合の初代議員は、殆どのものが資料を残してきましたし。
勇者レーヘンもまた、日記はつけていました。
それは幼馴染であったライフズからの強い勧めであったことは、様々な媒体で記されており有名でしょう。錬成士であった彼の功績の一つであると、歴史研究達の間では語り草になっています。
始まりの戦いから魔王討伐、そしてその後も。
筆まめに記された日記は、後世子孫の手で公開され。貴重な研究資料として、表現の一つ一つまでもが精査されています。
『何かしらの暗号が含まれているのでは?』そんな陰謀論から『レーヘンノート』として映画化までされ、話題になりました。
有名な考察、勇者レーヘンはかつて錬成士ライフズと恋仲であったのではないかという考察は間違いであったことが明かされ。
それどころか彼女は、多くの資料で言及されるライフズの想いに全く気がついていなかったことは多くの者達に驚きを齎しました。
今でこそ元村娘の庶民派で鈍感、屋台での買い食いが趣味だったという親しみやすいキャラクターのレーヘンですが、その日記が発見される以前は礼儀正しく品行方正で高潔、完璧超人な勇者さまというイメージが強く。
古い演劇ではそのようなキャラクターとして演じられていた、なんて信じられますか?
日記で明かされた新たな秘密で言えば『姫騎士ワイス』が、魔族の恋人がいたこともでしょう。人間社会に潜伏していた四天王と恋仲であったことはーーロマンチックな悲劇の愛として取り沙汰されています。
このように、多くの真実が明かされる一次資料。
しかし勇者パーティーの頭脳であった『神官長』、連合王国第二王子ゾーニッヒは後世に残る記録は記していません。
だからこそ彼は謎多き人物であると、研究者達の知的好奇心を刺激されてきたのです。
過去にルーテシアという恋人を亡くしていたこと。
魔王四天王の一人を単身で討ち取ったこと。
多くの演説を行い、社交界には必ず出席していたこと。
確実と言っていいのはそれくらいでしょう。
だからある程度、他資料をもとにせざるを得ず。
『冷徹な合理主義者』や『貴族主義的な貴人』、『魔族嫌いの差別主義者』、そして『愛する女性を亡くした悲劇の人』や『慈悲深く寛容な王族』など、各媒体により性格や人間性に違いが生まれてしまうのが現実でした。
例えばワイセリア連邦で放送された人気ドラマ『姫騎士ワイス』では、最愛の恋人ルーテシアを失った彼は魔族嫌いの過激主義者であり、過激な提案ばかりする存在として描写されています。
それは当時の彼の演説内容を参考にしたからでしょう。
ゾーニッヒは、市民に魔族との戦いについて語り、市民の反魔族感情を煽り、魔王との戦いを有利にしたことは間違いなく事実です。
また、それが事実であったとはいえ、人類連合の議員として人間社会に潜伏していた魔族ーーワイスの元恋人であった男を裁判などにかけることなく私刑に処したことも。
今でも魔族嫌悪者は当時のゾーニッヒの演説を引用した発言を好んで使用していますし。彼らが行う魔族排斥などの印象もあるのでしょう。
まあ、魔族に人権が与えられた現代と魔王が人類を絶滅寸前で追い詰めていた当時と、同じ倫理で語ることは間違ってはいますが……。
しかし、例えばライフル公国で人気の小説『縁の下の錬成士』では、ルーテシアは実は魔族であったため、神官長ゾーニッヒは親魔族であったと記されています。
ライフル公国は英雄ライフズの興した国ですが、同時に彼の妻であった女性が魔族であったように、国内に多くの魔族も居住しています。それ故のプロパガンダと思われるかもしれませんが、しかしそれが妄想とは呼べないいくつかの理由が存在します。
ルーテシア。
王子であったゾーニッヒの恋人でありながら、彼女を記した資料がまるで恣意的に破棄されたかのごとく一切存在していないからです。
当時の王族の恋人は、従者や護衛などの資料に必ず存在が明かされます。姫騎士ワイスの秘密の恋人について、さまざまな資料で語られていたように、です。
ですから他の一次資料に一切語られないため、かつては存在自体が否定されていましたが、レーヘンの日記でその存在が明確に記されれ、実在が確定したルーテシア。
ではなぜ他の者達の資料には登場しないのか。
それは検閲がされたからではないのか、と。
そしてゾーニッヒが用いた、現代でも考えられぬ高度な回復技術。
存在を疑問視されては、ほぼ全ての一次資料に記されているという明確なソースで存在が実証される、あらゆる病、怪我を癒した秘術。
現代でも、当時も……そして人類の歴史に残る限り、人間社会に彼に並ぶ癒しの技の使い手はいません。たった一人で魔族の侵攻で傷つく兵士を癒し戦線を維持し続けた伝説の神の御技。それは実は魔族が開発した技術なのではないか、と。
また、あまり知られてはいませんが、後にゾーニッヒは『魔王は意外と悪いやつではなかった』と知古であったかのように語る資料もあることから、ルーテシアは魔王の縁者であり、だからこそ旧ソルト王国侵攻は人類攻撃の最後の最後になったとも言われています。
それが魔王の運の尽き、だったわけですが……。
最後には壮絶な殺し合いになった魔王と神官長ゾーニッヒ。全ての人を滅ぼそうとした男と、全ての人を癒した男。しかし、かつて二人はルーテシアが縁を繋いだ友人であったこともあったのかもしれません。
そして魔族のルーテシアこそが、人類が滅びなかった最大のキーマンであるのかもしれません。
しかし、後世の我々があれこれ議論しても、真実が明かされることはありません。ルーテシアがどのような女性であったか記録がなく、神官長ゾーニッヒが記した一次資料も存在しない以上。何が事実かどうかもまた、誰も知る術がありません。
所詮は考察の域を出ないからです。
しかし、確実なことは一つあります。
ゾーニッヒはルーテシアを深く愛していたこと。
そして魔王討伐からわずか一年後。
二代目勇者レーヘンは、旅の仲間である『神官長』連合王国第二王子ゾーニッヒと結ばれることです。
とはいえ、実際にはそれ以前から二人は交際はしていたそうで、当時発行された書籍には『勇者レーヘンは懐妊していたという噂』が記されたものが多く発売されていました。
二人な仲は当時の人々にとって当然のものであったようでした。
姫騎士ワイスの日記には、『レーヘンが当たり前のように神官長のベットを用いていた』という描写が記されていますし。
錬成士ライフズの日記には『以前から二人の距離が近く、レーヘンはいつも神官長の部屋に入り浸っていた』ということが記されていますし。
魔法使いバックルの日記には『レーヘンはいつも神官長の方を向き、時折、顔を近づけては小さな声で会話をしていた』と。
また当時の資料で四天王の奸計で追われる人となったレーヘンは、神官長の家に宿泊していたと述べていますし、彼女の日記帳にもそれがはっきり述べられています。
そして連合王国初代国王が記した手紙には『平民であるはずの勇者が、貴族的風習を理解し、神官長の父である自分に正式に話を通しにきたことへの驚きや、それが息子からアドバイスされたのでは、という考察』が記されています。
勇者レーヘンと神官長ゾーニッヒ。
二人の仲は大変仲睦まじいものでした。それはレーヘンの日記が公開された現代では常識でしょう。
何せ多くのエピソードで何かにつけて『神官長』という名前がでており、彼女の恋慕はあからさまに示されているからです。
時折ルーテシアに想いを馳せるゾーニッヒに、レーヘンはやきもきしていたこともあるそうですが。多くの子宝に恵まれた二人は仲睦まじく過ごしたと言われており、そしてその血筋はレーヘン朝として現代までこの地に君臨し続けることになるのです。




