プレイングメッセージ【後編】
「男の子の手に書かれていた二つの文字は」
彼女は駐車場に落ちていたスイカ柄の小さなボールを拾い上げた。
「おそらくこれでしょう」
「スイカ?」
「その子のは、きっとメロン柄」
彼女は薬局の入り口にあったアルコール消毒液を自分の手にかけて戻ってきた。
「このボールは、隣の病院で、来院した子ども向けに配布している、子供用のおまけのおもちゃだね」
隣の建物は病院で、入り口の自動ドアから見えるところに、おもちゃが詰め込まれた棚があった。一つ一つは廉価なおもちゃで、ボールの他にもシールや小物など、バリエーションは様々だった。
「そしてこれ、安物だから注意」
彼女はアルコールのついた手でボールを握った。
すると、ボールにプリントされたスイカの柄が剥がれ落ちた。
「この通り。アルコールで印刷が剥げてしまう。握った手には、ボールの絵柄が転写されてしまうのね」
「なんと。……ん?」
「気づいた?」
「この、ヒモみたいな記号は何?」
「ブタのしっぽに見えるわね。それも、二つ」
彼女の手には記号が二つあった。
リットル表記にも見えなくもない、線が一回転、宙返りをしているような記号だ。
「これはスイカの蔓ね」
「あー!」
「面白いことにこのボール、半球ごとに同じ絵柄を印刷しているようなの。だから、この絵柄は真横から見ないと成立しなくて、ボールを真上から見ると、蔓が二本生えているという奇妙な構図になるわ」
「なるほど」
「ヘタが二つ、アルコールで落ちる品質。どちらもタダで配られるおまけのおもちゃクオリティだからこそ」
製造の都合。廉価な粗悪品ならではの理由。
しかし、男児の手にあった文字は、ゴシック体の『イ』や『ト』のように見えた。
「そうか、だからメロンか!」
「そう。きっとメロンのヘタはT字だったはず。それが曲線的に描かれていたのではないかしら」
男児の手にあった文字の正体は、メロンのヘタだった。
「じゃあこのミステリーの真実は、男の子がアルコール消毒をしてすぐに遊んでいた証拠であって、あえていうならプレイング・メッセージってなところだね」
「ダイイング・メッセージみたいに言わないで」