プレイングメッセージ【中編という名の蛇足②】
出来上がったおかゆは、おかゆの概念を覆した。
そもそも手羽肉を使うおかゆとは?と疑問だったのだが、追求するのが怖くて向き合わなかった。
今、目の前に真実が提示されている。
これは、なんと描写すべきか。
僕が大学生の間にその答えに辿り着けるだろうか。
「さあ、召し上がれ。たあんと」
全く手をつけないのは言語道断許されないだろう。
僕は銀色のスプーンを手に取り、自分の所有する食器だが、なぜもっと小さい容積でないのかと内心で腹を立てた。耳かきほどの匙と、おちょこ程の椀で十分なのだ。普段から粗食を徹底しようと心に誓った。
「いただきます」
「いただく命の前に、私に感謝しなさい」
「あ、ありがとう」
攻撃力の強い言葉の応酬のおかげで、スプーンを口へ運ぶことへの逡巡が、うまく誤魔化せている気がする。
「どういたしまして」
彼女はとても満足そうである。その笑顔は、自身の理想とする彼女像になれた、自己実現を果たした充実感に満ち溢れていた。
それがとても可愛い。僕はこの笑顔のためなら歯や舌や喉や胃を悪魔にくれてやってもいいと思った。
ザリ。
これが咀嚼音だというのだから、驚きである。そしてさらに驚くべきは、彼女にも欠点があるということ。間違いなくこの地球上で最も美しい生き物である彼女は、すこぶる料理が下手なようである。
緩い米の中に、生米とおこげが混じっている。クッションの中にゴルフボールが混じっているような快適さである。その食感の妙味もさることながら、先のザリという音はそれがゆえではなく、「殻」の織りなす音色だった。卵が入っているところを見るに、僕は白い炭酸カルシウムの破片を噛み締めたようだった。破片と控えめに言ったが、もしかするとふんだんに使用されているかもしれず、ひょっとすると彼女は、鶏卵の可食率を100%とする啓蒙活動に余念がないエコロジストなのかもしれなかった。SDGsも裸足で逃げ出すことだろう。
「そういえば」
僕はようやく目の前のご馳走から思考を切り離すことに成功した。
「あの子大丈夫だったかな」
「あの子って誰よ」
「薬局で会った小さな男のこーー」
言葉の途中から彼女に視線を移した、自分の危機意識のなさに拍手を送ろう。
うなじにそよ風を感じたのは気のせいではなかった。
彼女はシャーペンを固く握りしめ、僕の首めがけて振り下ろしていた。
それを寸止めしていて、
「何歳くらいの子?」
彼女は何事もなかったかのように手を引っ込めて座り直した。
僕は自分の顔が青ざめるのを鏡もないのに認識した。
「……たぶん未就学児」
「症状が酷かったの?」
「いや、そうじゃなくてさ」
僕は数時間前にあった、ほんの少しミステリーだったことを彼女に話した。