夢その1
夢その1
自室のベッドの上で横になっていると、自宅の門の前にユキが来たのが分かった。
そのときすぐに、僕は夢を見ているということに気が付いた。その当時、僕は自分が夢を見ているときに、そのことに気が付くことができた。こういう体験や状態のことを明晰夢という。僕の部屋は実家の二階にあり、部屋の中からは家の前の道路を見ることができない。自分の部屋を出て階段の上の窓から玄関先を覗き込まないと誰かが来たことなど分からないのだ。それなのに誰かが来たことが分かったというのはおかしな話だった。
夢の中だからユキが来たことが分かったんだろうなと思いつつ、僕は自分の部屋を出た。廊下の窓を開けて玄関先の様子を窺う。家の前に真っ赤な車が停まっていた。僕のものでもなければ家族のものでもない。
ユキだ。
そう確信すると、階段を下りた。靴を履き、玄関の鍵を開けて外に向かう。家の前の道路に停まっていたのはマツダの赤いスポーツカーだった。現行のロードスターではなく、僕が子どもの時に製造していた車だ。名前は知らないが、その車のコマーシャルを見た記憶があった。
車の後部座席のドアを開けて、躊躇うことなく車に乗り込んだ。やっぱりそうだ。運転席に座っているのはユキだった。
「遅い。結構待ったんだけど」
そう文句を言うユキの姿を見て、やっぱり僕は夢を見ているんだと確信した。運転席のユキは高校の制服姿だった。そんなことはありえない。僕は高校どころか大学も卒業している。僕の同級生だったユキも同じことだ。それに女子高生が車の運転をしていたら大ごとだ。
「ごめん」
「まあいいけどさ」
「クラクションを鳴らしてくれたらよかったのに」
「近所迷惑でしょ、こんな時間に。もう十二時過ぎてるんだから」
「そうだよね」
夢の中なのにやたらと現実的なことを言うものだなと僕は感心していた。夢というものはよくできている。
「じゃあ行くよ。準備いい?」
そう言われて、僕はようやく自分の服装に注意を払った。僕はパジャマ姿でベッドの上に横たわっていたはずなのに、いつの間にか水色のシャツと濃い青のジャケット、黒のチノパン姿に変わっていた。便利なものだ。いつもこうやって家の外に出たら自動的に着替えてくれればいいのに。そう思いながら、僕はうんと答えた。




