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44 パーティでの初ダンジョン探索

 オルクルダンジョンの入り口横には、ブルターク冒険者ギルドの出張所が設けられている。そこでダンジョンの入場を管理しているのだ。ただ管理と言っても、冒険者証を見せて、予定滞在時間を告げるだけであるのだが……


「D級の方に……G級!?」


 佐瀬たちの冒険者証、と言えば聞こえはいいが、ただの木片に簡単な文字と管理番号が刻まれただけの見習い証を見せられた職員は固まっていた。このダンジョンは見習い冒険者が挑戦できるようなレベルではなかったからだ。


 しかし俺たちがハワード支部長の名を出すと、職員は態度を変えた。


「ああ、成程……支部長がそう言うのでしたら……」


 たったその一言で処理されてしまった。


 どうやら無謀な挑戦をする冒険者は珍しくないそうだが、流石にG級が三人もいるとなると無視はできない。だが支部長お墨付きだと分かると、職員はそれ以上追及してこなかった。



 そんな出来事があったが、気を取り直して俺たちはオルクルダンジョンへと踏み入れた。入り口はどこからどう見てもただの洞窟にしか見えない。


 だが、中に入るとそこがダンジョンだという事がはっきりと分かった。


「ふわぁ、これがダンジョン……」


 初めてのダンジョンにシグネは感動に身を震わせていた。


「中は思ったより明るいのね……」


「あ、壁や地面が所々ぼんやり光ってるよ!」


 佐瀬と名波は内部が想像より明るい事に安堵する。


「以前俺が入ったカプレットダンジョンもあちこちに光源があったな」


 ダンジョンの多くは洞窟型や迷宮型といった狭い空間となる為、どうしても灯りの心配をしがちだが、一部のエリアを覗いて視界はある程度確保されているそうだ。


 ただし罠で一瞬暗くなったり、局地的に視界の悪い部分もある為、灯りの代わりとしてそれぞれに火種を持たせていた。


(ま、俺の場合は【ライト】の魔法があるしな)


 日が沈んだ場合には重宝する光属性の魔法だが、ダンジョン内ではそうそう出番はなさそうだ。


「打ち合わせ通り、先頭が名波の何時もの配置な。ただし、罠は各自でも注意してくれ。シグネは怪しいと思った場所に【鑑定】だ」


「ええ!」

「分かったよ!」

「ラジャー!」



 こうして俺たちパーティの初ダンジョン探索が始まった。




 オルクルダンジョンの1階層は洞窟タイプで、広場と一本の通路があるのみだ。大抵のダンジョンは入り口に転移ポイントが存在する為、1階部分はどこも似たような作りになっている。


 唯一の道を奥へ進むと、下り階段が存在する。


 ダンジョンが地下に広がる仕様も大体一緒だが、場所によっては高層建築物でもないのに、ひたすら上がっていく(・・・・・・)ダンジョンも存在するそうだ。仕組みは分からないそうだが、ダンジョン内は空間や次元が捻じ曲がっているのか、明らかにどこかおかしい構造になっている。


 これだからファンタジーってやつは……


 階段を降り、2階層からは魔物が跋扈するエリアとなる。余談だが、冒険者たちはダンジョンの階層を地上2階、地下2階とわざわざ呼び分けず、ただ単に2階、3階と簡略して呼称する。


 実際に俺たちは階段一つ下に降りただけ……つまりデパ地下で例えると現在はB1Fにいる訳だが、ここではダンジョンの2階と呼称されている。現代日本人の俺たちだと少し困惑してしまう。


「奥の通路、右側に二匹、魔物がいるよ!」


 小声で名波が教えてくれる。俺たちはそれぞれ得物を構えながらゆっくり近づいていくと、向こうも勘付いたのか、曲がり角から顔を覗かせた。


「ゴブリン!? いや……ホブゴブリンか!」


 ゴブリンより二回りほど大きい亜人が二匹、こちらへ迫ってきた。


「【パラライズ】!」


 佐瀬がすかさず準備していた魔法を先頭にいるホブゴブリンに命中させた。


 グガッ!?


 麻痺の効果が働いたのか、先頭のホブゴブリンは倒れ込んで痙攣を始めた。続いて二体目のホブゴブリンは、その様子に気後れすることなくこちらへ向かってくる。


「たあっ!」


 名波がホブゴブリンの振りかざした棍棒を上手く躱すと、すれ違いざまに武器を持った右手を斬り付けた。堪らずホブゴブリンは棍棒を取り落とす。


「貰い!」


 俺の横を素早く駆け抜けたシグネが、無手のホブゴブリンにトドメを刺す。彼女の短剣がホブゴブリンの喉元に深く突き刺さった。


 グゲェ!?


 名波とシグネのコンビネーションであっという間に一匹討伐した。残りの一匹も佐瀬がナイフでトドメを刺していた。全く危なげの無い快勝である。


(俺、全く出番なかったなぁ……)


 一応フォローできるように準備をしていたが、その機会は訪れなかった。


 絶命した二匹の死体は、少し経つと淡い光を放ちながらゆっくり消えていった。


「本当にダンジョン内だと魔物は消えて無くなるのね」

「不思議だねぇ。あ、魔石落としてるよ!」


 ダンジョンで倒された魔物の死体は時間経過で消えてしまう。初めて見る不思議な光景に三人たちの視線は釘付けであった。


「ドロップは……無しかぁ」


 魔物の死体が残らない為、牙や毛皮といった素材の収集は一切できないが、稀に一部の部位やアイテムをドロップ……落とす事がある。


 死体を綺麗に倒せば100%魔物の素材が手に入る外とは違って、ダンジョン内での素材収集はなかなか難しかった。


 だがメリットもある。それは倒し方が限定されない事だ。


 例えば俺の【ファイア】で魔物を焼いてしまえば、野生の魔物であれば当然毛皮も黒焦げになり、素材を全て駄目にしてしまう。


 だがダンジョンはそんな事をいちいち気にする必要はない。素材が全く手に入らないか、運よくドロップするかの二通りであり、後者の際は倒し方に関わらず、全て綺麗な状態で手に入るのだ。


 それとドロップされるものの中にポーション類も含まれているのが大きい。稀に発見される一等(アンコモン)級ポーションであれば大怪我もたちまちに治してしまう、冒険者からすると大枚をはたいてでも欲しいマジックアイテムだ。


 更にどんな怪我や病気でも治せる秘宝(トレジャー)級ポーションを手に入れた暁には、一生贅沢できるだけの大金が手に入るとも噂されている。


 ダンジョンは長く深く潜れる力があるのなら、とても稼げる場所なのだ。


(ま、俺の全力ヒールなら、部位欠損でも完治できるけどね)


 ヒールで荒稼ぎする事もできるが、その手を使ったが最後、俺は一生貴族や王族どものヒーラーとして飼われ続けるだろう。そんな人生はまっぴら御免だ。



 再び俺たちは足を進めた。分かれ道の度に佐瀬は、街で購入した紙と羽ペンで簡易的な地図を描いていく。ダンジョン内の地図作成(マッピング)は彼女の担当となった。


「そのまま真っ直ぐの場所に今度は魔物一匹だけ……けど、大きい!」


 名波の報告に俺たちは再び迎撃態勢をとった。ダンジョン内部に光源があると言っても、奥の方は少し暗くて視界が悪い。ゆっくり歩きながら目を凝らすと、やがて一頭の牛のような魔物の姿を取られた。


「こいつは……聞いた事ない魔物だなぁ」


「んー、ランページバッカ、中型の魔物だって!」


 シグネが鑑定結果を伝えてくれた。どうやら【鑑定】では魔物の名前と大きさの分類くらいしか視えないらしい。


「ちょっと!? こいつで中型? かなり大きいんですけど!?」


 佐瀬の文句に俺も心の中で同意する。目の前の牛は俺たちが知る和牛と比較してもかなり大きい個体のように思えた。


 だが如何せん、この世界は竜が存在するようなファンタジー世界だ。ここでは東の森で遭遇したアサルトベアーなんかも中型に分類されるそうだ。これだと大型の魔物とやらは一体どれ程のスケールなのだろうか?


「来るよ!」


「く、【パラライズ】!」


 突進してきた牛の魔物改め、ランページバッカに佐瀬の麻痺魔法が命中した。だが魔牛の足が緩む様子はない。


「く、避けろ!」


 慌てて俺たちは左右に散った。幸いにも今いる通路は幅があったお陰で何とか突進を避ける事ができた。すれ違いざまに魔法をお見舞いしようと俺は後ろへ振り返ったが、魔牛はヨロヨロと速度を緩め、遂にはその巨体を横倒しにした。


「……ようやく麻痺が効いたのかしら?」


「どうやら、個体によっては麻痺が効くのに時間が掛かるみたいだな」


 何はともあれ、動きを止めた魔物は最早敵ではない。俺は奴に近づくと、剣をずぶりと首筋に突き立てた。少しの間もがき苦しんでいたが大人しくなると、やがて死体が消えていった。


「ドロップは無し。この魔石は……大きさや純度から察するにDランクか?」


「うん、私の鑑定にも≪Dランクの魔石≫って出るよ!」


 同じ討伐難易度でもホブゴブリンより手間を掛けさせられた感じだ。狭い場所でこいつと戦う時は注意が必要だろう。




 それからも俺たちは道を進んでは魔物を倒し、徐々に地図を完成させていった。一応簡易的な地図なら開拓村でも売っているのだが、信憑性が謎なのと、深い階層まで網羅された地図だとやたら高額なのだ。


 持ち合わせのなかった俺たちは自分たちでマッピングする事にした。意外な事に三人はそういった事に意欲的だ。


「私、こういうの得意だから任せて!」

「ダンジョンのマッピング……やってみたい!」

「私の鑑定で隠し通路を見つけちゃうぞぉ!」


 まぁ、三人がそれで良いと言うのなら俺も文句はない。別に最深部を目指している訳ではないので、飽きない内はダンジョンに慣らす意味でもそういった作業も必要だろう。



「それにしても、このダンジョンはバリエーションが豊富だね。ゴブリン、牛、スライム、植物……なんかコンセプトはないのかな?」


 名波の言葉に俺は苦笑した。


 確かに俺たちが遭遇した魔物は種族やタイプも様々だ。あの後、好戦的なスライム≪人食いスライム≫や、人食い花の≪ネイビス≫などと戦闘を行った。


 何れもDランクの油断ならない魔物だが、人食いスライムは天井に張り付いていたのを名波が見破り難なく倒し、ネイビスには多少の毒をもらったものの、火が弱いので俺の【ファイア】一発で仕留められた。毒は勿論【キュア】で治療済みだ。


「でも、いい訓練になるよ!」


「確かにそうね」


 ポジティブなシグネの発言に佐瀬も同意した。


(成程、支部長が勧めるだけはあるダンジョンだな)


 その後も俺たちはマッピングを続けながらゆっくり進んだ。暫くすると、下り階段を発見した。どうやらこの先は3階になるようだ。


「まだ二階の地図完成していないけど、先に進む?」


 佐瀬の問いかけに俺は少し考えてから答えた。


「今から3階に挑戦すると少し時間が厳しいかな。それならいっそ2階をもう少し回って、良い場所を見つけたらそこで野営するってのはどうだ?」


「「「賛成!」」」


 今日は無理せず、俺たちは2階のマッピングを続けて、丁度良さげな通路の行き止まりで野営をする事にした。


 ダンジョン内は安全地帯というものが存在せず、どうしても休む場所には気を遣うそうだ。


 ダンジョン内の魔物は討伐されて数を減らすと、徐々に再度魔物が増えてくる仕組みのようだ。ゲーム等に明るい者なら再出現(リポップ)といえば通じるだろうか。


 そのリポップ場所は限定され、不思議な事に探索者の至近距離で沸くようなトラブルはないものの、視える範囲で出現する事は稀にあるそうだ。なので油断して全員寝ていると、リポップした魔物に襲われるケースも考えられる。


 唯一安全地帯と呼べるような場所は、驚いた事にボス部屋だ。守護者と呼ばれる強力な魔物が守護する部屋でそいつを倒すと、再出現の間までは絶対に復活する事が無い。守護者以外の魔物もリポップしないので、一定時間は安全なんだそうだ。


 それをボスが”留守“している、もしくは”留守番“と呼ばれている。


 ただし、ダンジョンやボスによってリポップ時間は違うので、事前に調べていないと大惨事になるし、通常の魔物は絶対に沸かないが、冒険者が通行する事もある。人目のないダンジョン内で、呑気に寝ている者の傍に荒くれ者の冒険者が……何が起こるかは火を見るより明らかであろう。


 よってダンジョン内での野営では、必ず見張りを立てる必要がある。


 万が一の場合を想定して、俺と【察知】持ちの名波はバラける形で順番にローテーションを組んで寝る事にした。


「それじゃあ、先に寝るから宜しくな」

「留美、お願いね」


「まっかせなさい!」

「お休み、イッシン(にい)、サヤカ(ねえ)




 その後、何も問題なかったようで俺は時間までぐっすり眠る事ができた。この時間帯だと余り他の冒険者がいないのか、ダンジョン内は思ったよりも静かで快適であった。魔物のリポップには注意が必要だが、下手をすると外での野営より過ごし易いかもしれない。



 俺と佐瀬ペアが警戒に当たった時も魔物が近づく事はなかった。


(ふむ、低階層だと野営は問題なしか?)


 まだ決めつけるのは早計だが、思った以上に野営の負担が少ない事は朗報だろう。






 朝、俺たちはマジックバッグから取り出した朝食を食べながら簡単な打ち合わせをした。


 今日はこのまま昨日見つけた階段を下りて3階層をチャレンジするつもりだ。昨日のペースを考えると、朝から探索すれば5階層辺りまで辿り着けると俺たちは踏んでいた。



 朝食を食べ終わると、早速階段を下りて進んだ。情報通りだと、このダンジョンは10階層までは洞窟タイプと変わり映えしない筈だ。


 ただし、魔物の数と強さが徐々に上がってくる。


「接敵! 数は三匹、左通路から!」


 名波の声に反応して俺たちは武器を構える。このやり取りにも大分慣れたものだ。


「ケルピーか! あいつは確か——」


「——火や水に強くて雷には弱い、でしょう?」


 俺の言葉を遮るかのように佐瀬が口を開くと、【ライトニング】三連発であっという間に魔物を沈めた。


「ちょっとサヤカ(ねえ)! 私の出番を取っておいてよ!?」


「あ、ごめん。面白いくらいに雷が効くものだから」


 戦闘に全く参加できなかったシグネの抗議に佐瀬は苦笑いを浮かべた。


 ケルピーは以前、リンクス一家が腕試しの際に戦った水の加護を持つ馬タイプの魔物だ。火や水の魔法に耐性がある反面、雷魔法にはめっぽう弱い。


【ライトニング】は最下級魔法の中でも速射性が高い為、雷に弱い低ランクの魔物相手だと佐瀬は一方的に攻撃をする事が可能であった。


「あ、ドロップだ!」


「え? ほんと!?」


 名波の報告にシグネはすぐに表情を変え、ケルピーの遺体が消えた場所へと駆けていった。


「これは……お肉?」


「ケルピーの馬肉か!? あれ、美味かったよなぁ……」


 俺は肉の塊を拾い上げると、【ウォーター】で洗い流し、除菌の効果があるかは分からないが【キュア】を掛けてから肉をマジックバッグに仕舞った。


「ようやくドロップ第一号か。これは思ったより骨が折れるわね」


 昨日と合わせて既に10体以上討伐しているが、今回が初のドロップ品となる。確率は1割未満で、しかも得た物が肉だけでは割に合わないと佐瀬は愚痴をこぼした。


「こればっかりは運だからな。そういえばこの世界へ転移する際のスキル選択一覧に運とかラック関連のスキルはなかったよな?」


「ん~、私も記憶にないね。一心ファイルで確認してみたら?」


 名波の言葉に俺は眉を顰めた。なんか他人からそう呼称されるのは少し気恥しいが、俺は転移の際に選択できるスキルの全てを、一心ファイルにコピペしていた。


 尤もそんな大掛かりな作業をする余裕は当時の俺にはなかったのだが、どこかの誰かが纏めてくれたWEB情報をそのままコピペさせてもらったのだ。


 だから信憑性はと言われると少し自信はないが、今の所間違った情報は無さそうなのでそこそこ信頼している。


 ちなみにその一心ファイルだが、オリジナルの方はダリウスさんたちに預ける事にした。鹿江町内会の人たちならきっと有効活用してくれるだろう。それにファイル内の情報は既に俺の≪模写の巻物≫でコピーしてあるので何も問題はない。


 運関連のスキルについては今夜、見張りの時にでもファイルに目を通して確認するとしよう。




 そんなこんなで漸くドロップ品第一号を手に入れた俺たちは、そのままの勢いで3階層、4階層と進んで行くのであった。






――女神アリスと地球の代表者たちによるQ&A情報――


Q:異世界へ行ったら女神アリス様を讃える宗教を開いても宜しいでしょうか?

A:お好きにしなさい。ただし見返りは求めない事です

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