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208 危険な検証

 宇野事務次官から無事に報酬を受け取り、その日は新東京のホテルへ泊まることにした。ついでに新東京にいる元パーティメンバー、名波とシグネの様子を見る事にした。


 名波の方はタイミング悪く、丁度新日本国内にあるダンジョンへ遠征中らしく、今回は会えなかった。


 佐瀬経由からの情報だと、名波は新たにパーティを立ち上げ、鑑定士を一人スカウトしたらしい。今はその鑑定士を鍛えている最中のようだ。



 一方、シグネの方は9月から開校する探索者専門学校の試験を既に終えていた。


 試験内容は簡単な筆記試験に体力テスト、それと面談がある筈なのだが、シグネだけは何故か体力テストはパスされたらしい。どうやら運営側に関わっている長谷川氏の計らいのようだ。


「ぶぅ! 体力テスト、自信あったのに……」


(そりゃあ、そうだろうよ……)


 ハッキリ言ってシグネ級の実力者が生徒希望者の中にいるとは思えない。いや、試験を受けに来た子供たちどころか、その試験官や教師陣、現役冒険者たちをもぶっちぎった記録を叩き出すだろう。


 それを危惧した長谷川さんがシグネを悪目立ちさせないように体力テストを免除したものだと思われる。


 逆にシグネは目立ちたかったようだが……



 筆記試験の方はとても簡単だったらしい。


 シグネや一緒に試験を受けた聖香ちゃんから話を聞く限りだと、テストの内容は学力を測るというよりかは、どちらかというと探索者としての心得やマナーといった受験生の人間性を試す為に用意されたもののようだ。


 これで酷い結果を出すようでは、入学しても更生の余地無しだと判断されて落第し、早期の探索者活動への道が閉ざされる仕組みなのだろう。元は暴走気味の子供たちを教育する為に設立された学校だが、どうしようもない子供の面倒までは政府も見る気は無いようだ。


 シグネはまぁ、色々と無茶な事をする場面もあるが、決して悪事には手を染めないし、仲間思いの行動が出来る優しい子だ。


 同年代の子たちとパーティを組んでリーダー役となる事で、この先シグネが精神的に成長する事を期待するとしよう。






 翌朝、俺たち新生“白鹿の旅人”の四人はエアロカーで新東京を飛び立った。


「一旦ブルタークに戻るの?」

「そのつもりだが……街に戻る前に報酬アイテムの性能を見てみたいな」


 今回、宇野からは全部で5つのマジックアイテムを頂いた。


 実はその内の殆どは既に所持しているアイテムなのだが……2点ほど性能が気になるものが存在した。


「威力を試したいから何時ものブルターク郊外に行こうぜ!」

「ちょっと! あそこで試すつもり!? それは不味いんじゃない?」


 俺の提案に佐瀬が待ったを掛けた。


 佐瀬の言葉にケイヤも賛同した。


「イッシン。今、我が国は帝国と戦争中だ。そんな状況下で郊外とは言え、派手な魔法でも放ってみろ。街から兵士がすっ飛んで来るぞ?」

「うっ! そ、そうだった……」


 これは迂闊であった。俺もシグネの事は言えないな……




 と、いうわけで、場所をブルターク郊外から、新東京の東側にある適当な小島へと変更した。


「……うん。この島なら生命反応も無い。思いっきり試し打ちができるな!」

「あのアイテムの威力を試す訳ね?」

「ああ!」



 今回、宇野から報酬として頂いたアイテムは以下の5点だ。




【相愛の鎖】

二つ一組で互いの位置を指し示すアクセサリー。

限定的な道標として、大海を移動するのに使える。


ストック分は一応あるが、数が多いに越した事はないので報酬として選択。



【獣避けの壺】

一定以上の悪臭のみを吸収する便利な壺。


持ち運びトイレに常設されており、過去にブルタークにある女店主イーダの“精霊の矛“で入手済みの品だ。ただし、これまで1点しかなかった為、トイレを増やしたい女性陣の強い要望で報酬として選択した。



【撃砕のジャベリン】

魔力を込めて投げる投擲専用の槍。穂先に衝撃を与えると魔力量に比例した爆発を起こす。


この間行われたオークションで既に競り落とした品だが、今回もう一本を報酬として追加入手した。



【リベンジアーマー】×2

相手の攻撃を跳ね返す鎧。魔法は魔法で、斬撃には斬撃でと、同種の攻撃を相手に自動で跳ね返すが、一定以上の威力を受けると自身と鎧にもダメージを負う。


帝国領内での任務中に敵の騎士から一度は入手するも、壊れかけていたのでユーハンに譲渡した。




まぁ、新日本政府といえども、用意できるマジックアイテムはこのレベルが限界だろう。中にはマジックバッグなどの高級品もあったが、俺たちには不要な品だ。



「今更だけど、既に持っているか見たことあるアイテムばかりよね」


 それはそうなのだが……


「【相愛の鎖】は増やしておきたかったし【獣避けの壺】は……」

「「「――――絶対に欲しい(です)!」」」」

「……だよな」


 女性陣が口を揃えて言ってきた。



【獣避けの壺】の効果は、臭いを吸収するというだけであり、二等(コモン)級に過ぎないアイテムなのだが……これがどうしてなかなか、全く市場に出回っていなかったのだ。


 どうやらマジックアイテムの等級とドロップ率は、そう単純に比例するわけでもないらしい。


 さて、この臭いを吸収するだけの壺だが、実は俺たちがマジックバッグに携帯しているトイレに常設されていた。一定以上の悪臭を自動的に消してくれるこの壺は女性陣にも大変好評で、ダンジョン探索時でも何時でも快適に用を足せるよう、トイレ部屋の中に常に置かれているのだ。


 そんな大事な備品、【獣避けの壺】は今まで一つしかなかった。その為、パーティメンバーがそれぞれ別の場所に向かう際には、常備されているトイレの所有権を巡って小競り合いが起こるほどなのだ。だから、どうしてもあと一つが欲しかった。



【相愛の鎖】に関しては、あるだけ欲しい。王様との交渉次第だが、この先ちょっとエイルーンから離れ、遠出をしてみたいと思っていた。その際、互いの方角を教えてくれるマーカーの役割にもなる【相愛の鎖】は数が欲しかったのだ。



 そして【撃砕のジャベリン】だ。


 オークションでも落札し、既に一本持っているこのアイテムを報酬に選択した理由は……



「なんでこのアイテムも報酬に選んだのよ?」


 佐瀬が俺に尋ねてきた。


「実戦でいきなり使用するのはちょっと、な。どこかで一度、威力を試してみたかったんだ」


 このマジックアイテムの槍は込めた魔力量に応じて爆発を起こすというものだ。その威力は魔力量に比例するらしいのだが、槍自体の強度はあまり高くなく、大抵は一度の使用で壊れてしまうのだとか……


「俺の全魔力を込めて……どの程度の威力を叩きだすのか実際に見てみたい」

「まぁ、この島なら大丈夫だろうけれど……なるべく遠くに投げてよね」


 不安そうな佐瀬がそう注文を付けると、横にいた藤堂は不思議そうに首を傾げた。


「えっとぉ……そんなに危険なんですか?」

「……どうだろう?」


 自爆覚悟の全力魔法行使は俺も何度か行ったが、佐瀬の上級魔法ほどの派手さはないと思うのだ。しかし、念には念を入れておくべきか。


 だが、この槍を投げる前にもう一つ、同時に性能を試してみたい代物があった。


「的はこの【リベンジアーマー】にしよう!」

「え!?」

「イッシン、それは流石に……」

「ちょっと危ないんじゃぁ……」


 俺の提案に三人はそれぞれ驚き、困惑していた。


【リベンジアーマー】はあの”逆流”のホランとやらが身に着けていた相手の攻撃を反射する鎧で、俺の剣による斬撃も反射され、その際に右手を切断された。


 実際に俺が戦った時は斬撃や蹴りしか反射されなかったが、鑑定結果によると攻撃魔法の類も反射して相手にダメージを返す事が可能らしい。


 つまり、【撃砕のジャベリン】を使い捨てにして放たれる大爆発も反射する可能性があるわけだが……


「遠くから放てば、反射攻撃を避けるなり、最悪耐えるなりしてやり過ごせないかな?」

「うーん……どうなんだろう……?」


 実際に反射攻撃を体験したのは俺だけなので佐瀬は返答に窮していた。


「私はやめておいた方がいいと思うぞ? イッシン、君の魔力量は君が考えている以上に凄まじい。その魔力量で【撃砕のジャベリン】を使えば最悪、あの火竜以上の破壊力を生み出すぞ?」

「……そう言われると、ちょっと耐えられるか自信がなくなってきたなぁ」


 俺は対魔法耐性もなかなかだと自負しているが、ケイヤの説明を聞いて少し不安になってきた。


「あのぉ、今回は個別に性能を試してみては?」

「…………そうするか」


 藤堂にも説得され、俺は両者の性能を同時に試すのは危険だと判断して諦めた。


【撃砕のジャベリン】も【リベンジアーマー】も二つずつしかない。一つは使い捨て覚悟で今回試し打ちをし、もう一つは実戦用に取っておきたいのだ。




「まずは槍から試すか」


 俺はエアロカーを操縦して小島から距離を取った。


「この辺りか?」

「もっと離れた方がいいな」

「え? そう?」


 ケイヤが忠告してくる。


 どうもケイヤは俺の全魔力注入による【撃砕のジャベリン】の爆発をかなり警戒しているようだ。これでもかなりの高度を取っているのだが、更に小島から離れるように指摘された。


 ここは大人しくケイヤの指示に従い、エアロカーの高度を更に上げた。


「もっとか?」

「もっとだ! もっと! もっと……まぁ、この辺りか」

「…………島、豆粒になっちゃったぞ?」


 これはいくらなんでも距離を取り過ぎじゃない?


「このくらいで丁度いい。イッシンの魔力だと、恐らくあんな島、吹き飛ぶぞ?」

「それにしたって遠すぎだろう……俺、こっから陸地に当てられるかなぁ?」


【撃砕のジャベリン】は一定以上の衝撃を与えると爆発を起こすらしいが、海面に落ちても果たして上手く爆発してくれるだろうか?


 まぁ、物は試しと俺は全魔力を【撃砕のジャベリン】に注いでいく。エアロカーの動力源である魔法の黒球には既にいくらかの魔力を注入してあるので墜落する心配は無い。当分飛べるだけの燃料は入れてある。


「ふぅ……さて!」


 全魔力を注ぎ込み、空っぽになった俺は久々の気怠さに耐えながら槍を握って構えた。


「イッシン! 間違ってもここで爆発させないよね!」


 横から佐瀬が怖い事を言ってきた。


「……一応、防御態勢は取っていてくれ」

「おい!」


 佐瀬からのツッコミをスルーし、俺は豆粒のように小さくなってしまった遥か下界の島を標的に槍を投擲した。


「そい!」


 槍は風で煽られたのか、少し島から逸れて海面直撃コースとなってしまった。


「やべ! 槍は……ん?」


 槍が海面へと接触した、その瞬間――――


 ――――下界から凄まじい閃光が巻き起こった。


「うわっ!?」

「まぶしっ!」

「くっ!」


 眩い閃光の直後、今度は凄まじい轟音が巻き起こった。


 ズウウウウウウウウウウン!


 それに伴い、下から衝撃波や爆発による煙が超上空にあるエアロカーにまで到達してくる。


「やべっ! 上昇だ!」


 想像以上の規模の大爆発に、俺はこれ以上巻き込まれないようエアロカーを操作し、更に上空へと急上昇させた。




 …………しばらくして、爆発はようやく収まり、徐々に下界の様子が伺えるようになった。


「と、とんでもない威力ですね……」


 藤堂が冷や汗を流しながら下を覗き込んだ。島は……跡形もない。


「アンタ、一体どんな魔力量をしてるのよ!」

「これでも甘かったか……」

「いやぁ、まさかここまでの大爆発になるとは……」


 正直、俺は困惑していた。


 偶に俺が捨て身覚悟で強敵に放つ全力魔法とは比べ物にならない威力であった。


 これは推測だが、今まで俺が行使していた全力魔法は、恐らく実際には魔法というより、魔法もどきの暴走した余波なのだろう。だから魔力量に対して威力がしょぼかった(・・・・・・)のだ。あれで……


(い、今までの全力魔法は失敗作だったわけかぁ……)


 つまり、今回巻き起こした大爆発こそが、矢野一心の全力魔法の結果なのである。我ながら恐ろしい力を秘めていたものだ。


「よ、鎧の反射を試さなくて、良かったぁ……」


 危うくさっきの大爆発が一部とはいえ、反射して戻って来るところであった。


「だから言っただろう!」

「……はい」


 ケイヤに怒られてしまった。ぐうの音も出ねえ……


「島……完全になくなってるわね。津波までは起こって無いようだけれど……」

「さっきの爆発、新東京からも観測されちゃったんじゃないですか?」


 藤堂の言葉に俺はドキリとした。


「…………よし、逃げよう!」


 自衛隊からの偵察が来る前に俺たちはとんずらする事に決めた。






 場所を変えて、今度はだいぶ遠方の小島へと移った。


「こ、ここなら気兼ねなくテストが出来るな、うん!」

「「「…………」」」


 心なしか女性陣からの視線が妙に冷たい。


 俺は挫けずに【リベンジアーマー】を一着取り出した。


「その鎧は全ての攻撃を反射するのだろう? どうやって性能を試すつもりだ?」


 ケイヤが尋ねてきた。


「うーん、本当は魔法攻撃を反射させてみたかったんだが……」


 反射するという性質上、ここは万が一に備えて自己蘇生持ちの俺が実験役として適任だろう。防御力ならパーティ内で俺が一番なのは間違いないのだから。


「イッシン君の魔法……さっきのような爆発は、もう起きませんよね?」

「…………大丈夫だとは思うが、今回の実験は物理攻撃にしておこう」


 何かの弾みで俺の全力魔法が上手く作動した場合、あの規模の威力になってしまうのだと知ってしまった。知ってしまった以上、もう危険な博打は打てない……危機的状況に陥らなければ、だが……


「斬撃か……確かそれと同じ鎧を相手にイッシンは右手を切断されたと聞いたが……」

「本当に大丈夫なんですか?」

「だ、大丈夫だ! ちゃんと保険は掛けてある!」


 藤堂にはまだ話していないが、俺は蘇生魔法が使えるのだ。【リザーブヒール】と【リザーブリザレクション】は既にセット済みである。斬撃の反射だけであれば、どんなに高威力だろうと蘇生不可能とまではならないだろう……そうだよね?


「…………念の為、俺も【リベンジアーマー】を着ておこう」


 この鎧はマジックアイテムなので、かなりサイズの大きい鎧だが、着た瞬間鎧が身体にフィットするサイズに変化した。逆に脱ごうとすれば再びサイズが大きくなる仕組みのようだ。


 これは通常の鎧と違って装着が簡単で楽ちんだ。



「さて……じゃあ試してみるか!」


 鎧姿の俺は愛剣であるノームの魔剣を取り出した。


「これって反射した斬撃がイッシンの着た鎧に更に反射されて、ってならないかしら?」

「……なるかもな。危ないから一応俺から離れて見ていてくれ」


 確かに佐瀬の言う通りだ。反射の更にまた反射……十分起こり得そうな現象だ。


 俺の全力斬撃が一体何処に飛ぶのか分かったものでは無いので、他の三人には離れて見守ってもらう事にした。



「さて、では気を取り直して……せい!」


 俺は闘力8万オーバーの筋力をフル稼働させて地面に置かれた黒鎧に剣を振り下ろした。狙いは鎧の端っこだ。反射した場合、致命傷を避ける為である。


 剣が鎧の端っこを裂き、その直後――――


「…………あっ」


 何故か俺の……首が飛んだ。


「「~~~~っ!?」」

「きゃあああああああああっ!!」


 身体から離れた俺の頭部が、藤堂の悲鳴を聞いた。直後、すぐに意識が遠のいていく。


 視界が暗転して数秒か……数時間後か……時間の感覚がよく分からないが、気が付いたら…………


「…………生きてる?」


 いや、恐らく一度死んだのだろう。セットした筈の【リザーブヒール】と【リザーブリザレクション】が消えているのを確認した。


 斬り飛ばされた頭部は……新たに首から生えた訳ではないらしい。その証拠に、近くに俺の生首は見当たらない。どういう理屈かは分からないが自動で身体に繋がったようだ。【チートヒール】の仕業だろう。


「マジか……」

「イッシンのあほぉ!!」


 何時の間にか近づいていたのか、佐瀬が俺の背中を強く叩いた。


「馬鹿! 心配させるな!」

「わ、悪い……」


 恐らく俺の頭部は首から下のボディと泣き別れになったのだろう。そんなショッキングな映像を見せられた佐瀬は涙目になりながらも怒っていた。


 ケイヤも呆れながら俺に苦言を呈した。


「全く……かなり肝が冷えたぞ。ミツキなんか腰を抜かして号泣していたんだからな」

「ぐすっ! 生きてて……本当に良かった、ですぅ……」

「あー、すまん。本当にすまん。まさか、俺も首を飛ばされるとは……」


 前回は鎧に対して攻撃した箇所が反射の対象となっていたので、念のために鎧の端を狙ったのだが……何故か斬撃は首に返ってきた。誰も鎧を着ていない状態で試したからか、それとも俺自身が【リベンジアーマー】を着ていたからボディ部分を避けられたのか……正確な理由までは分からない。


「鎧は…………切断しているなぁ」


 的になった鎧の方はどうみても壊れてしまっている。直に触れてみてもマジックアイテム特有の魔力反応を一切感じない。切断された黒鎧は完全にその機能を失ったようだ。


 佐瀬とケイヤも興味深げに黒鎧を観察していた。


「つまり、これも使い捨てで一回限りのアイテムってこと?」

「しかし……イッシンが戦った時は二度も跳ね返されたのだろう?」

「威力に因るんだろうな。あの時、俺の初撃は全力じゃあなかったし、相手の鎧も大破はしていなかった」


「あ、あのぉ…………」


「それでも闘力8万越えのイッシンの攻撃を跳ね返すのだから、一度だけの使い捨てだと割り切っても、これはかなり使えるぞ!」

「反射攻撃はそっちの着ている鎧には来ていないようね? どこも壊れて無さそうだし……」

「ああ、こっちの鎧は無事なようだ。しかし、今後これを着ている奴には注意しなければ……」


「あ、あのー!!」


「「「…………はい」」」


 藤堂の大声に俺たち三人は検証を止めた。


「さっき、イッシン君の首が! 首が、飛んでましたよね!? あれって一体……!」

「「「あー、それは……」」」


 うーん、やはり誤魔化せなかったか……


「まぁ、もう隠す意味も無いか」

「隠しようがないでしょうよ」

「……うむ」



 俺は観念し、藤堂に蘇生魔法の件を暴露した。


 ついでに俺が今巷で噂になっている聖女ノーヤであることも告白した。




「ええ!? イッシン君が聖女!? だって、イッシン君は男の子ですよね? もしかして……女の子?」

「違うって! ほら、このアイテムで変身しただけだよ!」


 俺は久方ぶりに【変身マフラー】を取り出し、聖女ノーヤの姿へと変えた。


「あ、変身できるアイテムですか。そんな代物まで……。でも、どうして女の子に変身を?」

「……このマフラーは異性にしか変身できないんだよ」

「な、なるほど……ピーキーなマジックアイテムですね」


 まぁ、そのお陰で今のところ正体は見破れていないが……



「そういうわけで色々と秘密の多いパーティだが、それでも俺たちとやっていけそうか?」


 今まで隠し事をしていた俺は気まずそうに藤堂へと尋ねた。


「はい。正直、今日は色々と驚かされて泣かされもしましたが……」

「うっ!? 本当に悪かったって……」

「ふふ。でも、それ以上に今までない体験ばかりで、一度死んだイッシン君には悪いですが、とっても楽しかったです!」

「そ、そうか……。そう言ってもらえるなら、死んだ甲斐もあったかな?」

「イッシン! 調子に乗るな! アンタは自重しろ!」

「うむ。今日のイッシンは色々と迂闊過ぎだな!」

「ぐっ! は、反省します……」


 やはりチート回復能力を持つ身だからなのか、行動や思考も徐々に短絡的になっているのだろうか? 今一度、戒めなければ……



 色々とあったが、実験としてはまずまずの成果を得られたと思っている。


【撃砕のジャベリン】に【リベンジアーマー】、どちらも使い捨てのアイテムだが、その効果は凄まじいものであった。


(この武装なら、あの“氷糸界”にも届き得るか?)


 己自身の実力不足は否めないが、ワンチャン災厄を倒しうる武器を手に入れた俺は気分が高揚していた。




 実験を終え、エアロカーの進路をブルタークに向けて俺たちは帰路についた。






 日が暮れる前、俺たちの拠点でもあるブルタークの宿泊先【翠楽停】に到着した。


「俺、ちょっとギルドに顔を出してくるわ」

「分かったー。先にシャワー浴びてるー」


 シャワーは何時も女性陣が先である。それに慣れた俺は時間を潰す目的も兼ねてギルドに顔を出した。



 ギルドに入り、受付に街へ戻った事を報告すると何故か職員に呼び止められ、奥からハワード支部長が姿を見せた。


「戻ったか、イッシン! お前たち“白鹿の旅人”に指名依頼がある」

「え? 戻った早々に一体なんです?」


 指名依頼と聞いて俺は眉をひそめた。



 俺たちは今までそういった依頼を避け続けていた。そこはギルド長も一定の理解を示してくれており、あまりこちらに依頼を振る真似はしなかったのだが……


「悪いが、今回はちと依頼主が特殊でな。エイルーン王政府からも、出来れば協力してやってくれとお達しがきていやがる」

「王城から? もしかして依頼主って貴族です?」

「いや、貴族の関係者かまでは分からねえが……まぁ、話だけでも聞いてやってくれ。生憎、肝心の内容は“捜索依頼”としか俺も聞いてねえんだ」

「捜索依頼……」


 少し前に邦人の要救助者たちを捜索したばかりである。また似たような依頼をするのかと辟易したが、ギルド長の顔を立てる為にも話だけは聞いてみる事にしよう。



 俺はその件を了承し、明日にでも依頼主と面会する事になった。どうやら依頼主は外国からの来賓らしく、今はブルターク貴族街のホテルに宿泊して俺たちを待っていたらしい。








 翌日、俺たちはギルドの中に設けられた個室で依頼主と面会していた。


 意外にも、依頼主はまだ若い女性二人組であった。見たところ、二人はそれなりに戦えそうな雰囲気ではあるのだが……


「初めまして、“白鹿の旅人”の皆様。私はライカ・ブロッサム。こちらは同僚のドリー・ハレ―アと申します」

「宜しくお願いしますぅ」


 初見での感想だが、ライカと名乗った女性はキリっとしたタイプで、反対にドリーの方はおっとりとした感じだ。なんとも対照的な二人であった。


「“白鹿の旅人”のリーダー、イッシンです。よろしく。それで、捜索依頼だと伺いましたが、一体誰をお探しで?」


 早速俺が用件を尋ねるとライカとドリーは表情を引き締めてから口を開いた。


「その前に……失礼します。【サイレント】」


 いきなりの魔法行使にケイヤが剣の柄に手を掛けるが、それが防音の風魔法である事を認識するとすぐに姿勢を戻した。


「……いきなり魔法を使うのは慎んで欲しい。前職の関係でどうしても身体が反応してしまうものでね」


 ケイヤが苦言を呈するとライカは慌てて頭を下げた。


「こ、これは申し訳ありません! 私が考え無しでした!」


 ライカはすぐに謝罪した。どうも相手はこちらに対してかなりの低姿勢だ。それだけ、その“捜索依頼”とやらを遂行して欲しいという下心が透けて見えるようだ。


「一応私の【サイレント】で防音を施しましたが、これからお話しする内容は我々にとっても、そして貴方がたにとっても機密事項になり得ます。宜しければ、そちらも防諜対策をして頂いて構いませんが?」


 思わぬライカの言葉に俺たちは顔を見合わせた。


「うーん、よく分からないけれど、それじゃあ一応……【サイレント】」


 念の為、佐瀬も【サイレント】を発動させて音の結界を展開させた。これでこの部屋の会話が外に漏れる心配は皆無だろう。


 佐瀬の魔法を見たライカが彼女を褒め称えた。


「素晴らしいです。雷魔法が得意だと聞いておりましたが、風魔法も扱えるのですね。流石は“雷帝”殿だ」

「……どうやらこちらの情報はある程度調べているようですが、そろそろ肝心の依頼内容を教えてはくれませんか?」

「……失礼致しました。これは“白鹿の旅人”或いは“雷帝”殿個別への指名依頼です。その依頼内容は――――」


 ライカは一瞬言葉を止めると、真剣な表情でこちらの様子を窺いながら続きを述べた。


「聖女ノーヤ様の捜索です」


 とんでもない事を言い出してきた。

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― 新着の感想 ―
うーん、試した意味あったか? とんでもない威力になるのはわかってたのに。。。 2個あった切り札が1個になっちゃったじゃん。
うーん特定のされ方がそんな偶然あるかいいうくらい神か作者かに運命を仕組まれてる感があるからな、誤魔化しは出来なさそうだ。どうなるのか。
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